なんか黄金とかいう馬鹿みたいなスキルを得たのでダラダラ欲望のままに金稼いで人生を楽しもうと思う
ちょす氏
1話:将来への不安
「なぁ?お前はどうする?」
「え?なんだよ突然」
「いやさ、俺の友達が冒険者始めててさー。俺誘われたんだよね〜」
「マジで?お前強いの?」
「いや、初級スキルばっかだった」
「じゃあ駄目じゃん」
「いやでもさ?今なんて最低限の金なんて⋯⋯就職しなくたってワンちゃん冒険者の方がイイって言うじゃん?」
「馬鹿かお前。メリットはあるだろうけど、デメリットの方が多いに決まってるだろ?俺は安定して就職かな」
講義室の一番後ろかつ、端っこで俺は目の前に座る二人の会話を黙って聞いていた。
現在は南歴2120年の4月の後半。
あ、ちなみにだが、俺は今年で大学四年になる22歳の健全な男子学生だ。特に何かが変わっているところは無い⋯⋯はずだ。
ただ、友達とか親友なるモノがなく、かと言って陰キャかと言われたら微妙な所だ。というのも、学生時代は普通に過ごしていた。
俺の人生は特に不自由って訳でもない。
かと言って別に自由かと言われればそうでもない。
なんとなく普通に生きて、なんとなくこうして大学生になっても窓の外を見つつ⋯⋯目の前の会話に不安を覚える普通の男子大学生だ。
⋯⋯そんな奴が不安? あぁ、不安さ。
理由はいくつかある。
それは今から丁度100年前にも遡る必要がある。
この世界⋯⋯元よりこの地球とって、歴史上でも大変動が起きた年だ。俺を含め、今の学生たちはみんな同じことを学ぶ。
それは2020年の話。
その日、突如として東京のド真ん中に次元の歪みが起き、中から大量のモンスターが現れた。まさにゲームのような風貌の奴らが⋯⋯だ。
勿論だが、当時の人たちは大混乱。モンスターは目の前にいる人類を貪り尽くし、文字通り人間を全て蹂躙しつく勢いで襲い掛かったのだ。
もれなく当時の自衛隊、特殊部隊などのプロが導入された。
⋯⋯しかし結果は惨敗。
それもそうだと思う。人間より遥かに強い生き物が大量に現れればどうすることもできない。
当時の人類は諦めたかのように必死に我先に逃げ去った。
しかし、どういうワケか、逃げる人間の中に去る事なくむしろモンスターへと立ち向かう人類が現れたのだ。
⋯⋯それが、祖である【覚醒者】たちである。
覚醒した人間たちは、まさにゲームのようなステータスやジョブを獲得し、モンスターに立ち向かった。
その後に判明したことだが、この事件は世界同時に起きた事だったらしい。
そして覚醒者たちが氾濫したモンスターを倒し尽くすと、世界各地に【ダンジョン】が現れた。
まるでこちらの地域情報さえ理解しているように。
ダンジョンは各国の首都や主な都市などに現れ、まるで攻略しろと言わんばかりに放置されていた。
各国で生まれた最初の覚醒者たちはそのダンジョンへと乗り込んだ。
結果、覚醒者たちは金や銀などの財宝や、武器や防具と言ったゲームの報酬を手に入れ、戻ってきた。
ここから世界のパワーバランスが変化したのだ。
最初の攻略が終わると、世界中の上空に巨大な歪みが現れ、真っ黒い空間から声が聞こえたという。
『馴染みのない者たちよ、誠にすまない。もし、代表の者がいるならば是非一度話をさせて欲しい』
俺が読んだ教科書にはそう書かれていた。
そしてその代表が集まって歪みの中にいる者たちと会議を交わしたらしい。
主な情報は次の通りらしい。
・異世界である自分たちの世界とこの地球という世界に誤って繋がってしまったということ。
・自分たちの世界では現在様々な物が不足しており、食物や様々な知識を持つ自分たちと協力体制を組みたいということ。
・代わりにこちらで使用しているダンジョンやステータスなどの機能を共有すること。(今出現させたのは自分たちだと言うことも含め)
この3つが主に情報開示となった。
しかし実情はほとんど明かされておらず、他にも大量の会話が交わされたに違いない。
当時の世界政府や重要人物たちは協力体制を組む事を約束し、世界中にあるダンジョンを各国が所有して運営していくことに決まった。
しかしここで問題が起こった。
⋯⋯【覚醒者】達の問題である。
聞けば覚醒者たちは一般人の体力やら筋力とは別に、【魔力】や【スキル】を得ており、現存している人類とはまるで別次元の生き物となって進化してしまったのだ。
国や一般人はもはや恐怖の対象だった。
これは本当かわからないが、祖となる初代覚醒者たちは別格で、本来なら【ステータスカード】というその世界特有のモノを用意してからスキルやジョブが付くらしいが、この初代覚醒者たちは自力で世界に適応する為に覚醒した為、普通の奴らよりも遥かに超人的な者ばかりだったらしい。
そして今までの常識だった事が
金だった時代はあまり変わらないが、代わりにダンジョンを攻略したり、ダンジョン内にある希少な鉱石やアイテムを回収するような【冒険者】と呼ばれる職業が生まれたのだ。
このダンジョンの力は凄まじく、魔力で出来た物を使用すると、電力や水力などの代わりに使用でき、かつ今まで使用されてきた物よりも長持ちしながらも質もいいということが続々と判明した。
