ツンデレ彼氏の看病
仲仁へび(旧:離久)
第1話
「別に嬉しいなんて思って、いないからな。ぜぇはぁ」
病気で学校を休んだ彼氏が、なぜか布団から這い出てプリンを用意していた。
私が訪問して、玄関の合いカギで開けている間に、何をやっているんだろう。
「客が来たなら、もてなすのが我が家の礼儀だ」
そんな礼儀、ゴミ箱に捨てといて。
チャイムを押さなかった気遣いを無駄にしないでほしい。
「あんた、風邪ひいてるんだから、ちゃんと寝てなさいよ!」
さて、セリフといい、行動といい、どこからつっこもう。
お見舞いに来てみたら、ちょっと嬉しそうな顔をした彼氏が、ツンデレしながら、私の好きなプリンを用意していたので、頭をはたいて布団に戻した。
「ぜぇはぁ」
「まったく、大人しくねてなさいよ」
「ぜぇはぁ。これくらいでくたばるほど、ヤワじゃない」
「くたばりはしないけど、治るのが遅くなったら、他の人に迷惑かけるでしょ」
「ーー」
彼氏はかなりのツンデレで弱い所を見せたがらないが、基本的には人に優しい。
なので、こういえば素直に従ってくれた。
私は彼氏の部屋を掃除した後、雑炊を作る。
すると、彼氏がスマホでメール。
『帰れ、試験勉強の邪魔だ。風邪にしてやる』
はいはい、看病してると私が試験勉強できないだろって言いたいのね。
まったく、口が悪いんだから。
『これくらいで成績落とすほど馬鹿じゃありませーん』
メールを返信。
じゃっかん煽っているのは、いつもツンツンしている彼氏の影響だろう。
だって、反応が面白いから。
『たわけ。誰がお前の心配なんてするか。俺が勉強できないんだ』
『だーかーら、寝てなさいっていったでしょ。お鍋、沸騰してるから後にして』
できあがった雑炊をレンゲにのせてふーふーして、口元に運んでみる。
「こんなもの食べれるか、ぜぇはぁ」
「恥ずかしがってる場合じゃないでしょ。治らないわよ」
「後で食べる。今、食欲ない、ぜぇはぁ」
「まったく」
意地っ張りな彼氏に手を焼きながら、額に置いたおしぼりを交換。
つめたい水でひたしてから、また額にのせる。
そうこうしていたら、行きは晴天だったのに、急に窓の外が大雨になった。
天気が悪くなって、薄暗くなってくる。
テレビニュースを付けたら、これから雨がもっとひどくなると分かった。
「帰宅困難者になるぞ。路頭に迷う気か。ぜぇはぁ」
「歩いて帰ればいいだけでしょ。パパに迎えに来てもらう事もできるし。最悪泊まっていけばいいんだから」
「男の家に、思い付きで泊まるなんぞ。正気とは思えん。ぜぇはぁ」
「弱っている男に襲われるほど、か弱くできてないわよ。寝てなさいったら」
ツンケンしつつも、帰れなくなるのを心配してくれているのだろう。
別につきあってるんだから、ここで何かあっても、それくらい覚悟してるっつーの。
彼氏を布団に押し込めて、ぼふっと軽くたたく。
すぐ大人しくなったのは、さすがに限界だったからか。
寝息が聞こえ始めてきた。
まったく意地っ張りなんだから。
出会った時もそうだった。
「女が夜の道を独り歩きしてんじゃねえよ。身ぐるみはがされたいのか」
家に帰るのが遅くなった時、後ろからつけてくる男をどうしようと思って、困っていた。
すると、同じ駅で降りたあいつが、あたしを気遣って、一緒に帰ってくれると言ったのだ。
あたしもその時はまあ、素直じゃなかったから「あんたに襲われない保障はどこにあるわけ?」って返したんだっけ。
もし善意の行動だったら、さすがに怒られるかなって思ってたら。タクシー代渡されてそのまんま。
あいつは離れた所で、携帯電話を使ってタクシーを呼び始めた。
さすがに焦ったわよ。
あいつとは顔見知り程度。
同じ大学に通うだけの仲なんだから、そこまでしてもらうわけにはいかないって。
でも、「俺がいなくなった後でお前が事件に巻き込まれたら、どうなる? 俺がが他の人間に責められるだろ」って返された。
そう言われると断りづらくなっちゃうじゃん。
でも、言葉があれだったからお礼も言えなくて。
恩着せがましい奴。
不愛想にするくらいなら親切なんてしなければいいのに。
ちょっと、思った。
そう思える立場じゃないのに。
あの時はまさか付き合う事になるとは思わなかったな。
それからちょくちょく話をするような関係にはなったけど、恋人になろうとは思わなかった。
考えが変わったのは、とある台風の日。
天気予報では進路がそれるっていってたのに、台風の進路がどんぴしゃで命中。
交通機関がマヒして、家に帰れなくなったんだっけ。
パパも会社から帰れないから、車で迎えに来てもらうわけにもいかないし。
居残りなんてなければよかんたんだけどね。
大学の研究室があいてたからそこに泊まろうと思ってたんだけど、ちょっと問題があったんだ。
女の子に手をだす悪い先輩も一緒でさ。
さすがに同じ部屋は使えないって思ったんだ。
そしたら、あいつが声をかけてきたんだ。
「俺のいる研究室なら、女しかいないから勝手にまざってればいいだろ」って。
いや、あんたもいるじゃんっていったら。
「俺は女子の甘ったるい空気にまざってられん」って。
私が使ってる研究室で悪い先輩と共に夜を明かしてた。
見張ってくれてたんだろうね。
悪い先輩が悪い事しないように。
さすがにそこまでやったら、良い奴だって分かったよ。
でもちょっと、口で損してるなぁって心配にもなった。
だからかな。
近くにいある間は、私がフォローしてあげなくちゃって、気になりだして。
好きになったんだと思う。
「ぜぇはぁ」
回想からもどると布団から顔をだして呻いている彼氏の顔があった。
まったく、ぜんぜん変わらないんだから。
ほっぺつんつんしてみれば、顔をしかめられた。
意味なんてないけど、おかしくなって、少し笑える。
こんな口調だし態度だから、損する事多いんだよねこいつ。
バスの中、善意でおじいさんに席を譲る時だって、逆に怒られちゃうし。
転んで鳴いている子供に声をかけた時だって、逆に大泣きされちゃうし。
だからずっと私が隣で見てあげなくちゃって思えてくる。
「早く元気になりなよ」
最後に額のおしぼりを交換して、部屋から出ていった。
ツンデレ彼氏の看病 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます