第9話 少年ヨハン①
ヨハンは小さくて可愛いらしい、そしてよく笑う子供だった。
とても美しい子供で、子供が嫌いな人でも、ヨハンを抱いてその幼い唇に口づけをしたい欲望にかられた。
しかしヨハンは3才まで、まったく言葉を話さない子供でもあった。
小鳥のような意味不明の言葉と言えない言葉を発することはあったが、言葉を話さない我が子に、母親は日増しに苛立ちを覚えるようになった。
そしてヨハンに、つらく当たるようになった。
しかしあるとき、父親はヨハンが鏡に移る自分に話しかけている姿を目撃した。
「なぜ、答えてくれないの? 僕がこんなにお願いしているのに・・・」
「なぜ、答えてくれないの?」は、妻がよく息子に使うことばだった。
しかし、何かが違う。
「ヨハン、誰に話しかけているんだい?」
「僕のお友だち。いつも僕と一緒にいるお友だち」
父親は初めて、ヨハンが話すことばを聞いた。
そして息子が話せることを知った。
しかしヨハンが口を聞いたのはその時だけで、それからもヨハンは母親の問いかけには答えず、母親を無視し続けた。
小さな息子の強情さに父親は驚いたのだが、それでも息子を愛する気持ちに変わりはなかった。
ヨハンは口をきかなかったが、不思議なことに口をきかなくても周囲の人間の心がわかるようだった。たとえば、何か捜し物をしていたりすると、黙ってその捜し物を探してくれるのだった。そして必ず見つけ出し、黙ってその捜し物を差し出すのだった。
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