【契約血清】サキュバスになった俺と、モン娘たちの戦闘日記。
ねくろん@カクヨム
奪い、奪われるモノ
契約血清
『ルイ、始めるぞ』
「うーっす。こっちの準備はいつでも良いぜ」
俺は無線で相棒のギルマンと連絡を取り、ターゲットの車両を待ち受ける。
今回の任務は車両が積んでる「契約血清」の強奪だ。
「――あれか」
俺の手元の端末に偵察ドローンからの映像が来る。
映像に映っている車両はかなりの重装甲だ。
『かなり厳重だな。よほど大事なものらしい』
「ほとんど戦車じゃねぇか。どんなモンスターの血清を運んでんだ?」
『わからん。だが相当な大物だな』
ある日突然、俺たちの世界は変わってしまった。
――「モンスター化症候群」。
人が突然正気を失って
そういった奇病が現れたのだ。
モンスター化は止められず、治療法もない。
人々はこの奇病に恐れおののいた。
各国の政府はこの奇病を研究したが、特効薬は見つからなかった。
ただひとつ「弾丸」という薬を除いて。
だが倒したモンスターを調べるうちに、研究者はあるものを見つけた。
それが「
この血清は死んだモンスターから抽出されるものだ。
これを使うと、人間は理性を持ったままモンスターの力が手に入る。
強力な血清を入手すれば、そいつは人生を良い方向に変えられる。
そのためすぐに血清は高値で取引されるようになった。
すると当然、血清を狙う者たちが暗躍するようになる。
つまり――俺たちだ。
「ルイ、目標がポイントに来たぞ」
「うす。爆弾を起動するわ」
俺は手元の端末を操作する。
その瞬間、道路脇にあらかじめ
爆炎は車両の何倍にも膨れ上がって襲いかかり、爆風で車を横転させた。
『……ルイ、やりすぎじゃないか』
「聞けよギルマン。何もやらないより、やりすぎて後悔したほうが良いんだ」
『いい話にするな。血清が吹き飛んでたら、その分はお前の報酬からさっ引くぞ』
「マジかよ」
俺たちは爆風で横転した車両に近づいていく。
みると運転席のガラスはヒビが入って血まみれだ。
あれじゃ生きていまい。悪く思うなよ。
「荷物を調べよう。ギルマン、援護してくれ」
「了解、気をつけろよ」
俺は車両のリアドアを工具を使ってこじ開ける。
すると荷台では、たくさんのケースがひっくり返っていた。
「おい、このケース……
「金払いが良いわけだ。暗黒メガコーポにケンカを売るとはな」
「闇を感じるなぁ。
「あぁ……危ないッ!」
「え? ――グアッ!!」
俺は強い衝撃を受け、道路に倒れ込んでしまった。
何が起きたか分からず立ち上がろうとするが、何かがつっかえる。
(ん……何が?)
見るとひん曲がった大きな金属の破片が、俺の腹に突き立っていた。
破片はアーマーを貫通し、赤い染みが無慈悲に広がり続けている。
「……はい?」
この世界のどこに、これが突き刺さる要素が?
俺は頭に疑問符を浮かべ続けた。
しかしそれもそう長く続けられなかった。
というのも、背後から獣じみた
「ウルァァァァァ!!!!」
俺の耳に獣のような叫び声が飛び込んでくる。
声を発していたのは、
(ありゃライカンじゃねーか!――なんでモンスターが?)
ライカンとはライカンスロープ。
ライカンは人間をはるかに超える知覚と素早さを持っている。
ヤツを見ると、その後ろにドアの吹き飛んだ運転席がある。
そうか、運転手がモンスターの血清を使っていたのか!
ライカンの血清は偵察兵やガードマンがよく使っている。
運転手がそのまま荷物の護衛だったのか!
「こいつ!!」
<ダカダカダカンッ!!>
ギルマンが腰だめにオートショットガンをぶっ放した。
しかしライカンは弾が届く位置がわかっているように
ライカンは知覚に優れているんだったな。
それなら……!!
「ギルマン……目をつぶれ!」
「よし!」
さすが相棒だ。
ギルマンは俺が何をしようとしてるか分かってる。
俺はフラッシュバンのピンを外して道路に転がした。
直後、激しい
俺が投げたフラッシュバンは
こいつは激しい閃光と爆音をまき散らす。
訓練を受けてない人間なら、数十秒は動けなくなる。
人間がそうなんだ。
それ以上の感覚を持つモンスターなら、もちろんひとたまりもない。
ライカンは閃光と爆音をまともにくらい、地面に伏せていた。
「くたばれバケモン!」
ギルマンは怪物の頭にショットガンを密着させ、引き金を引いた。
<ダカン!!><ダカン!!><ダカン!!>
何発もの銃声がひびき、アスファルトの上に鮮血が散る。
怪物は全身を一度大きく
「ルイ……平気そうには見えないな」
心臓から空気が抜けるような感覚がする。
出血で血圧が下がっているのだ。恐らくそう長くは持たないだろう。
「……ゴフッ!」
血を吐いた俺の手をギルマンが握る。
「――ルイ、よく聞け。『はい』なら握り返せ」
「……」 俺はギルマンの手を握り返した。
「モンスターの血清は、人間をモンスターに作り変える。
モンスターは人間より頑丈だ。
だから今すぐ血清を打てば……その傷でも助かるかもしれん」
(モンスターの血清を……?)
何が入っているかもわからないモンスターの血清を打つ。
それはあまりにも危険すぎる。
しかし――
俺の脳裏にある少女の顔が浮かぶ。
幼い頃の記憶。まだこの世界が正常だった頃の――
だめだ。俺はまだ死ねない。
「……!」 俺はギルマンの手を強く握り返した。
「わかった。今打ってやるからな。」
ギルマンは車の荷台から、天笠製薬のロゴの入ったケースを引っ張り出す。
そしてケースの中から青色の液体が入ったアンプルを取り出した。
あれが血清か。……きれいだな。
彼は同封されていたガンタイプの注射器を取り出し、血清をセットする。
そして注射器の先端を俺の首にあてた。
「死ぬなよ相棒」
そういって注射器の引き金を引く。
首にチクッとした刺激がきて、俺の体で何かが始まった。
体が熱くなる。
骨も肉もドロドロになって体を作り変えられるような――
「……こ、これは!! おい、しっか――」
遠くなっていくギルマンの声を聞きながら、俺は意識を手放した。
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