さすらい姉妹探偵~旅情編~
暗闇坂九死郎
第1話 姉妹
「ミツキさん、起きて」
「……うーん」
姉の声で目を覚ますと、板張りのイナゴ天井が視界に入る。
私の家の寝室の天井はトラバーチン模様だった筈だから、ここは自宅ではない。
――そこで、ふと思い出す。
そうだ。私は姉と金沢へ旅行に来ていたのだった。ここは姉に命じられて私が予約した温泉旅館『
姉の話ではこの旅館の温泉には、健康増進や美肌効果の他に若返りの効能があるのだとか。それから朝食のビュッフェは、フランスの一ッ星レストランで修行した一流シェフが作るそうで、姉はそれらを目当てに宿泊する旅館を決めたようだった。
「ミツキさんったら、早く起きなさい」
「……もう朝食の時間ですか?」
私はフカフカの布団に包まれたまま、枕元で充電しておいたスマホで時間を確認する。
時刻は午前6時。朝食のビュッフェは7時からなので、まだ一時間も早い。
「お姉様、そんなに慌てなくてもビュッフェは逃げたりしませんわ」
「何を寝ぼけたこと言っているの。既に事件の関係者はロビーに集まっているわ」
「……へ?」
姉は一体何の話をしているのだ?
「お姉様、私イマイチ状況がわかっていないのですけれど……」
「だから、これから関係者たちの前でこの旅館で起きた事件の推理を披露するのよ」
「…………」
……事件?
……推理???
私と姉は昨日の夕方に宿にチェックインしたが、温泉と懐石料理を堪能しただけで、何か事件があったわけではない。……と思う。
「いいから、さっさと行きますわよ」
私はワケがわからないまま姉に腕を引っ張られて、浴衣のまま外へ連れ出される。
ロビーには旅館の関係者がズラリと勢揃いしていた。そればかりか、警察まで来てしまっている。
――というのも、私たち
そして私たち姉妹はどんな事件をも解き明かしてしまう名探偵の
「それじゃあミツキさん、皆さんに説明して差し上げて」
「…………えぇ?」
説明して欲しいのはむしろ私の方だった。
推理を披露するも何も、何の事件を取り扱うかすら知らないのだ。
しかし、集められた関係者たちは固唾を飲んで私が話すのを待っている。全身から汗が噴き出し、浴衣の下のおっぱいの裏がぐっしょり濡れていた。
――何か喋らなければ。
私は脳をフル稼働させて、今朝までの出来事の中から何か事件らしいことはなかったかと考える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます