scene6 収録後
―大知―
どうにか収録開始時間には間に合ったけれど、動揺していたのか台本を読むのに随分噛んでしまった。
「あんなに噛んでる大知くん、レアやなあ。きっと放送されたら、ファンが喜ぶで」
スタジオから出たところで、悠貴がからかってくる。
「本当ごめん……時間見てなくて慌てちゃった」
「あはは、さすが大知くん。マイペースやなあ」
「ほんとだよね、気をつけないと」
「まあまあ、ええんちゃう。間に合って良かったわ」
控室で荷物をまとめ、電源を落としていたスマホのスイッチを入れる。同じようにスマホを触っていた悠貴が、あれ、と呟いた。くすくすと笑い始める。
「あー、そういう事かあ」
「え、何」
「大知くん、眞白に会ったんやね?」
どき、と心臓が跳ねた。
「何で……眞白、何か言ってた?」
声が上擦る。すると、悠貴は画像が表示された画面をこちらに向けてきた。
テーブルの上にぽつんと置かれたコーヒーが写っている。
「……あ!」
「大知くんの忘れ物、やって」
「あー……」
時間を見てあまりに慌て過ぎて、全く口を着けずに置いてきてしまったのだ。
「ごめん、って言っておいて……」
「言っとくわ。これから眞白と待ち合わせやし」
「あ、そうなの?」
「うん、ご飯行くねん。ラジオの収録って言ってあったから、近くのカフェで時間つぶしとったんやわ」
「そういうことね」
荷物をまとめ、上着を羽織る。
「何食べに行くの」
「んー、どうしよかな。実は眞白のおばあちゃんが東京遊びに来ててな。今から一緒に行くんやけど」
「へえ、おばあちゃんが」
「何か展覧会の絵を見がてら、孫に会いに来たらしいわ。何で俺までって思うんやけどまあ、眞白のばあちゃんとは顔見知りやからな。久しぶりに会ってくるわ」
「さすが幼なじみ」
「長い付き合いやで。…っと、はよ行かな」
急いでリュックを背負い、控室の戸に手をかけようとした悠貴が、ふと思いついた様に俺の方を振り返った。
「そうや、大知くんも今度ご飯行く?」
「ハルと?いいよ、いつでも」
「そうじゃなく。眞白と三人で」
「…へ?」
踏み出しかけた足が固まる。悠貴は戸を開けながら、くすくすと笑った。
「大知くん、眞白のこと気になるんやろ」
「え、何で」
「隠さんでもええで。じゃ、また計画しとくな」
「ちょ、ハル…」
例によって相変わらず、勝手にそう言い残して悠貴は廊下を小走りに駆けて行っってしまった。
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