49話:村の救世主

 それから俺は、アルカから漏れでるオドを頼りに、俺は急いで追いかけた。


「アルカ!!」

「ん?」


 老人(見た目が地球基準)が無事で良かったと安堵したは俺は、思い切り地面を蹴って全力で抱きついた。

 

「なんだ!? 何かあったのか!?」

「良かった!」


 場所は村から30分程離れた場所で、つい昨日アルカと修行していた場所そのものが非常口近くの警備場所だったと後に教えてもらった。


「それよりコウセイ、アイツらは⋯⋯」

「勿論、ぶっ飛ばしてきたぜ! アルカに教えてもらったやり方でなっ!」

「コウセイ⋯⋯」


 サムズアップを決めた俺だったが、ここはダンジョンの世界である。

 誰もが知っている訳ではない。


『コウセイ?』

『コウセイだ! みんな!コウセイが生きているぞ!』


 どうやらアルカが殿を努めていて、この先にある洞窟でみんな隠れていたようだ。

 ぞろぞろとウォーヒューのみんなが出てきては、俺の周りにやって来てわーわー言われる。

  

 ⋯⋯騒音過ぎて何も聞こえなかったが、きっとお礼でも言われているんだろう。


「コウセイ! 生きてたか!」

「おう! なんとかな!」


 アスラも口調は元気そうに振る舞っているが、どこかうわの空だった様子から心配してくれていたんだろう。

 短い間だったのに、いつの間にか⋯⋯俺もこの村の奴らが大事になっていた。


「こらっ!誰だけつを触ったやつは!」


 子供たちに囲まれるのも悪くない。

 まぁ若干緑色だけど。


『コウセイは救世主様だ!』

『そうだ!人間の神様だ!』


 そう所々聞こえ、俺は思わず微笑ましくなって、収まるまで子どもたちの頭を撫で続けた。



***



 そこからは何事もなく2日経過した。

 修行は滞りなく進み、あの白い炎が湧き上がってからは更に効率が上がったとアルカは言う。

 勿論謎にこの才能という才能を発揮しているようで、天才的なものだとしか言いようがないと永遠に口うるさく言われた。

 

 ⋯⋯あれは多分嫉妬だと、俺は思っている。


 そして2日目の夜、俺はそろそろやることが無くなったというのと、俺はそもそも⋯⋯ここに来た目的であるステータスのレベルを上げのつもりでやってきたのだから、レベルを上げないとと思ったのだが、ステータスカードを見てもレベルは上がっていない。

 ⋯⋯やはりここでの出来事はあまり反映されていないということなのか、今の所自分のレベル上昇が極端に上がらないのかが不明だ。


 そして三日目の朝。

 俺は一時的に自分の家に帰るという事を告げると、みんなが残念がった。

 友達も家族もいない自分からすると、その言葉の数々はとても嬉しいものだった。


「コウセイ、少し儂に付き合ってくれるか?」

「どうしたの?」


 随分と真剣な顔付きだ。

 なんかあったのかな?


 アルカは何も言わずに避難所付近の洞窟の前へと突き進んだ。


「そろそろ教えてくれない? アルカ」


 そう尋ねても全く反応せずに洞窟の中へと進む。


 洞窟内は非常用ってだけあって滅茶苦茶なんにもない通路ばかり。

 やっと何かあると思ったら、食糧が少しくらい。


 その部屋をも通り抜けて、アルカはもっともっと奥へと進む。


「何処まで進むんだよ⋯⋯」

「ここじゃ」


 俺が不満を漏らすのとアルカの言葉はほぼ同時だった。

 到着した場所は、細い道が永遠と続く場所で、行き止まりかよと思ったら何か古い文字がつらつらと書かれてある扉がある簡素な場所だ。


「ここは?」

「記憶が降った修行時の話の続きじゃ」

「ん?」

「無名の神がこの世界の生物を全て滅ぼした。その後、その無名の神が住む場所以外⋯⋯荒れ果て、再生できない程の状態になったと。そう言ったな?」

「まぁ⋯⋯確かにそう言ったな」


 そう自分が返答を返したところで、何か違和感を感じた。

 「ん?」と感じた顔をアルカに見られ、アルカもそうだろ?と言いたげな表情で微笑んでいる。


「そう、お主の思った通り、"何故ここは無事なのか"という話じゃ」

「やっぱりか⋯⋯」


 そうなると⋯⋯。


「そう、ここはアビロニア最後の土地──無名の神が住んでいたとされる山なんじゃ」

「ここが⋯⋯か」

「そうじゃ、なぜ争いが止まらないか、などとヤカルを責めてはいるが、理由は明白。 

 もうここ以外の土地が残っていないから。それだけなんじゃよ」

「それでみんなほとんど痩せ細っていたのか」

「儂は最初から知っていた。コウセイがここの世界の住人ではない事くらい」

「⋯⋯!!」


 思わずアルカの言葉に動揺を隠せなかった。俺の表情を見てアルカも小刻みに頷いた。


「やっぱりのう。こんな世界の何処に遠くから来れる技術力があるんじゃと儂は思っておった。安心するんじゃ、村の奴らは遠いと言ってもどうせ反対側くらいにしか思っておらんから」

