第3話 推理

 ――私の脳裏にひらめくものがあった。


「仲居さん、今すぐここに体重計を持ってきてください。そうですね、女湯と男湯にあるもの両方お願いします」


 突然そう言われた仲居さんたちは、顔を見合わせて皆一様にポカンとしている。これからする話は自分でも突拍子もないと思っている。その反応は当然だろう。


「男湯の方は私がお持ちしましょう」

 そう言ったのは、支配人の栗藤りっとう涼佑りょうすけだ。女将であるまいの夫でもある。


「涼佑さん、そんなの支配人の仕事じゃありませんわよ」

 大女将の栗藤美幸みゆきが声を尖らせて言う。


「いいえお義母さん、お客様のご要望全てに応えることに尽力することが支配人の務めでしょう?」

 涼佑は私に向かって片目を瞑ってみせると、すぐさま体重計を取りに向かった。


 結果からいうと、私の直感は正しかった。


 体重計を正確に調べる為に10キロの米袋を両方の体重計で調べたところ、男湯にあったものは10キロと正しい数値を出したのに対し、女湯にあったものは12キロという誤った数値を表示していた。


「これでハッキリしました。女湯の体重計は実際の重さより2キロ重く表示される」


「一体それが何だって言うんです?」

 大女将の美幸が苛立った様子で睨んでくる。


「そうなると妙なことになります。私は今日の午前2時に女湯で舞さんと会って話しています。舞さんは設備等の点検の為に、毎日この時間に温泉に入っていると言っていました。しかし、実際には女湯にあった体重計は狂っていた。これはとてもおかしな状況です」


 その場に集められた全員の視線が舞を貫く。


「私の推理はこうです。2調。あえて狂わせておいたのですから、それを直す理由はありません」


「……待ってください。何の為にそんなことを?」

 美幸が擦れた声で何とかそう言った。


「この旅館には若返りの温泉と、もう一つ大きな目玉がありますよね。朝食のビュッフェです。フランスの一ツ星レストランで修業したという一流シェフが腕を振るうということで、うちの姉もとても楽しみにしていました」


「……まさか!?」


「ええ、そのまさかです。。だからわざと体重計を2キロ重く表示されるように細工をして、お客の胃にブレーキをかけさせようと画策したのです」


「……う、ううッ!!」


 私が推理を語り終わるのと同時に、舞がその場に泣き崩れた。

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