第十一話 クリスマスライブ

scene46 リハーサル

―大知―

クリスマスライブ初日。

今日は、朝早くから会場でリハーサルが行われていた。

正面のステージから伸びる花道の先に作られたセンターステージを二階の客席から見下ろす。

ステージ上では碧生がソロ曲の演出の確認をしていた。

「ここから見ると遠いよね」

隣にいた奏多に話し掛ける。

「顔の表情分かんないし。遠い存在って感じ」

「感傷的やな。また何か迷っとるん?」

聞かれ、いや、と首を振る。

ふと思い浮かんで、奏多に聞いてみた。

「奏多はさ、大切な人って言われたら誰が思い浮かぶ?」

俺の唐突な質問に奏多は首を傾げた。

「え、家族とか?」

「そうだね、家族も大切な人だよね」

「友だちとか。メンバーはもちろんだし」

「うんうん」

座席のクッションを下ろして座る。奏多も俺につられてか腰を下ろした。

「大知くん、恋しとるやろ」

「え」

おもむろに言い当てられ驚く。

「何で」

奏多は碧生が立つステージを見下ろしながら、いつものはきはきした口調で続ける。

「こないだ碧生になんか言われたみたいやけど、俺は別にええと思うよ。ファンの前ではファンが一番やって胸張って言えて、最高のパフォーマンス見せられたらそれでええねん。自分のほんまに大事な気持ちは、知られんように胸の奥にしまっておけば、さ」

言われ、自分の胸元に触れてみる。

「スキャンダルで叩かれるのは、ファンがショック受けるって分かってるのに隠さんからやろ。それは応援してくれるファンに対して不誠実やんか。裏切りだって言われても何も言えん。でも、両方大事に出来たらそれが一番ええと思う」

「そうかな」

「アイドルとしての大知くんも、一個人としての桐谷大知も、両方大事にしようよ」

大きな瞳で俺を見ると、奏多は悪戯っぽく笑った。

「迷ってばっかいると、大知くんの輝きが霞むで」

「……うん」

胸のつっかえが取れた気がした。

「ありがとう、奏多」


***

控室に戻ると、悠貴と千隼が着ぐるみの試着で盛り上がっていた。

「あ。お帰り、大知くん」

サンタクロースの衣装を着た悠貴が振り向く。

「どう?似合う?」

「良いんじゃない。ていうか、似合うも何も……」

テーブルの上に置かれた、アニメチックなサンタの頭部に目をやる。

「頭かぶるんだから、誰だか分からないよね」

ライブ終了後にサプライズで、ファンのお見送りにサンタとトナカイの着ぐるみを着て立つ事になっている。SNSでの盛り上がりを期待しての演出だった。

ライブは明日のクリスマス当日もあるから、今日と明日で三人ずつ立つ事になっている。

「でもさ、スタイルで分かりそうじゃないー?」

トナカイの格好をした千隼が割り込んでくる。

「トナカイの衣装ちっさいから、俺か、あおくんだってすぐばれそう」

「碧生に聞かれたら怒られるよ」

「あはは、ほんとのことじゃん。逆に、背高いからサンタはハルくんか大知くんって分かっちゃうよね」

言われ、悠貴の格好を見る。明日は俺が着る予定だった。

「あ、大知くん」

悠貴がスマホを差し出してくる。

「ちょっと写真撮って」

「うん」

サンタの頭部を小脇に抱え、ピースサインを出してくるのでシャッターを押した。

「ありがとー」

「SNSにでもあげるの?」

「ううん、眞白に送ろうと思って」

何げなく飛び出した名前に、どきりとする。

「眞白……今日、来るの?」

恐る恐る尋ねると、あっさりと頷きが返ってきた。

「チケット渡したし、終わったらご飯行こって約束しとるから」

「……そうなんだ」

写真を送信しているのか、スマホの操作に夢中になっている悠貴を見つめる。

「おーい、そろそろメイクするよー」

廊下から奏多が呼ぶ声がした。はーい、と千隼が元気よく返事を返す。

「うわ、脱がなきゃ」

慌てて赤い衣装を脱ぎ始めた悠貴に近づく。

「ねえ、ハル」

「ん?」

振り向いた悠貴の目を見つめる。

「頼みがあるんだ」

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