5話:俺から私になろうと思います
さっすがストア神よ!!
車でタワマンに着くと、俺は心の中でガッツポーズを決め込む。
理由は言わずとも。
五香さんと話しながらストアで確認したけど、変身、幻術系統のスキルだけでも⋯⋯既に108以上の検索結果が出た!
これはどうにかなりそうだ!
「まぁ、一旦家に帰る前に⋯⋯ちょっと飯の場所でも見るかぁ、折角タワマンの一員になれたんだし」
そうして俺の足はエレベーターの方へではなく、右側の食事エリアの方へ進む。
歩いて2,3分。すぐに食べ放題の絵面が見えてきた。いやー、これ全部食べていいだなんて幸せでござる。
注文がメインっぽいけど、トレイを持って好きなのを取って食った方が絶対いいよ。そこに座っている金持ちさんたちよ。
ティラミスとメロンソーダを用意してテーブルに着席。
座るとすぐに人がやってくる。
「何かご注文なさいますか?」
「あ、なら⋯⋯」
そう言って俺は結局プラスパスタを頼み、街ち時間の間に確認する。
「んー⋯⋯」
やべ。あり過ぎても問題だぞ。
どれが良いのかわからん。
どれがオススメだろう。
今のところは姿を変えるだけではあるのはそうなんだけど、最近はオドとか覚える事が出来るようになってからは割と冒険者っぽく色々やってみたいなと思っているのも事実だ。
ということは、性別を完全に変えられた方が絶対的に良いわけだな。それを前提に見てみよう。
するとかなり数が絞られ、更に色々調べた結果⋯⋯最後に残ったのはスキルブックの『完全性転換』だった。
これは性別を完全に変えることが可能で、それに加えてスキルや力などは特に変わらない。
制限時間は特になく、自身のタイミングで性別の切り替えが可能だ。
だが、問題はほとんど残りのコインを使う羽目になってしまう。
「まぁー仕方ないか」
これさえどうにかなれば、冒険者活動も無事になるし、外に出てもほとんどバレない。
説明欄には、完全に切り替わると記載があるし、スキルや探知で引っかからないとも書かれているからだ。
ピロン。
[スキルブック:完全性転換を購入しました]
[残りコインは5012コインです]
まずいなー。もう少ない。
ていうか、売るもの無かったら俺⋯⋯最初で詰んでなかった!?
さて、パスタが届いたら部屋に戻って使ってみるか。
*
それから次の日。
また俺は五香さんの所へと来ている。
そして笑う五香さんの瞳には、黒髪でどう考えてもロマンス主人公顔負けのクール美女が映っている。
「凄いね⋯⋯貰ったの?スキルオーブ」
「そうなんです! 中々凄いですよね?」
我ながらこれは凄いぞ。
完全に女性だ。
声や骨格も完全に女性で、ブツはない。
これなら色々と行動範囲が変わるぞ!
「分かった、それならこちらも色々やるべきことが増えそうだね。入手は違法じゃないんだよね? それだけ確認させて欲しい」
「勿論です、確認してもらっても大丈夫です」
別に変なサイトを使っているわけでもないし、行動履歴的にも怪しい部分はほとんどないわけだから。
「うん、了解。ちょっと色々掛け合ってみる。もし使いたい名前があったら今の内に考えておいて? 使えるかまだわからないけど」
「了解しました!」
「それで⋯⋯確か色々ダンジョンに潜りたいという話だったね?」
「そうです、ちょっと体も動かしたいなぁーと思いつつ、結局1回目のダンジョンでユニークに巻きこまれたので⋯⋯自分のスキルとか色々、使いこなせてないままです」
なるほどと五香さんは苦笑いを浮かべた。
冒険者としてはかなり可哀想だと思ってくれたっぽい。そんな反応だった。
すると五香さんが首に掛けるタイプの認証カードが入っているモノを渡してくる。
「これは?」
「これは臨時でギルドマスターである僕なんかが無断で入ることの許される奴。だから問題は起こさないでおいてよ?」
鼻で笑いながらそう説明する五香さん。
「ありがとうございます!」
「うちもかなり利益が入ったからね。これくらいはさせてもらわないと。まぁこんな形だ⋯⋯色々頼んでしまうかもしれない」
⋯⋯それはそうだな。
完全な姿形を変えられるわけだから、この間話したポーション関連も始動させることができるのは間違いない。
「そうそう、そういえば聞きたかったんだけど」
「⋯⋯? どうしました?」
「あえて聞かないようにしていたんだけど、サポーターは作る予定があったりするかな?」
「サポーター? あ、えーっと⋯⋯」
なんだったっけ?
そう思って鞄から教本を取り出そうとすると、五香さんが止める。
「あ〜大丈夫だよ、サポーターはね?」
──サポーター。
それは冒険者の戦いを手伝う為の存在。
戦闘で魔石やその他のドロップ品を回収する役目を持ち、売却時にその報酬の一部を貰うという形。
大手クランだけではなく、弱小クランなんかでも使うくらいの一般化している呼び名である。
「なるほど⋯⋯自分がサポーターを雇う、ですか」
「まぁ別に個人の自由だから別にどうってわけじゃないんだけど、やっぱりある程度の実力まで伸びると回収役は必要だと思うんだよね?」
まぁソロが良いと思っているけど、確かに五香さんの言うとおり、あのキラーラビットの時なんかは⋯⋯マジで地獄だった。
狩っている時間より拾ってる時間のほうが長かったから。
あの時ばかりはサポーターのような人材が欲しくなったな。
「確かに必要と感じる場面が多いですね。そのサポーターは何処で取引というか契約が出来るんでしょう?」
「まぁギルドからも出来るけど、実はサポーターは一般化こそされているものの⋯⋯」
⋯⋯?
