短編集

まれ

母の戸棚

母のこじんまりとした戸棚。その中には、様々な本や雑貨に隠れて、一冊のアルバムがある。すみれ色のカバーをかけられ、大事にされてきたことが伺えるそれ。開いてみると、若い頃の母の写真があった。海外の瀟洒なアパートメントの前に佇む母。波のそばで、私の知らない男の人と肩を組んでいる母。背景はそれぞれ違うが、全ての写真で、母は自由に微笑んでいる。彼女のこんな笑顔を、私は一度も見たことがなかった。

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