黒い仲間

@rabbit090

第1話

 君が、心を揺らしたのはきっと、あの出来事のせいだろう。

 じゃなければ、そもそも接点なんか無かったし、ただ通りすがっただけの他人にしかなり得なかった。

 僕は何をしているのか、よく分からなかった。

 ただ漠然と大人になって、普通に会社に正社員として就職して、両親も喜んでくれたはずなのに、どうしても空っぽだった。どうしようにも、でもこういう時に友人に相談すると、お前には彼女がいないから、だからそうなるんだって決めつけてくる。

 けれど、どうしろっていうのだろう。

 僕は、女が嫌いだった。

 正直、母親ですら苦手だ。

 あの甘ったるいにおい、そしてこびたような矯正、わがままで理解ができない言動、偏った人間だけを見てきたつもりはない。彼女らの奥深く、いやもはや最前面にはいつもその影が滲み出ていて、恐ろしかった。

 そんな時、たまたま外回りの仕事があって、車で出たらその出先の会社で、何か、よく分からないけどスコップを手に持って穴を掘っている彼を見た。

 彼は、ちょっと話を聞いたら遅刻したから罰として雑草でもとってろ、と言われ作業をしているらしい。雑草は、根っから掘らないとまた生えてきてしまうため、そうしているらしい。

 彼が掘った穴は暗かった。

 そして、その穴を掘りながら、私に言った。

 「お前、暇そうだな。仕事無いの?なら、辞めればって話だよ。」

 確かに、仕事は無いけれど、でもそんなことを言われる筋合いはない。

 「今外回りなんです。お宅に届ける物があって、来ました。」

 「そうか、俺内部のことは何も知らないから、さあ、アルバイトなんだよ。はは、俺多分お前より若いよ。でも、しっかりしてるだろ?」

 「…は?」

 本当に、こいつ何言ってんだって感じだった。

 けれど、彼の姿には怒りが無かった。そう、そうやって軽やかに話す瞬間だけ、でも。

 僕は、彼を君、と呼んでいる。

 実際年下だったし、高卒でずっとアルバイトをしているらしい。

 君を、見た。

 社会人になって一年目、君を見た。

 暗い穴を掘り続けているその姿は、何か、怒りをはらんでいるように見えていた。その姿は何を意味しているのか、分からなかった。

 けれど彼には、何もない、ではない何かがあって、それに魅かれてしまったのだと思う。

 僕は、過ちを犯す。

 そして、

 僕は、君のためにしもべとなった。

 戻りたい場所が分かるのはきっと、戻れないと分かった時なのだと思う。

 君から逃れるためには、走り続けるしかなかった。

 時折、何から逃げているのか分からなくなったけれど、それでもずっと、走り続けていた。

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