答え
「ごめん、俺は八重さんと付き合うことは出来ない」
「ッ!どうして?」
泣かないよう必死にこらえているのか、いや、気が付いたが故にか歯を食いしばり尋ねてくる。
「八重さんは昔の楓に似ているんだ」
「?」
一体何故?それがなんなの?と言いたげだな顔をする。
俺だって一方的に八重さんに押されていたわけじゃない。幸い身近には情報通の楓もいたし八重さんに対しては詳しい裁判官等が沢山いる。情報は少し意識すれば勝手に頭に入ってくるし、それは俺に既視感を与えた。
そしてその既視感は先程『心からの友達がいない』という八重さんの言葉で確信に変わった。
そう、八重さんは
「俺の事、恋愛的な意味で好きじゃないだろ?」
「ッ!そんなこと」
「自分でもさっき気が付いたんだろ?振られたにもかかわらずどこか納得している自分が居ることに」
頭のいい八重さんなら理解したはずだ。
「自分で言うのは恥ずかしいけど、俺の事が好きなのは違いないんだろう。でもそれはLoveじゃなくてLikeに近い感情なんじゃないのか?楓も似たような事があったんだよ。だから八重さんが抱えていることにもある程度察しがつくし、そんな八重さんと付き合うことは出来ない。1度よく考えると言いんじゃないかな、相談があるなら乗るからさ」
「私は……『好き』という言葉に惑わされて?でも、私は……私は……」
やっぱり悩むよな。ま、1人で考えたいこともあるだろうし俺は教室に戻りますかね。今の八重さんの悩みに俺は役不足のようだからな。三矢彩雫はクールに去るぜ!
ボーッと立ったままの八重さんを背に屋上を出る。
「よかったの?」
「あぁ」
屋上のドアを開けるとそこで聞き耳を立てていたであろう楓が堂々と言う。
もちろん俺だって初めてしっかりと告白されたし、ドキドキしなかったと言えばうそになるしそのまま付き合っちゃえばよかったのにと言う悪魔のささやきがなかったわけじゃない。でもやっぱり、いくら可愛かろうと娘に恋愛感情を抱けないように今の状態の八重さんにそういう感情を向けることは出来ない。
「てかお前、やっぱり覗いてたな?」
「ごめんごめん、でも僕だって大変だったんだよ?」
「まぁ予想はつくよ。俺と八重さんが屋上でご飯食べてることは噂になってるだろうし冷やかしに来る奴もいただろうけど、屋上に入ってくるどころかこの辺り人っ子一人いないからな。追い払ってくれたんだろう?」
「いやいや、それぐらいお安い御用だよ。僕としては八重さんと付き合うのもいいんじゃない?って思ってたからね」
「ふぅん、ありがとな?疑問には思ってたんだよ。女嫌いなお前が八重さんには少し甘めだったのは八重さんの現状に大方察しがついてたから。間接的に俺にヒントもくれてたみたいだし色々助けられたよ」
普段は女子との接触をなるべく避けるどころかヘイトをためてるからな、特に目立つタイプの女子にだけど。そんな楓が学校でも特に目立っている八重さんと少しだけでも話していることはフラグだった。
楓が居なければ事態はもっとこんがらかっていただろう。例えば、クラスのやつらが俺に対して過激になるとかな。
「僕は僕がしたいことをしてるだけだよ。それにしても、もったいなかったね。ゲームが彼女の彩雫に来た最後のチャンスだったかもしれないのに」
「うっせぇ。そうだよ、どうせゲームが彼女ですよ。八重さんには申し訳ないけどな、こんなオタクが学校でも特に可愛い女子を振ったってんだから。何かしらの報復が来てもおかしくない」
『オタクの癖にこの私を振るなんていったい何考えてるのよ!思い知らせてやるんだから!』ってな。ま、実際は八重さんならそんなことないと思うけど。
「おかしくないじゃないよ、女ならやりかねないから僕は女が嫌いってわかってるでしょ?」
いつものアルカイックスマイル日本のわずかな影を差しながら言う。
実際はそんなことないはずなんだが。こいつは色々な女を知りすぎたからな。所謂地雷の中の地雷女子を想定していてもおかしくはない。
「はぁ、やめやめ早く教室戻って飯食べようぜ?さすがにちょっと疲れたわ」
何てったって告られて振ったんだからね!精神疲労がやばいよね。お腹もすくよね。
「ぷふ、所でその大事そうに抱えてる弁当美味しそうだね?」
「そうそう、八重さんの弁当マジ美味いんだよ……あ」
どうしてここにお弁当が?もしかしてずっと持ってた?
「あっはっは、今気が付いたの?はたから見てると本当に面白かったよ?『俺の事、恋愛的な意味で好きじゃないだろ?』だっけ」
教室へと向かう足を止めその場で腹を抱え笑いをこらえている。こらえれてないが。
っく、確かに傍から見ていると面白いから何も言い返せない!だって仮にも振った相手の弁当を大事そうに抱えてなんかシリアスなこと言ってるんだぜ?そりゃあ笑う。
「……全く、彩雫は昔から変わらないね」
「ん?何か言ったか?」
「いや、僕もお腹すいてきたなと思って」
ま、そうだよな。ずっと見てたんなら飯食う時間なんてないだろうよ……やっぱ一回締めるか。
「あはは、邪気出てるよ?」
「なぜわかる!さてはお主ニュータイプだな?」
「違いまーす、腹黒幼馴染です」
「ッ!そうだった腹黒だった、こいつめ」
さて、所で男子高校生は簡単に2つに分けられる。1つは恋愛至上主義者。そしてもう1つはそれ以外。恋愛至上主義者は何にでも恋愛を結びつけるが、そうでないものは彼女が欲しいと言いながら結局のところ友情と趣味を優先する。
だから、もちろんのこと友人と話をしている男子高校生(それ以外)は屋上から聞こえた微かな声に気が付くことはなかった。
「私諦めないから!!!!!」
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