閑話:謎の集団

 金髪の人間が玉座に座り、試練をクリアしていく。

 

「ひゃっほー! これで俺も自由気ままな我儘生活だぁ〜!」


 そう言って試練をクリアした人間を見送った直後、私の体は急速に修復を始めた。

 ボロボロの体は勿論、鎧を含めた装備品に至る全てにおいて⋯⋯復元する。


「終わったか⋯⋯」


 私の最初に発した言葉はそれだった。

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※。


「ちょっとオルビス、いつまでそこにいるつもり? 修復の力も無敵じゃないんだから、さっさとそこから降りなさい」


 壊れた神殿の真上。

 そこから6枚の黄金の粒子を放出しながら両翼を煌めかせ、私の目の前へと優雅に着地する一人の女性。

 

 腰まで伸びている銀髪。

 黄金色のピアス。

 黄金色の司祭を思わせような礼装。


 ⋯⋯総合的に大天使と言っていい女性が私へと目を向けた。


「あぁ、そうだな」


 一部修復していない部分がある。

 この可愛げもない女の射った神星力の入った矢だ。

 ⋯⋯通常の修復ではない。


「ねぇオルビス? 私は今──すごく怒っているの。理由は分かるわよね?」


 神殿内が女が発した威圧だけで全てが揺れる。

 まるでこの威圧に全ての生物が平伏すような凄まじい威圧であり、かくいう私も、この凄まじい威圧に全身が身震いしている。


「分かっている。役回りとはいえ、記憶を消してこの場に立つというのは中々堪える物があるな」


 記憶を思い出したのは、この女が来てからすぐの事だった。それまで私は騎士オルビスとして試練を挑む者全てと戦いをしていたはずだ。


「今回、※※※※※様の進行度を早める為にわざと組み込んだわね? ※※派は」

「私は沈黙させてもらう」


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※。

 ※※※※※※※。


「なんですって? 私達穏健派がいつまでも黙っていると思っていたら⋯⋯大きな間違いよ?」


 女の頭上の遥か高所から、大量というべき翼の生えた純白の礼装を着用している男女が弓を携えて降りてくる。

 アイツの背後へまで降りると、一斉にこちらに向けて矢を放つ準備を始めている。


「早く答えなさい、※※派はどうするつもりでこのダンジョンに貴方を配置したかを」

「⋯⋯⋯⋯」


 マズイな、私の逃げ場がない。

 私の持っていた※※移動のアイテムや※※までもが、この女たちに奪われていたなんて。


 「話してどうするつもりだ? 仮に話したとして、殺されるのが目に見えているのにもかかわらず⋯⋯何故話さなければならないのだ」


 彼らの目つきを見れば一目瞭然。

 どうせ答えても──話したあとに私を殺すつもりだろう。


「希望があるだけマシだと思いなさい。本当ならば──貴方の魂ごと破壊するつもりだったのに、命令で仕方なく残してあげる可能性を作ってあげたのだから」


 ⋯⋯なんて女だ。

 命令がなかったのなら──私を絶対に殺すと言っているのと変わらないじゃないか。


「それよりも、あのお方はどう? 十分満喫されていたかしら?」


 このクソッタレな性格をしている女でも、一つだけ女を出す時がある。


 ──それはあの男が絡んだ時だけ。

 

「発言を聞く限りは⋯⋯満喫されているだろう。どうやら色々あるようだしな」

「色々?」


 まぁ、ここでネタバラシをするのも問題はないだろう。


「あぁ、別にここにいるのは"私だけではない"」


 くそ女が鬼みたいな形相で睨んできやがる。

 いい気味だ。そうやって凄んどけば良いんだよ。


 血相を変えた女はすぐに背後にいる配下に情報を知らせ、行動を始めた。

 ⋯⋯しかし。


「もう遅い、既に事を起こしている。一気に改竄された歴史は正常な歯車と共に回り、本来の時間を取り戻す。私達※※派は──帰還を待っている」


 そう、私達※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※なのだから。


 確認を終えた女は私を熱心に睨みつけ、その手には弓を構えていた。


「いい? 権限は私にある。何時でも行えるという事を忘れないでちょうだい?」


 ここで私が言わなければ。


「君がそう簡単に殺さないのも、あの男の命令か? 私はね、待っているのだ。

 ──果てしない闘争を。

あのお方が魅せたあの戦いを! 

あの人間に負けた時、全てが狂い始めたのだ! 

 ならん。我々が神※※※※※様は、頂点でなくてはならない!」

「それで? そのご本人は意見を変え、新しい一歩を歩んでいるわ?」

「知るか! 頂点は頂点! 敗北はあってはならぬこと!」

「あらそう」

「違う、お前たち穏健派は⋯⋯私情で交流されているから気付かないのだ! あのお方が変わってしまったことに!」

「はいはい、言ってることは分かったから。言い残すことは? どうせここで貴方をやっても──元の魂の場所に戻るんだから⋯⋯関係ないでしょ」


 駄目だ。こいつら脳の足りない⋯⋯低俗な奴らだ!


「イフイ、ラルト、シュフィーレン、アハウアスヒィート」


 クソッ!詠唱か!


「この※※でそんなモノを放って、無事でいられると思ってるのか!?」

「関係ないわ? 今貴方は、君臨するあのお方の事を侮辱したんだもの。 死んで叱るべきでしょう? ここで死ぬくらい⋯⋯問題ないわよ」


 クソッ! 嗅ぎつけるのがもっと遅ければ!

 信徒の奴ら──遅すぎだ!!


 その言葉を最後に、騎士オルビスの姿は消える。

 残ったのは⋯⋯とても弓を放った一撃とは思えない──巨大な大砲でも撃ったのかと錯覚するほどの破壊された神殿の惨状のみだった。


 聞こえる轟音と、焼けて飛び散る灰の音を耳にしながら──女は黙って焼け野原となったその場を黙って見つめたまま、全配下を引き連れて天高くの上っていった。

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