五香さんが言葉を考えているように見える。
「どうかしたんですか?」
「実はね、八王子だけじゃない話だけど、今全国に一定数の貧民街があるのは知ってる?」
⋯⋯貧民街? そんなのあったっけ?
「知らないです」
「まぁそんな事だろうと思った。煌星くんは一体、どうやったらそこまで知らずにここまで育つ事が出来たんだか、そこの方が気になるよ」
失敬な。こちとら引きこもり人権No.1の男ですよ。
「僕が何故ギルドの車で君を来させている分かるかい? 今絶好調で冒険者と一般人の差別が起こっていて、それに対してのデモ運動が活発になっているんだ。はぁ、ただでさえ上位冒険者を集めるのに大変な時だってのに、そこまでするかね?普通」
やっべ。全然知らなかった。
⋯⋯差別なんてもうないと思ってた。
今現状、そんな事が起こっているんだ。
「それでそのサポーターって?」
「あーそうそう。要は、貧民街でも募集していて、そっちは格安だったり、ピンキリで契約していたりもするから、そっちもあったりもするよ?って話。一般化こそしているものの、そういう背景もあるから、色々自分で選んでみて?
三神も、どうせタワマン生活で何もしていなさそうなのは予想できるから、そういう時こそ三神に聞いてみるといいよ」
「確かにそうですね、聞いてみます」
「三神はああ見えて滅茶苦茶優秀だからね?そういう関連は僕も聞くぐらいだから」
⋯⋯やっぱり三神さんってすげぇ人だったんだな。俺、そんな人をタワマン住まわせて良かったんだろうか。すげぇ心配になってきたんだけど。
「そしたら今日はこれで終わろうか? 話もだいぶ長くなったし」
「あぁ、こちらこそ時間を取ってもらってありがとうございます」
「いいって、ポーションの件、これで解決しそうだから⋯⋯お礼とまでは行かないけど、今度色々プレゼントを用意しておくよ」
⋯⋯ありがとうございます、めちゃくちゃ助かりますぜ、ギルド長。
「ありがとうございます!」
「それじゃあ今日は解散だね、鈴木くん、お得意様がお帰りになるよ」
「はい!」
*
鈴木さんと一緒に車で俺はタワマンへと向かう。
車内から窓の向こうを眺める。
俺はさっき話していたサポーターについてと貧民街の話を思い出す。
⋯⋯今の時代そんな事になったいただなんて、全く知らなかった。
「ギルド長の話が気になりますか?」
自分が珍しく真顔で外を眺めていたのが目に入ったのか、鈴木さんが声をかけてくれた。
「ええ、貧民街なんて昔の話だとばかり⋯⋯」
「むしろ最近は落ち着いていますよ? 数年前なんかはもっと過激で、ギルド職員の何百人もが亡くなっていたりします」
「そんな事あるんですか? 冒険者は、ステータスで強化されているでしょう?」
そう言うと鈴木さんは確かにと笑う。
だがこう続ける。
「彼らは逆に銃や爆弾を平気で使って、私達を攻撃したんです。あくまでこちらは手を出さなかったのに」
「なるほど」
なんて話を聞いたんだ俺は。
そんな話を聞いた後に貧民街で取引なんて出来るか?
「貧民街で取引なさるなら、私が仲介しましょうか? 安全エリアなら、私も数回契約して潜ったことがあるので」
「本当ですか?」
話を聞いてみると、どうやら鈴木さんはギルドで働く前はB級冒険者で活動していたらしい。
そこでサポーターも雇ってソロで活動していたが、ある程度いったところからA級冒険者たちにダンジョン内で喰われそうになったことから、引退してギルド職員として働こうと決心したとのことだ。
その経験から安全エリアと危険エリアの2つがあると話してくれた。
安全エリアは、全員がそこそこ金を持ってはいるが、住んだり表には出れない者たちが居るだけで、民度は悪くないらしい。
逆に危険エリアは文字通り──何でも請け負うヤバイ奴らが集まる。
どうやら作法や合言葉もある所が多く、初見で失敗すると、一気にその情報が広まって狙い撃ちなんて日常茶飯事らしい。
「仲介っていっても、大丈夫なんですか?」
「一応知り合いの一人に斡旋をしている人がいるんですが、その人は⋯⋯まぁ口は強いですが、仕事はきっちりしている人でして」
どうやら職人気質の人らしい。
俺、そういう人苦手なんだけど⋯⋯大丈夫かな?
「なるほど」
「五香ギルド長もお知り合いなので、保証というか⋯⋯そういった危ない話ではないかと」
「なら、お願いしてもいいですか?」
「了解です、でしたらどうしましょう?連絡先を交換するのは危ないですよね? これから冒険者として活動していくのだとしたら、そっちの電話の方がいいですよね?」
「確かにそうですね、そっちが急務ですね」
意外と色々必要になりそうだ。
女性バージョンの名前と話し方とかも考えないとまずいなぁ。
そう思いながら、俺は家に帰るのだった。
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