今までの常識が崩れさり、100年経った現在では、結婚するなら安定した職業も大事だが、冒険者となってある程度の働きだけでも生活するに困らないレベルの稼ぎを得ることができるようになった冒険者も、女から見たら有望株とまで言われるくらい色々な物が整ってきた様な世界になったということだ。
まぁ、そんな世界になった今。
なんとなく理解してくれるだろうが、冒険者になって一攫千金を目指す者や、攻略しながらも金を安定して稼いで生きていくような者が多くなった。
そのせいで就職する者もかなりの変動が生まれた。
もう俺も四年だからインターンには行っている。
まぁ、こうしてボッチで活動している訳だが、先程も触れたが別に中学や高校では普通に生きてきたワケで。
社会で生きていくのに必要なモノはある程度持ち合わせているから特にこれといった障害もなくインターンの中でもすんなり先輩たちに囲まれながら可愛がってもらえた。
大学は別に良いところではないが、インターンでの活躍や小さい頃に習った極真空手で全国大会初出場初優勝という快挙を得たりなど、他にも色々あった物で上手く補填されて今では何社からは『隠れ内定で来てくれないか?』という連絡を貰っていて、これから始まる就活間近で俺は色々将来について考えている、というわけだ。
まだ会話している二人に加わって話している前の数人の会話に俺は寝たふりをしながら聞き耳を立てた。
「ていうか杉はもうスカウトされたんだろ?」
「まぁな」
「すげぇじゃん! どこのクランに呼ばれたんだよ?」
【クラン】⋯⋯。
まぁ俺にとっては聞き馴染みはないが、習った事はある。と、その前にギルドの話からしないといけないか。
当時、国は覚醒者たちを管理しようとした。
国民の全員が歩く災害たちを怖がったためであり、自分たちの権力を奪われかねないと思ったからだ。
そこでまず国が覚醒者たちを囲うと様々な戦いが広げられた訳だけど、そこは割愛する。
結果何が起きたかというと、今にも戦争が起きそうになったという事だ。様々なやり方で覚醒者たちを囲うと時に悪質な手を使ったり、他国の覚醒者たちに有利な条件で移住などの手続きをさせようとしていたからだ。
あまりにマズイ方向へ進むと考えた世界中の権力者たちはそこで取り決めた。
どこにも属さないグループを作り、そこである程度の管理をしようと。そうすれば今後生まれてくる子供たちも登録させて管理が楽になるからだ。
まぁ異世界的なシステムを現実で作ったというわけだ。
俺は昔読んでいた小説の中で起きていたような世界にいる訳だからアレだけど。
そうしてギルドが完成し、そこから時代が進むに連れ、仲間内的なパーティーから更に一個上のグループが出来上がった。それがクランというわけだ。
今じゃギルドも大手クランのご機嫌を多少取る必要のあるくらい権力が増えつつあるらしい。
悪いが俺は最近までソシャゲやゲームをして過ごしていたから、あまりそういうのに詳しくない。
「それでそれで? 何処のクランから誘われたんだ?」
「大亜クランだよ」
「大亜クラン!?」
聞いていた全員が思わず声を張り上げた。
「声がデカイって」
「悪い悪い、てか、マジで?」
「あぁ」
「大亜って、今めちゃくちゃ大手のクランの一つだよな?」
「あぁ、有り難いと思ってるよ」
「すげぇわ、確か四大クランでトップ張れそうな所だよな?」
へぇー。凄いじゃん杉くんって人。
「年収とかの話ってしたの?」
ナイス、誰かわからない子。
「一応俺の成長次第とは言われたけど、大体スタート1000万円くらいからだって」
思わずまた叫びそうになる3人だったが、寝たふりをしている俺も叫びそうだった。
そして全員、喉からでかかる言葉を必死に押し戻して杉の話を聞く。
「1000万ってマジ?」
「マジマジ。俺も聞いてビックリしたわ」
俺もビックリなんですけど。
何それ? 1000万?ふざけんなよ。内定通った会社のどれも月収は20くらいからだぞ?
嫉妬まみれの俺の言葉とは裏腹に会話は続いていく。
「それで?杉のスキルってなんだよ?」
「そうそう、俺も気になってたんだよね」
「いや、流石にステータスを教える訳には行かない」
確かそうだっけ?俺は興味がなかったからまだステータスを通してないんだけど、ギルドで登録する時に自分にあるスキルが分かって反映される⋯⋯だったか。
確かSNSでみたなー。「他人のステータスを覗くことは犯罪行為です」って。聞いたりするのも良くない事です!とも。
まぁでもそうか。自分の能力を見せるってことは確かにそうだ、犯罪行為になり得るわ。裸になるのと同義だもんな。
「じゃあ俺のを見てやれそうか判断してくれよ!」
「いや、俺まだそんなキャリアあるわけじゃ⋯⋯」
そんな会話を聞きながら、俺の不安はドンドン膨れ上がっていく。これからどうしよう、俺は楽に、ストレスフリーで生きたいだけだ。
「はぁ」
俺は全然やる気を起こさないまま、少ない講義を受けて、大学を後にしてバイト先へ向かった。
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