☆:ギルド
「あ~まじ最悪」
そんな事を呟くのは、サンテツホドシテイルこの俺、清水弘樹32歳の独身。
色々呟きたくはあるが、仕方ないだろう。
これも国に飼われている一匹の人間として職務を全うする為ですからね。
俺が働いているのは、ギルドの総本部──東京店。
前まで東京という名前では無かったのだが、池袋や渋谷などの大型支店などの関係から東京というデカイ名前にしたらしい。
一応、俺はそこの現場責任者だ。
⋯⋯3徹はしんどい。何故かって?
この間あったインゴットの話で今世界中が大騒ぎだからだよ。
具体的な名前は明かされてはいないもの、大体場所と人間は調べようと思ったらある程度までは調べられるはずなんだが、どうもセキュリティが掛かって無理だった。
「あ、おはようございます、先輩」
「ん? 鈴木くんか、おはよう」
国の飼い犬とはいえ、出勤時のエレベーターは未だギュウギュウで気持ちが悪い。
しかし、もうここまで働いていると、ほとんどが顔なじみの奴らだから、いくらかマシだ。
「先輩寝れましたか?」
「いいや、全く」
「ですよねぇ⋯⋯私も寝てる時に同僚から今から来てくれとか頼まれてイライラの頂点だったんですよ」
「それは災難だったな、後でランチ奢るから、今日も残業頼むぞ〜」
「えーいいですよー、遠慮しておきます」
生意気な後輩のコイツは鈴木有紗。
東大首席で合格し、様々な経歴を持っているらしい。
俺は昔や経歴の方は直接あまり関わったことがないから知らんのだが、とりあえずパーフェクト優秀女性のようだ。
⋯⋯の、割には、態度や気の抜けたような言動から天才肌なんて言われているらしいが、俺から見るコイツは、ただ仕事とプライベートをきっちり分けているだけのようにも見える。
「頼むよーお前がいないと他の奴らから俺が文句言われんだからァ〜」
「はいはい、分かってますよ」
──チン。
到着してすぐに大量の飼い犬はそれぞれの部署へと散らばり、俺は自分の担当部署へと行き、後輩の挨拶を返しながらデスクに座った。
「あぁ⋯⋯」
眉間を摘み、睡眠不足を補うために睡睡打破を二本飲む。これがないと俺は、一時間もしない内に過労死する自信がある。
そしてそのままデスク周りにある昨日までの進捗状況と電話対応状況を確認する。
まじかよ、全体の半分も終わってないのかよ。
どうやらあれだけ残業し、優秀な部下達に対応させたにも関わらず、半分も終わってないという地獄のような惨状を目にする。
くそ、終わってんな。
飼い犬は勿論黙って仕事をすればいいのだが、それでは気が済まない。
「申し訳ありませんが、増員の方お願い出来ませんか? もうこっちは手一杯で、どうしようもありませんよ」
『それをどうにかするために優秀な奴らをお前の部署に送り付けているんだろうが!! なんとかしろ!』
──プーッ。
ふざけんなッッ!
こっちはみんなほぼサビ残でやってやってんだろうがよ!
「はぁ⋯⋯」
クソッ、俺の過労死も⋯⋯かなり早そうだ。
「どうにかならんのかよ」
「清水さん、お電話の方がきていまして」
「ん? お前らが対応出来ない問題か?」
「いえ、相手があの議員の⋯⋯」
はぁぁ。
こっちはこんな忙しいって時に、議員ときたら。
「分かった、繋げてくれ」
面倒くさいという気持ちを整える準備が終わり、受話器を取る。
「第一冒険者管理室、清水がお受けします」
『君がここで一番偉いのかね?』
「現場担当では、私で間違いないと思います。という業務やり取りは止めにしましょう」
『そうだな。君も知っているだろう? この間から世間、いや⋯⋯世界中を驚かせているユニークダンジョンから帰還した冒険者を』
「対応で遅れていましたので、しっかりとした情報はまだ確認していませんが、後輩からの情報である程度は存じております」
『どうだね? いくらだ?』
コイツらは人をなんだと思ってるんだ? 個人情報やプライバシーの侵害はどう思ってるのか素直に問いただしたいのだが。
「失礼ですが、通常とは違って──極秘情報になっていますので⋯⋯勘弁してください」
『なに、私と君ももう長いだろう?』
「さすがにこれに手を出せば、私なんか一瞬で首が飛びます」
『私がフォローする』
そういう問題ではないんだが。
先日、そんなこと俺もとっくに調べたさ。
結果は何も出ず。
多分所属支部のギルド長しか見れないように設定されている。
ステータスカードの情報を聞き出したりするのも重大な犯罪になるからな。
「橋本さん、勘弁してくださいよ。今回の件に関しては⋯⋯一私達のような者たちでも手を出したら──どうなるか」
『君がそこまで言うのだから本当だろうが、何しろ派閥の奴らがうるさいんだ。どうだ?なんとかならないか? そこまで言うのだから、相当セキュリティが高い情報なんだろう? 公務員では稼げない額の金を渡す』
気持ちは揺らぐが、見れないし、確認を取ったら⋯⋯さすが俺も怪しまれる。
⋯⋯チッ。
「期待はしないでくださいよ?」
『出来なかったらその時考えればいいんだから問題はない』
ガチャン。
受話器をおいて、俺はある場所へと電話を掛ける。
「はーい、八王子支部でぇーす」
相変わらず調子に乗っているギルド長の五香。
コイツは女遊びで盛んな時に会ったことがあるが、とんでもない天狗野郎だった。
今でも変わっていないのだろうが、さて⋯⋯どうやって聞き出すか。
「本部の清水だ」
『うわ、清水さんすっか? 止めてくださいよ〜ウチの冒険者の名前なんて教えませんよ〜』
「良いじゃないか、本部としても色々必要なんだよ」
⋯⋯コイツは昔から勘だけは野生動物みたいに敏感だ。
こういう時は相手が悪いと嘆くレベルでセンサーが良い。
『どうせ派閥がどうのとか言われたんすか?』
⋯⋯くそ、コイツ──何処まで知っているんだ?
「派閥? 俺がそんなこと知っているとでも?」
『橋本則夫、俗にいう三人の次期総理候補の一人で、もっとも近いそうじゃないですかぁ。俺としては手伝ってやりたい気持ちもありますが⋯⋯困ったなぁ。冒険者個人から教えないでくれって散々言われたんだ。"目立ちたくないってさ"』
今時目立ちたくない奴がいるのか?
ほとんどの高ランク冒険者たちは皆ド派手な奴らばかりだと言うのに。
くそ、これじゃあ意味がないのか。
「どうだ?今度一杯」
『嫌でーす、何も話しませーん』
「そ、そうか。ありがとう」
『あ、あと』
「どうした?」
『その冒険者の事を嗅ぎ回っていると──行方不明になるらしいと都市伝説があるから、気を付けてね』
⋯⋯お、脅しか?
「そうか、気を付けるよ」
ガチャン。
受話器を置くと、俺はイライラの限界で今度は今流行りのマナウォーターを口にする。
「あぁー、美味い」
本部もこんな有様じゃあ⋯⋯国会とかどうなってるのか想像もつかないや。
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