乙女ゲームの王子キャラに転生したけど、身分をまったく役立てられません

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 乙女ゲームの世界に転生した。


 俺は攻略対象で、王子キャラのジルコニアスという人物だった。


 でも、別にゲームの通りヒロインと恋をしようとは思っていなかった。


 王子としての勉強が忙しいし、結婚相手は由緒正しいところからって決まってたしね。


 ヒロインは平民の身分だったもん。


 一緒になろうとしたら、きっと大変な目に遭うはずだ。


 だけど、おしのびで町に出掛けた時、ヒロインを見て一目ぼれしてしまった。


 気持ちを抑えられない俺は、何とかアピールしようとするけど。


 王子の立場で俺が言い寄ったら、迷惑だよね?


 身分を盾に結婚をせまるっていうのは悪役のする事だし。


 お金にものを言わせてプレゼントするのだって、人によっては逆効果。


 そもそもヒロインは物につられるような性格じゃないし。




 


 うんうん悩みながら、ヒロインが営んでいる定食屋さんのお客さんになる日々を送っていた。


 そんな中、なんとライバルが出現。


 隣国の王子ジルフォードがヒロインに一目ぼれしてしまったらしい。


 かぶってる!


 色々かぶってる!


 立場もそうだし、恋のきっかけもそうじゃん!


 でも、相手の方が俺より美形だし、頭いいし、気が利く。


 国交でなんどか顔を会わせたことあるけど、完全に俺の上位互換って感じだったしな。


 うかうかしてたら、先を越されてしまうぞ!







 焦った俺は、なんとかヒロインにアピールしようと頑張ろうとした。


 ヒロインが働く定食屋では、いま人手が足りないからっていってたから、働こうとしたんだけど。


「王子がそんな定食屋で働いてどうするんですか」


 って、側近に却下された。


 仕方なく、代わりの人材を紹介したよ。


 王宮の厨房で働くなら、下町の料理にも親しんで、国の料理を一通り知っておくべし、みたいな理由をつけて。


 ちゃんと特別手当も出してね。


 成り上がりの貴族とか富豪とかも、俺の国には多いから。


 そういった人達を王宮のパーティーや晩さん会に招待した時、役に立ちそうだし。








 他の事でアピールできないかな。


 なんて考えてたら再びチャンス。


 ヒロインがある日、定食屋で使う食材が届かないって嘆いていたから、俺が様子を見に行く事にした。


 すると、あちこちの店でも同じようなトラブルに見舞われていたらしい。


 食材を頼んだ馬車がこないぞって。


 俺は愛場のジョセフィーヌにまたがって、さっそうと出発。


 街道で目的の馬車を見つけた。


 御者の人は具合が悪くなって、動けなくなってたらしい。


 だったら俺がかわりに馬車を動かしますって、言ったんだけど。


「いたたたたた、腹が! おなかが痛い!」


 最近、仲の悪い貴族に両脇を固められながら仕事しなくちゃいけなかったからかな、お腹の調子が良くなかったみたいで。


 俺もそこから動けなくなってしまった。


 ミイラ取りがミイラになってしまった瞬間だった。


 そうして時間を無駄に使っていると、ライバルキャラのジルフォードが到着。


 俺達を乗せた目的の馬車をさっそうと動かし、ヒロイン達の元へ運んでいってしまった。


 運んだ後は、体調不良の俺達にお薬までくれるイケメンだ。


 くそ、文句も言わせてくれない善人め。ありがとよっ。けっ。






 俺の努力はさらに空振る。


 ある日、驚愕の事実が明らかになった。


 ヒロインが誰かの手によって、謎の借金を背負わされたみたいだった。


 このあいだ迷惑客を店から追い出してたから、きっとそいつが原因じゃないかな。


 ゲームでもそうだったし。


 とにかく、そんな事があったため、ヒロインの店に柄の悪い連中が押し寄せる事に。


 あきらかに表社会の人間ではない人達が、いかつい顔で取り立てに来ていた。


 ヒロインは気丈に対応しているけど、声が震えている。


 俺もしょんべんちびりそうなくらい怖いけど、ここで何もしないわけにはいかない。


 勇気を振り絞って、取り立て屋の前に立ちふさがったさ。


 でも結果は。


「お前に用はない、うせろ」

「ぶべら!」


 石ころのように軽く殴り飛ばされてしまった。


 そして意識消失。


 護身術は習ってるけど、緊張しすぎて頭からふっとんでしまったようだ。


 気を失ってるうちに、店に訪れたジルフォードが王子の力を使って解決してしまった。


 全て終わってから目を覚ましたら、ヒロインが恋敵にお礼を言っているところだった。


 嘘だぁ。


 ほっぺつねった。


 痛い。


 現実だぁ。


 その日、俺は泣きながら王宮へ帰るはめになった。


 ふえぇ、涙がしょっぱい。


 俺の努力、一向に実る気配しないなぁ。 






 ひと騒動をのりこえた後のヒロインは、食堂の中で閉店準備をしていた。


 客はすでに退店していて、使用済みの食器のみがテーブルにのこされている。


「ジルフォード様、かっこよかったなぁ。王子様なのに、今までは平民として接してくれてたんだ」


 ヒロインの中のジルフォードへの好感度はうなぎのぼり。


 始めから王子として接していたら、距離をとっていたかもしれないが、平民として気の置けない関係を築いていたため、身分の違いはそれほどマイナスにはならなかった。


「民の事を考えて、一人一人の悩みに寄り添える王子様。すてき。きっと良い王様になれるわね」


 不幸中の幸いは、ヒロインがジルフォードからの好意に気付いていない点だった。


 その親切心は、ただの国民に対するものだと思っていた。


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乙女ゲームの王子キャラに転生したけど、身分をまったく役立てられません 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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