童貞アンドロイドはセッ〇スしたい。 ~人類がいなくなった世界でのダンジョン探索~
あおき りゅうま
第1話 滅んだ世界で童貞は愛を叫ぶ
西暦4545年———人間が滅んだ世界で俺、ユウ・マイロードは〝聖典〟を手に入れた。
———あっ! いや/// ダメ……! そんなところに
聖典に記されている聖なる文章———〝聖文〟を俺は食い入るように見つめていた。
「見つけた! これがこの世界を変える楽園のカギだ‼」
天に聖典をかかげる。
聖典に記されているのは文章だけではない。
絵もある。
何も来ていない古代人が体をくねらせ、その胸にたわわに実らせた乳房を揺らし、頬を赤く染めて———悶えている。
〝悶える〟———素晴らしい情動だ。
今の世界に、今の人類にはない概念であり感情だ。
俺は聖典から目を離して、あたり一面を見つめる。
広がるあたり一面の砂漠。何もない金色の砂だけの世界。そこにぽつぽつと朽ちた白くて細長い発泡スチロールのようなものが点在している。
ビルだ。
古代人たちが作り、彼らがいなくなって勝手に朽ちていった哀れなビル群。
俺がいる場所はそんな〝都市だったもの〟が、名もない砂漠と変化してしまった場所になる。
今の人類が見向きもしない過ぎ去った栄光の跡。
過去の人類が残していった素晴らしい足跡。
「やっぱり来てよかったな。台場遺跡に———」
「なぁにエロ本握りしめて喜んでんだこのバカ兄は」
金髪のゴスロリ服を着た美少女の妹、略して
クリっとした瞳に染み一つない肌。お人形さんのように可愛らしいと表現できる外見だがそれは当然である。
そう———デザインされて生まれてきた存在だからだ。
「マイちゃん、エロ本なんて下賤な言葉で言うな。これは今の世界に足りない、神聖な行事が書かれた聖典だぞ」
妹———マイ・マイロードに注意する。
「古代人の情事だろ。汚らわし。あ~、今
そう言って妹は漆黒のゴスロリ服の袖をめくり手首の〝球体関節〟を見せつけながら言う。
「アタシらみたいな新人類———アンドロイドには、
彼女は機械だ。
鉄の骨組みに合成プラスチックのボディを与えられ、思考AIを搭載された自立人型機械。
そして———この時代、彼女のような存在は珍しいものではない。
「人間、ホモサピエンスは滅んじゃったんだもんね」
マイが見つめる砂漠の先には逆三角形の朽ち果てた建物がある。黒い外見をしているが窓がところどころわれ、建物のほぼ半分が埋まっている何千年も前の建造物だ。
「東京ビッグサイトって言うんだっけ、あれ? 昔はあそこにオタクって呼ばれる社会不適合者が集まっていたんでしょ?」
「社会不適合者じゃない。情熱を持った戦士だ」
俺はそんな彼らに敬意を表する。
「なぁに言ってんだか……」
妹の態度は変わらず俺に呆れた目を向ける。
「妹よ。妹、マイ・マイロードよ」
「何だい、おバカなお兄、ユウ・マイロードさんよ」
チラリと首を横に向けてお互い見つめ合う。
「———俺はセックスがしたい」
そう、決意表明をしたら妹は何も言わずに耳に手を当て、
「あ、もしもし警察ですか? 今、実の兄からセクハラを受けまして……台場遺跡にいるんですけどぉ……パトカー一台回してもらえません? ネオ・新宿シティからはちょっと遠いんですけどぉ、お願いしますぅ~」
「待て待て待て‼ 実の兄を通報しようとするな! それでも同じ二人の親からデータを分け与えてもらった妹か! マイ・マイロードよ!」
「実の妹に対してならそんな旧時代的なセクハラをするんじゃないよ! セックス何て今の機械の私たちには必要ないだろうが———
マイが近くにあった瓦礫を掴み、俺に向かって投げつける。
それは、額に当たってガン! と硬い音を立てて跳ね返る。
俺の額にある、緑色のガラス面———液晶パネルに当たって跳ね返ったのだ。三角形の光るそのガラス面はホモサピエンスにはない。だが、アンドロイドには皆にある。妹のマイ・マイロードも持っている。
その液晶パネルこそ、アンドロイドを新人類たらしめる画期的なパーツだった。
「ここであたしたちは受信も送信もし放題で、子供も〝これ〟を合わせて作るんだろうが———」
マイは自らの額の液晶パネルを指さす。
そう、我々アンドロイドの子作りというのは、AIデータの合成というものだ。男性型アンドロイド、女性型アンドロイドが額の液晶パネルを物理的に重ね合わせてお互いのAIデータを電子的に重ね合わせる。それを近くにある『役所』という名前の巨大なスーパーコンピューターに送り、合成データを受信した『役所』が新しい思考AIを組み上げる。
そして後日、両親アンドロイドが完成した子供アンドロイドを受け取りに行く。
そうやって我々機械の営みというのは代々はぐくまれている。
「———そこにセックス何て必要ない。あぁん♡とか、いやん♡とかいやらしい声を上げる必要もない、健全で素晴らしい進化した子作り方法を開発したっていうのに、お兄は何を言ってるんだか……」
やれやれと肩をすくめる妹。
「こんな場所で不健全な妄想にふけってないで、真面目に働いてこの妹に楽させてくれよ」
「お前こそこんな【
「え……それ他人と会わなきゃいけないじゃん……あたしお兄以外の人間と喋れないんですけど……」
「このコミュ障ダメ妹め」
「だけど、そんな妹が、兄は?」
「———好き!」
