第5話 ゴブリンキングの苦悩

 そのゴブリンキングは2500頭の集団を率いていた。彼の母親は人族の娘であったが、先代のキングにさらわれ、キング専属の子袋として6頭の上位ゴブリンを生んだ。上位ゴブリンは人族の新生児とほぼ同等サイズで生まれるため、出産の負担は重く、6番目に子ジェネラルを生んだ直後に彼女は亡くなった。

 彼は1番目に生まれ、兄弟の中でも母親の記憶を多く持っている。優しく愛情をかけて育ててくれたこと、笑いかけてくれる顔、鈴のように綺麗な声で話してくれたこと。彼女が亡くなる前「キングちゃん、優しい王様になってね。大好きよ」と言ってこと切れたあと、彼は大声をあげて泣いた。

 上位ゴブリンを増やすためには、人族の女性が必要で子どもはその知能を受け継ぐ。環境適応力はゴブリンそのままに、統治指揮能力、魔術、器用さ、魔術全般に優れる上位個体は、群れが大きくなるときに不可欠であり、女性型ゴブリンが最下位ゴブリンしか生めないため、人族の女性がどうしても必要だった。

 人族女性の魔力が多ければ、雑魚ゴブリンとの間にも子キングふくめ上位ゴブリンを孕むことができる。 

 

 さて話を戻そう。彼すなわちキングは人族である母親が旅の途中でゴブリンの襲撃を受けて酷い目にあったことを聞き、このような悲しいことを繰り返したくなかった。

 しかし次代の上位ゴブリンは、損耗や巣分かれの為に必要だ。

 「ドウシタモノカ」今日も彼は一人呟いた。

  

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