48話:永劫の殲滅

「こ、コウセイ⋯⋯」


 激しく燃え上がる白い炎は周囲の森を燃やす事はない。

 なぜなら、白い炎は浄化の炎であり、極限まで清浄したオドは、もはや芸術。


「アルカ。なんか分からないけど、今──何でもできそうな気がする」


 ⋯⋯そうじゃろうな。

 アルカは心の中で頷く。


 オドを清浄した事で、様々な万物に干渉し、イメージを具現化させる。

 かつて、武神オルビスが成し得たという境地──"人神境"。


 人の身を超え、半分神の域にまで到達したと、当時の魔物達に言わしめたその存在は今、目の前で数万年の時を超えて蘇ったのかもしれんな。


「儂は少し下がる。コウセイに頼むのは気が引けるが」

「そんなこと言わないで、俺も弟子として成すべき礼儀ってのがあるんだから」


 そう言うアルカの言葉を遮って煌星は半笑いで揶揄うように言い放ち、前を向いた。


「頼む」


 アルカはそう言って非常口に敵が向かっていないかを確かめる為、老体からオドを溢れさせて、瞬きをする間もない僅かの時間でこの場から姿を消した。



 *



「いやぁ、凄いなコレ」


 両腕を見ると見事に自分の腕が見えないくらい白い炎が燃え続けている。

 

「とまあ、今はそんな場合じゃないだろうけど」


 甲冑の音が耳が無くなるほど聞こえる中、一際目立つ赤色の甲冑を着る人が最前列までやってきた。


「貴様⋯⋯!!」


 見るとどう考えても歯軋りと眉を寄せるというブチギレコンボの状態で俺を見てるんだけど。

 ⋯⋯あれはどう考えても怒っているんだけど、なんで? 俺が何かしたのか?


「俺はこの村に世話になっている人間の煌星っていうんだけど、そちらは何が目的か教えてもらっていいかな?」


 変に下手から聞くと、付け上がる可能性があるからこれくらいでいいでしょ。


「黙れ人間! さっさとこの村を引き渡せ!」

「拒否したら?」


 こちらの問いに顔を歪ませ、下卑た笑みを浮かべる。


「全員殺す」

「そう」


 ⋯⋯言質は取った。

 

「ん?」


 ヤカルは正気を疑った。

 その瞬間、煌星は両の瞳を無意識に閉じたのだ。


「人間が諦めたぞ!」


 そうだ、奴は手段がないからこうやってオドを燃え上がらせることでしか反抗できないんだな。馬鹿な人間め。


「その行動は我らに対しての反抗とみなす!」


 数秒ヤカルは様子を見たが、煌星の反応はない。

 

「お前ら! この村に矢を放て!」


 背後から弓のしなる音がここぞとばかりに聞こえてくる。


 ──だが。


「⋯⋯⋯⋯」


 ──ヴォォォ!!

 ──パチパチッ!!


 ヤカルの耳にはハッキリパチパチと弾ける音と、荒れ狂ったような炎の音が交互に入ってくる。


 ヤカルとアルカ。

 この世界で唯一と言っていいほど古いウォーヒューの二人。


 勿論その力量も歴然だった。


 古より伝わる心法を力として使うヤカルと、守る為に使おうとしたアルカ。

 かつての師であるオルビスの息子のライタルから正式に受け継がれたのは、アルカだった。


 その日から、ヤカルは心法を悪用する事を決めた。

 

 誰よりも頑張ったのに。

 誰よりも心法を理解しようと頑張ったのに。


 ヘタレで女にペコペコ頭を下げるような軟弱な奴に継承させたのかが理解できない。


 ヤカルは許さなかった。

 絶対にこの心法を悪用し、この心法が最強最悪のモノとして広めてやると決めた。


 ──なのに。


 "何故こんなにも⋯⋯身体が、魂が震えるんだ"


 目の前の師を彷彿とさせる鬣の燃えるような形の白炎。


 そして、その両腕に巻き付く炎の一部を使った心法の1小節から4小節の言霊に宿る技。


「まさか、人間如きが──あのお方の技を⋯⋯」



 星の囁きに身を委ね、遠い夜空から力を招く。


 双獅の如く、怒りと勇気を我が腕に通せ。


 落ちる星、獅子の咆哮、次元を切り裂く閃光となれ。


 天を貫き、地を這わせる、白き炎は全てを浄化す、至れ、全ての者よ。



 生涯でまだ一度も同様のレベルまで達したことのない武神オルビスの拳法の一つ目に生まれたその技。


 星が瞬くような2つの双獅の閃が煌めいたその刹那⋯⋯ヤカルのこめかみ付近を稲光が通り過ぎた。


 その瞬間ヤカルは悔しさと同時に興奮もしていた。


 そう、これが。


 "白炎ユグ星落双獅閃ミーティア"!!


 稲光が通り過ぎた数秒後、遅れたように全員の首が断たれ、そこから真っ白い炎が天に登った。

 身体も白い炎に浄化され、死体は一つ残らず消え去る。


「⋯⋯⋯⋯」


 速すぎた連続技を終えた煌星は一瞬のこと過ぎて自分でもわからなかったが、頭の中でイメージしていた記憶の男の圧縮された動きを行っただけで、このような光景が広がっていた。


「げ、言質は取ったからな」


 そう一言残して煌星は急いでアルカ達の安否を確認しに向かった。

 

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