それは聞いてない


(おいシヴァ。何かめんどくさそうな気がするから、

 さっさと用事をすませて帰ろう)


(まぁまぁそう急がずに。

 こういうときのキクオは口が軽いので好都合です。

 より良い情報が得られるかも)


(まさかお前、これを見計らって……?)


(ふふ。ルイちゃんのおかげですね)


(クッ!)


 キクオは黒いチョッキの衿口えりぐちを正している。

 わりと様になってるのがムカつく。


 なんだろう……服も所作も若干のイケオジ感がある……。

 ゴブリンでさらに性格がアレなのが悲しいな。


「ご注文は?」


「私はコーヒーで」

「ホットミルクだー!」

「俺はコーラで」


「かしこまりでござる!」


 キクオはささっと俺たちの前にドリンクを並べた。

 この手際の良さ、喫茶店としても普通にやってるな。


「さて、頼んでいた情報の件で話があります」


「デュフフ! 水浄化チップと換気装置でござったな!

 何でも拙者せっしゃに聞くでござるよ!」


 う、うぜぇ……。


「はぁ、じゃあチップから頼むわ」


「おぉ……そのアンニュイな表情、ゾクゾクするでござるな!

 ルイ女史は魔性! 魔性でござるよ!」


「おう!! ねーちゃんは魔性の女だぜー!!」


「そーだねー。サキュバスだからねー」


「その塩対応もたまらぬ。

 拙者たちの業界にてはご褒美でござる!」


「キクオ、それで肝心の場所は?」


「おおっと、これは失敬。

 まずはチップから行くでござるか」


 キクオはカウンターの内側からファイルを取り出した。


「これまた古風だね。紙の資料?」


「ハハハ、電子製品を使うより、紙の方が安全でござるからな。

 モンスターの中には、インターネットの中に住む者もいるでござる」


「はぁ? なんだそりゃ」


「本当よ。モンスターの能力は基本的に何でもありだから。

 機械霊なんて言われるグレムリンがそうね」


「何でもありにしても、限度ってもんがあるだろ」


「私に言われても」


「さて、天笠あまがさの水浄化チップは非常に高価にござる。

 基本的に、この手の高価な部品は少数の在庫しかもたない。

 組み立て施設から、必要とする施設に直送されるでござるよ」


「チップは在庫をもたない?

 それじゃぁ……」


「組み立て施設に潜入して、中の人に作ってもらうしか無い。

 キクオの説明だと、そうなりますね」


「マジかよ……ってことは」


「施設でチップの組み立て権限を持つ主任を見つける。

 そして、彼を籠絡ろうらくする。

 つまるところ、色仕掛けですね」


「それが俺。サキュバスの仕事ってことね」


「はい」


 やりたくねぇ……。


「そして次に出雲の換気装置でござるが……。

 こちらはチップよりは簡単に見つかったでござる。

 出雲の大型機材専用の配送センターにあるでござる。

 ただし、大きさが問題になるでござるな」


「農場のアレ、でっかいからなー!!」


「そうね。シンプルに大きさが問題になるわね」


「盗めたとしても、運ぶ手段が問題だな。

 トレーラーか何かが必要だ。

 俺はフォークリフトもトラックも運転できるが……」


「さすがは『奪い屋』ね。

 運転手の問題は解決したわね」


な。この体で奪い屋を続ける気はないよ」


「サキュバスの奪い屋でござるか!

 キクオの心もぜひ奪ってほしいでござるな!」


「ほら、こういう手合が出てくる。」


「納得。」


「グフフ、これは手厳しいでござるな!

 おっと、具体的な場所は資料にまとめたでござる」


 キクオはシヴァに資料がはさまれたバインダーを差し出してきた。

 彼女はコーヒーをすするのをやめ、資料の文字列の上に細い指をそわせる。


「換気装置に関しての所在は問題ないか。

 具体的な場所も判明しているし、輸送手段の確保だけが問題ね」


「配送センターなら、トラックの1台や2台はあるだろ?

 そこにあるものを拝借したらどうだ?」


「それはそうだけど、すぐに追っ手が来る可能性があるわね。

 もっとスマートにできないかしら?」


「ふむ……」


 俺は腕を組んで考えこむ。

 するとなぜかキクオの目の色が変わった。


 んっ? と思ったが、それも無理はない。

 腕を組むと、俺の腕は胸の下におさまる形になる。


 すると非常に胸の谷間を強調するポーズになるのだ。

 クソッ、油断してた!!


 キクオを喜ばせても一銭の得にならない。

 俺は腕をほどくと、とりあえず思いついたことを口にする。


「その会社のトラックを持ち出せば、すぐにばれて追跡も来る。

 なら……取引先のトラックを使うのはどうだ?」


「取引先?」


「たとえば――天笠製薬のロゴが入ったトラックを」


「なるほど。考えましたね。

 それなら出雲も調査に慎重になるでしょう。

 きっと追跡の開始が遅れるはず」


「だろ? ただこれをするなら、

 必然的にチップの回収を先にやることになるな」


「そうなりますね。

 では天笠あまがさ製薬から行動開始ですね」


「ルイ氏は本当に知的でクールでござるな。

 そなたの周りだけ、涼しい風が吹いているようでござるよ」


「ルイねーちゃんはクールでカッコイイんだぜ!」


 む、ちょっと照れて頬が緩みそうになった。

 そこまで褒められると悪い気はしない。

 

 奪い屋をしていた時は、あまり褒められることはなかった。

 嫌われたり、恐れられることはあっても、好かれることはない。


 サキュバスになってから好意を向けられることが増えた。

 俺はそれに慣れていない。


 そのせいでこういうとき、どうしたら良いかわからない。


「まぁ、ありがとう」


「では行動開始と行きましょう。

 目指すは天笠製薬の組み立て施設の主任のところです。

 ルイさん、頼りにしてますよ」



 はぁ……色仕掛けねぇ。

 ほんとにやるのぉ?





※作者コメント※

もろもろの事情で更新が夜までズレこみました。

いやはや申し訳ない。


TSで色仕掛けしなかったら、TSの意味がない。

この道10年の専門家もそう仰っている。

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