「そ、そっか」

「この世界の事をあまりにも知らないことといい、色々確信する所がいくつかあったが、やっぱりそうじゃったか」


 アルカはどこか安堵の表情を浮かべ、目の前にあるトイレくらいの大きさはある扉に向かって言葉を続けた。


『神よ、永遠に』


 それを見た時、文字の上にオドが流れていくのが見える。おそらくオドがこの扉を開けるのに必要な条件だったのか。


 ゴゴゴと地震が起きる。

 アルカは全く動揺する事はなく、そのまま扉の中へと入っていき、俺に話の続きを継ぐ。


「さっき」

「⋯⋯ん?」

「白い炎を噴き出した時、かつての師が思い浮かんだ。無名の神の息子であるライタルの背中じゃ」

「それが何か? 俺がその代わりだって?」

「いや、少し違うかのう。何かゆかりのある血筋なんかじゃと儂は思う。少なくとも──ライタルの血脈ではないはずじゃ。なぜなら彼は髪が赤かったからじゃ」


 そのまま扉の先を進みながら、アルカは続ける。


「異世界か⋯⋯儂は未だに信じられないのう、違う世界があると心の何処かで思ってはいたが、まさかこうやって違う世界の住人と会うことになるとは」


 と俺を見ながら「ほほほ」とアルカは笑う。


「ま、俺もびっくりなんだけどね」

「コウセイもたまたまだと?」

「まぁ⋯⋯そんなとこ」


 そして俺の目には洞窟内とは思えないほどの輝きが入ってくる。


「すげぇ⋯⋯」


 俺の馬鹿な脳ミソから出る口はそれしか出ない。


 目の前には、黄金に輝く直剣が並び、その奥には様々な武器種が。

 それも、全て金以上に輝くエフェクトと言いたいレベルのキラキラが付いていて、思わずそこまで金自体に興味がない自分でさえ目を奪われるほどだった。

 

 その周りには黄金に輝く玉座。

 かつてそこにいた無名の神様とやらが座っていたであろう光景が舞い込んでくる。

 あの時は座っていた男の視界であったが、今は逆だ。


 ⋯⋯まさか、こうなっていたとは。


「まだある」

「まだ、あるんですか?」

「あぁ。この奥には大量の金貨や装飾品までもがある」

「なぜ、俺に?」


 突然こんなものを見せて、俺が欲しいだなんて言ったら──


「欲しいのだろう? 取って構わない」

「⋯⋯っ」

 

 まるで分かっているように言葉を発するアルカ。


「本当は、儂は知っている。人間にかつて会った事があるからのう。人間は金貨やこういった物に価値を見出すと言うじゃないか」

「よくご存知で」


 そして、それで1億以上のカネを得ましたとも。


「いつ戻ってくるか分からぬ村の救世主様に、何も渡さずに返してしまえば、一族の恥と言えよう」

「にしては対価が違いすぎる気がしますが?」

「儂らにとってはガラクタ同然だ。それよりも、儂らは明日を生きるほうが重要だ」


 まぁ⋯⋯そうか。

 そう俺は納得した。


 そこまで貧困に苦しんだ事はない俺だが、なんとなく少しは理解できた。


「ならば、今後数ヶ月分の魔石を用意します」

「話が早いのう」

「先にお渡しします」


 俺は少し離れてから、ストアで魔石を用意して、アルカの前に置いた。


「こう見ると金貨と同じように見えるな」

「魔石の中に少し良い物も混ぜておきました。是非」

「そうか。ありがとう」


 そう言うとアルカは黄金の武器が並ぶ所まで一緒に行き、取れという。


「本当にいいんですか? これは、かつての神様が残した遺産なのでは?」


 そう。さっきから俺の目には、とてつもない量のオドがこの剣に宿っているのが伝わってきて、むしろ恐怖すら感じるほど力を感じるからだ。


 『異様』──もはやそう感じる。


「どうせ誰も知らん。知っているのは儂とヤカルの二人だけじゃったから」


 ⋯⋯だからここに来たがっていたのか。


「そうですか。では遠慮なくもらいます」

「その方が神様も喜ぶじゃろて」


 俺はそのままインベントリに全てぶち込む。


 一瞬で輝いていた部屋が真っ暗闇となり、アルカは思わずその異様さに笑いを噴き出した。


「それがコウセイの能力か?」

「まぁ⋯⋯そんなところです」

「そうか」


 一言発したまま、アルカは元あった玉座の場所を、ひたすらに眺めていた。


「きっと」

「⋯⋯?」

「きっとその神様は、恨んではいないでしょう」

「そうかのう⋯⋯」

「きっと」

「まさか何歳も歳が離れた子に慰められるとは、儂もまだまだだのう。もう行くのじゃろ?」

「ええ」

「ならここで行くといい。後で儂から言っておく」


 インベントリから鍵を取り出す。

 

「では、またすぐに」

「ほほ、いつでも待っておるぞ⋯⋯コウセイ」


 鍵を回し、俺はちょっと涙を浮かべながらあっちに戻ったのだった。

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