35話:自堕落しすぎた男女
「あっ! 煌星さん!やり過ぎですって!!」
「はぁ〜!? それは三神さんがいけないんでしょう!?」
一人の時よりはいくらかマシなくらいの汚さ。
ちょこっと散乱しているお菓子やジュースが置かれている二人用のガラス張りのテーブル。
まだ日が経っていないであろう二つのモニター。
そして仲良くゲームをしている二人。
これを動画越しに眺めているのなら、きっとほとんどの人達はカップルの休日かと勘違いしてしまうほどのモノだった。
あれから3.4日が経った。
俺は振り込まれているお金を見た瞬間⋯⋯すぐに※ホライゾンで注文を始めた。
※ハッキリ言えば某A〇〇zonです。
明らかに三神さんが住みづらいだろうから家具や風呂場セット、それから食器なんかの生活用具まで、一通りホライゾンで購入。
そして、三神さんと話していて、どうやらゲームをあまりやったことがないようで。そこで俺はゲームの楽しさを普及しようとこうして色んなジャンルのゲームを三神さんと共にやっている。
「煌星さん、また勝手に単独行動してっ!」
「三神さんが迷子になるからでしょ〜?」
ブチッ。
三神さんが額に血管を浮き上がらせてこちらを見てくる。
「煌星さん──お昼ご飯抜きにします」
「あああああ! ごめんなさい!」
そう。
何より──三神さんの料理の腕前がとんでもなさすぎて、俺は軽く依存気味なのだ。
「ったくー! だったら最初からしなきゃいいのに!」
ガラス張りのオシャンなテーブルの上に大皿が置かれる。一見してみると、そこには食パンしかないのだが、ノンノンノン。
イイ感じに丸い形をしている真ん中に、グラタンがキングとして君臨しているのだ。
「うわぁ〜滅茶苦茶いい匂い!」
「まぁ昨日買い物行き忘れましたんで、ちょっと手抜きです」
あの、三神さんにとっての手抜きの価値観って一体⋯⋯?
その他にもしっかりと種類豊富の野菜が揃っているシーザーサラダに、コンソメスープ。もはや俺は何をしてもらっているのかが危ぶまれるが、とにかく⋯⋯今は凄い人生が楽しい!
ちょっと異性と過ごすだけで、こんなにも心が暖かくなるなんて⋯⋯以前の生活では全く得られなかったものだ。
人と生活しているってこんなにも全身が温まるモノなのかとズッシリ重石を置かれている気分だ。
「いただきます」
「召し上がれ」
俺と三神さんは飯を食い始める。
まだ数日なんだが、こうして誰かと話しながら食事をしたのは⋯⋯一体いつぶりだろうか?
「見てくださいよ煌星さん! 煌星さんが言ってたこのGRO!」
「お? どうしたんですかー?」
覗くと、つい数日までレベル5やそこらだったものが、いつの間にか56まで上がっている。
世辞抜きで凄いな。
結構単純作業で、飽きてやめてしまうかと思ってたが。
「凄いじゃないですか! もう50超えてるなら、結構行けるクエスト増えますよ!」
「そーなのっ!」
「⋯⋯っ」
少し体を前進させる三神さんのせいで、一気に距離が縮まる。
女性特有のなんかいい匂いがたったこの顔一つ分までになって、だいぶ鼓動が既に早まっているのを感じる。無防備なスウェット姿にヘアバンドでほぼ肌全開の姿はなんかエロい。
全然人と関わってこなかった俺には刺激ックスが強すぎる⋯⋯。
「ちょ、ちょっと近いっすよ」
「あー! また変な事考えてるの〜? もうっ、画面見えないでしょ?」
そう言ってもはや三神さんの肩が常に密着するまで近寄ってきた。
なんだ⋯⋯?
めちゃくちゃ可愛いぞ? ゲームとかそんな場合じゃない。
「そ、そうっすね」
「ねぇ、見て? 今ね、職業クエストが出たの!」
「あ、本当っすね。じゃあ、俺が合流するんでそれまでストーリー進めて頑張ってください」
「お、ナイトが来るまで待ってよー!」
え? 狙ってる?
もしかして三神さん、本当はすごく天然なのか!?
昼間から終わらない俺のドキドキは続き、夕方。
「煌星さん、見てください!」
「どうしたんですか?」
三神さんの手元にあるタブレットには、オークションの開催時刻が後10分程のところだった。
「あっ、今日でしたね!」
「楽しくゲームし過ぎてそんなこと完全に忘れちゃってました!」
さり気なく可愛い。
「それまで夕飯の準備します」
「俺は箸とか運んどきます」
「お、ありがとー!」
そんな会話をしていたらすぐに時間になり、生放送が開始した。
「凄いよねー、ここまで大きいと生放送になるんだね」
「初めて見ます、オークション」
「え? そうなの!?」
「はい、あんまり家も出なかったし、ネットは興味あるもの以外何も見ていなかったので⋯⋯」
「でも、これから色々見れるね!」
「はっ、はい!」
『それでは! お待たせいたしました! 日本初、生放送によるオークションを始めます!』
「始まるよ! 煌星もこっちに来て!」
「わ、わかってますっ!」
狭い部屋のキッチンで二人、生放送が始まるのをジッと見守っていたのだった。
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