第14話 親友ルーカスの手に光る鋼の輪にソンジェは・・・

 ルーカスは勝って知ったる美術館の理事長室で、そこがまるで自分の家であるかのような顔をして、気持ち良さそうに眠っていた。

 来客用の豪華な革張りの長椅子の上で、ヨレヨレの白衣を着たまま、器用に体を縮めて熟睡していた。


「相変わらず、お疲れのようですね」。

 いつもの事とは云いながら、少しあきれながらも秘書ジウォンは冷たい視線をルーカスに投げつけ、

「それでは私はこれで、失礼致します」。

と言い放つと、理事長室を出ていった。


 ルーカス・クワンユーはソンジェの学生時代からの親友で、国内各地に大病院を展開する医療財団の跡取り候補だった。母方の祖父が医療財団の理事長で、今はは精神科の勤務医として働いていたが、病院の職員はみな、彼が何者であるかを知っていた。

 

 驚いた事にルーカスは、見知らぬ少年の片手と自分の手を、手錠でつないでいた。


 子どものころからの知り合いなので、ちょっとやそっとのことでは驚かないソンジェも、ルーカスの手に鈍い光を放つ手錠を見つけた時は驚いた。


「ルーカス、お前、何をしているんだ!」

と叫ぶや、ルーカスを揺り動かし、鍵を探した。


「何でこんなことを・・・」と、鍵を探すが見つからない。

「いったいこの子は誰なんだ?」


 やっと目を覚ましたルーカスは、悪びれる様子も無く、

「ああ、この子は俺の患者なんだ。目を離すとすぐ病院から脱走しようとする。だから仕方なく手錠なんだ」と言った。


「ルーカス、ここは病院ではないんだ。こんな所を人に見られたら、まずいだろうが・・・。早く手錠を外してやれ。

 いくら病院から脱走すると言っても、これはやり過ぎだろう」


「彼の名前はジュンというのだが、彼は閉鎖病棟の患者なんだ。普通、閉鎖病棟から

逃げ出すのはかなり難しい。だけどこの子は気がついたらいなくなっていて、とんでもない場所で見つかったりするんだ」。

 

 「今日も気がついたら病院からいなくなっていて、ずっと探していたんだ。そしてお前の美術館の前でやっと見つけた。だからまた逃げられないように、こうするしかなかったんだ」

とルーカスは頭を振りながら言った。


「とにかく少し休ませてくれ」と言うと、ルーカスはまた眠ってしまった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る