ベッド以外の場所で、誰かと向き合うのは怖かった。セックス以外の言語を、俺は持っていないから。幼馴染のなつめに対してだってそうなんだから、正直名前さえ曖昧な清水さんに対してはなおさらそうだった。それでも清水さんの大きな目は俺を離してくれなかったし、ここからベッドに持ち込むのは不可能に思われた。

 「……俺は、セックス依存症なのかもしれない。」

 前から思っていたことだった、思っていて、これまで誰にも言えなかった。

 なつめを抱いてしまった日から、セックス以外では誰ともつながれなくなってしまい、それが怖くて女と寝てばかりいるのではないかと思っていた。

 清水さんは、しなやかな動作で頷いた後、俺を部屋に招き入れた。

 ベッドに連れ込んでくれればいいな、とぼんやり思ったけれど、ベッドではなくその手前にある白いローテーブルにつかされた。座椅子は深緑色のが一つあるきりで、清水さんはそれを俺に譲って、自分はフローリングの床にきちんと正座して座った。薄い身体をしているな、と、ぼんやり思った。

 「この前のこと、あまり覚えていないでしょう。」

 それは、質問と言うよりはただの確認だった。俺は、だから黙って頷いた。

 「そうよね。あなたは酔っぱらってたし。……そうじゃなくても、私のことなんてどうでもいいのは分かってた。」

 なにか、言わなくてはいけないと思った。それでも、言葉は出てこなかった。図星過ぎて。

 「あなたがセックス依存症なんだとしたら、それには原因があるはずだわ。……なにか、覚えはないの?」

 「……。」

 俺は、黙り込んだままだった。すると、清水さんはやっぱりよく光る目を静かに細め、タロットカードが必要かもね、と呟いた。それは。妙に悲しい言葉に聞こえて、俺はがむしゃらに口を開いていた。

 「寝たんだ。幼馴染と。」

 なつめとのことを、人に話すのはもちろんはじめてだった。死ぬまで誰にも話すことなく、墓まで持っていく話だろうと思っていた。いつまで俺がなつめと寝るのか、いつまでなつめが俺の側に居てくれるのか、それは分からないにしても。

 「今でも寝てる……ううん、今は寝てない。幼馴染が、忙しいって言って俺のこと避けてる。……多分。」

 曖昧な物言いになった。気が付いたら俺は、なつめとすらセックス以外の言語では接することができなくなっていて。セックスをして、それが終わったらゲームをするか漫画を読む、していることは寝る前と一緒なのに、そこはなぜだかすかすかだった。いつのまにか、その場にあったなにかがどこかへ流れ出してしまっていた。

 

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