第10話 ギルド①
それは森の反対側、村の二つ目の出入口に程近い場所にあった。村の中でも村長宅の次ぐらいには立派な佇まいで、建物の入口上部には絵が描かれた四角い看板が三つ並べて掲げてある。
アルマさんによると、剣と杖が交差している絵が
洞窟のシルエットにルーペが描かれているのが
カウンターに膝をつくデフォルメされた女性は
アルマさんに促されて中に入り受付へと向かう。竜信仰が盛んな村にある建物なので、当然だが異世界テンプレなど起きようもなかった。昨日の今日では村長からの通達も徹底されていないため、ここ迄の道程と同じように跪く人もちらほらいて非常に据わりが悪い。
「おはようございます。ようこそお越し下さいました。アルマ様、そちらの方がススム様ですね。初めまして、総合ギルド受付担当のクレアと申します」
大きな町だとギルドごとに完全に分かれているようだが、村規模だと一緒になっていることも多いらしい。その場合、基本的には受付も一括にしているようだ。
「おはよう。今日はこの子の登録をお願いします」
「おはようございます。よろしくお願いします」
アルマさんに合わせて挨拶をする。
「村長から連絡行ってると思うけど、推薦は村長と私。カードは
「はい、聞いております。ギルド毎のルールなどが纏めてある冊子をお渡し致しますので、分からないことがありましたら気軽に声をかけて下さい」
クレアさんは笑顔でそう言うと、冊子を手渡してくれた。アルマさんが言った推薦というのは、本来ならギルドに登録出来る年齢の下限が十五歳のところを、二名の名士による推薦で年齢制限を免除して貰ったことだ。
「ありがとうございます」
「あら、いいの? ありがとう。村長にも伝えたけど、細かいことは私から教えますね」
「貴族用のものが余っていましたから、ちょうど良かったんですよ。こんな村だと渡すこともないですし。それではギルドの登録をしましょうか。ススム様、文字の読み書きは出来ますか?」
「えーと、魔導具を使えば出来るんですけど、大丈夫ですか?」
「魔導具ですか? 問題はないですけど……、そんな魔導具もあるんですね」
クレアさんは、顔に疑問符を浮かべながらも登録を進めていく。
「それではこちらにお名前と種族、年齢の記入をお願いします」
そう言って差し出された書類を、スマホのアプリ〈
やはりこのスマホはチートだ。一度、AR翻訳で読んだ文章は、その後アプリ無しでも意味が分かるようだ。筆記の方も、俺は既に自分の名前をアーランド語で問題なく書けるようになっていた。
「はい、大丈夫です。それでは少々お待ちください」
クレアさんは書類を確認した後にそう言って、奥の方へと下がっていった。クレアさんが充分に離れたのを確認してからアルマさんが小声で話す。
「何度見ても異常な
「そうですね。分かりました」
俺もスマホの異常性を再確認したところだったので、素直に頷いた。
クレアさんが戻って来るまで、先程貰った冊子を読むことにした。読んでいる間、手持ち無沙汰だったのだろうアルマさんに髪の毛をいじられ、全く集中できない。子供扱いなのかそこには少し不満があったが、スキンシップ自体は嬉しかったので甘んじて受けることにした。普段アルマさんに文字通り、猫可愛がりされている
◇
「お待たせ致しました。こちらがギルドカードになります。こちらの魔導具に魔力を少しだけ流して下さい。カードに魔力を登録します」
小冊子をなんとか三分の二ぐらいまで読み終えたあたりで、クレアさんがカードと見覚えのある形の魔導具を持って戻ってきた。
その魔導具は、まさにクレジットカードのカードリーダーそのまんまだった。クレジットカードだと数字を入力する場所に半球の水晶玉があって、それに触れて魔力を流すようだ。魔力を流すのはアルマさんの家の家具で何度か行っていたため、問題なく行うことが出来た。
「これで完了ですね。こちらがススム様のギルドカードです。こちらは
「ありがとうございます」
受け取ったギルドカードを見ると、表面には名前と種族、年齢が記入してあり、左上に
「カードにランクが記入されていますが、それについても小冊子に記されていますので、後で確認をお願いします」
「分かりました」
「それじゃあ、次は買取をお願いしたいんだけど、そのまま買取受付に行っても良い? それともクレアが最後まで担当する?」
「買取ですね。それでは私が行いますので、買取受付まで一緒に行きましょう」
三人で部屋の隅の方にある買取受付に向かう。買取受付は奥が土間になっていて、そのまま裏口に繋がっている作りになっていた。土間で解体を行って、大きな物は裏口から搬入出来るようだ。
「クレア、今から少し非常識なことが起こるけど、騒がないように気を付けてね」
「はい? 良く分かりませんが気を付けます」
「じゃあススム、奥の大きな台に先ずはリーダーだけ出してみて」
俺はアルマさんの指示に従い、スマホのアプリ〈
「っ! こ、これは収納魔法ですか。いや、確か魔導具って……?」
「まあまあ、落ち着きなさいクレア。これは——」
クレアさんは驚きながらも、騒ぎにならないように小声で反応してくれた。アルマさんが簡単に説明を行う。
「——という訳。ススム、残ったダイアウルフをそこに全部出して良いよ」
アプリを操作して残りのダイアウルフを搬出する。
「は、はい。査定しますので、しばらくお待ちください」
クレアさんは誰かに手伝いを頼もうと、慌てて奥の方へ向かった。
「あはは、慌ててたわね。さてススムは今のうちにさっきの冊子を読みなさい。あと少しでしょ?」
「はい、あと三分の一ぐらいです」
「読み切ったら私に貸して。足らない部分があれば説明するから」
「分かりました」
査定の間、冊子を読むことになったのだが今度はアルマさんの視線が気になる。何故か黙って見つめてくるので、凄い気になって読むのに集中できない。猫達も習ってこちらを見つめてくる。
六つの目に見つめられながら、それでも何とか冊子を読み切ると、半ば予想はしていたが頭の中に声が響いた。
『実績が解除されました。報酬が与えられます』
—————————
▼《Tips》
〈
この世界で生きていく覚悟をしたことに対する
名簿一覧。知的生物と一定時間、何らかの交流をすることで名簿に仮登録される。仮登録された時点での情報は主人公が知っていることだけである。仮登録された本人が認証することで隠されていた情報は解放され、スマホから通信を行うことが出来るようになる。
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