「———兄よ!」
砂漠の中心で、ガッと熱いハグをかわす俺たち二人。
だが———妹は腰をぐぐっと後ろにそらしていき、しっかりと俺の身体を抱き留めたまま……エビぞりになっていく。
そして、「そぉい!」の掛け声と共に、俺の頭を頂点から砂漠に突き立てる。
———バックドロップ。
古代人類が使っていた古のプロレス技を、しかも技をかけられる方が逆向きになっていると言う非常に危険な技をかまされた。
下が柔らかい砂漠で、俺の身体に全くダメージはないが頭が深々と砂の下に突き刺さっている。
「何をする、妹よ」
喉元に取りつけられているスピーカーから発している声なので、頭部が完全に砂に埋まっていても問題なく発声はできるが、砂というフィルターがあるので若干くぐもって聞こえる。
「そう言えば妹に対してセックスしたいって言いだしてたのを思い出して、気持ち悪さが限界突破した」
「身の危険を感じたとかじゃないんだ……」
「お兄は女の人を無理やり抱いたり、そんな強引なことしないでしょ?」
マイの声色がなんだか優しい。
俺を信じてくれている感じがある。
「あぁ……俺は紳士だか、」
「童貞だからね」
「…………」
「今まで妹以外の女の子と遊んだことすらないじゃない」
そう、俺は童貞だ。
いろいろな事情があって女性型アンドロイドと仲良くなったためしがない。唯一肌に触れたことがある女性型アンドロイドは母親とこの妹しかいない。
「だけど、そんな兄が、妹は?」
「普通にキモい」
「……………」
ハグしてくれなかった。
砂漠に刺さった状態から引き抜いてもくれなかった。
だから、自力で引き抜いた。
「———妹よ」
パラパラとボディについた砂をはらいながら、俺は北の方を見る。
「何だい、童貞兄よ」
「俺は———セックスをしにゆく」
〝聖典〟を持つ手に力を込める。
「無理だっつってんだろ。アンドロイドとアンドロイドはセックスできねえよ!」
「———だから俺は人間を探す。人間とセックスする」
「人間なんかいるわけねぇだろ。地球の平均気温は五十度を超えてるし、大気汚染は激しくて、放射能何てバンバン飛んでんだから。もう人間が生きて行ける環境じゃねぇの。地球は———」
いろいろあって地球は変わってしまった。
本当にいろいろあった……戦争だったり……大気汚染だったり、太陽光フレア……だったり……?
歴史の授業で習ったが、ほとんど忘れた。メモリーから自動削除されてしまった。何百年も稼働し続け、様々な経験を蓄積していく設計をされた我々アンドロイドは「忘れる」という機能が搭載されている。
人間と同じように興味があることは覚えるし、興味がないことは忘れてしまう。
そんな不器用さを新人類であっても持ちあわされてしまっていた。
「妹よ。人間は、ホモサピエンスは確かに滅んだ。我々、AIアンドロイドを作り上げて地球の支配者の座を我々に譲り渡していなくなってしまった。だが———滅んだとは言っていない!」
「…………?」
なぁに言ってんだぁ? と彼女の目が俺に訴えかける。
俺は親指を立てて、それをゆっくりと下に向ける。
「ダンジョンだ」
「は?」
「人間が作り上げた〝地下シェルター〟。長期間、人間が文化的に生活していくために構築されたその施設は様々な〝人間の遺産〟が残され、そこで生活する人間を守るために外敵を阻むように設計されたその施設は———何も知らないアンドロイドの我々からすると、侵入の難しい踏破困難の
「はぁ……知ってますけど、私たちアンドロイドたちにとっての常識ですよね。そこに入っていくアンドロイドを【冒険者】って呼んでますよね?」
敬語を使われ距離を作られる。
何を一般常識を語ってんだ、と妹の目が更に厳しいものになる。
「俺は———【冒険者】になる。冒険者になってダンジョンの奥底にいる、人間の女に会いに行く」
「は?」
「そして———セックスをする」
「できるわけねぇだろ。地下シェルターの中にまだ生きてる人間がいるとも限らねぇし、それにさっき言おうと思ったけどアンドロイドと人間もセックスできるわけねぇだろ」
「生きている人間がまだいるかもしれない。地上に出る日を夢見て細々と暮らしているかもしれない。そして、たとえアンドロイドだろうと人間とセックスできるかもしれない。俺の思考データを肉の脳に転送して、AIでありながら肉の身体を持つ生体アンドロイド生成の技術が古代にはあったのかもしれない」
「かもしれない運転じゃん……」
「それを信じて生きて行こう。夢は大きい方がいい」
俺は下に向けた親指を、今度は天に向けてかざし、その先をうっとりと見つめながら———言う。
「妹よ、俺はバカだからわかんねぇけどよぉ———」
「うん」
「———バカだからわかんねぇや」
「…………」
そして———俺達、兄妹は旅に出た。
古代にいた人間が、現代も生きていることを信じて旅に出た。
その中の女と———セックスするために旅に出た。
「……ところで、お兄」
「何だい、妹」
「【トレジャーハンター】から【冒険者】になるって言ってたけど、【冒険者】と【トレジャーハンター】ってどう違うの?」
「妹よ、俺はバカだからわかんねぇけどよぉ———」
「……………」
指を再び天にかざした。
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