第6話 鎮守の森
滝のあった場所から歩くこと二時間ほどが経ち、真上にあった太陽が低くなり始めた時だった。
「あら? 私の風を抜けた魔物がいるみたい」
「風を抜けた? アルマさんの魔法ですか?」
「ええ、加護の力の一つ、風で結界網を敷いてるの。魔物が近寄れないようにね」
魔法だと理解した瞬間、アルマさんの言う風が分かるようになった。
自分では充分警戒していたつもりだったが、もう少し竜刻眼を使ってでも周りを観察するべきだろうか。
アルマさんに従い、
「人? 少し小さいか。数は五」
「ゴブリンね。どうする?ミューに任せるならそれでも良いよ」
「ニャア」「ミャ」
「俺に行かせて下さい。魔物とはいえ人型は初めてなんで大丈夫か試したい」
「わかった。私の風を抜けた一匹だけはそこそこの個体みたいだけど、基本的には弱い魔物だから気軽にね」
アルマさん達を残して一人先を進むと、少し開けた場所にゴブリン達がいた。確かに一匹だけ存在の濃度が違って見える。ドラゴンの本能なのか、ゴブリン達が路傍の石にしか見えないが、努めて真剣に相対することにした。
先ずは、竜刻眼に少しだけ竜気を込めて発動し、弱点を探る。ドラゴンとゴブリンに種としての差があり過ぎるせいか、どれも大差なく体全体を弱点と
俺の存在に気付いたゴブリン達は「ギャァギャア」と騒ぎ出した。
仕方なく竜天靴に竜気を込めて足場を形成すると、竜気を込めながら足場を滑るように脚を動かした。すると、水面に浮かぶ舟のようにするするとゴブリンの側まで移動して、隙だらけだった一番手前のゴブリンの首を竜爪閃で刎ねた。
ゴブリンからすると、こちらの歩き始めの蹴り足が見えないせいで、移動していないかのように見え、気付いた時には近くに俺がいたように錯覚したのだろう。
そこからは、騒ぎながら向かってくるゴブリン達の周りを緩やかに動きながら、緩急を付けて近付いて、一匹ずつ首を刎ねていった。
最後に、存在の濃度が濃かった特殊なゴブリンが残る。俺は一度動きを止めてから、改めて相手をすることにした。
先ずゴブリンが先手を取って右手をこちらに向ける。すると、手の先から黒い炎のようなものが生まれ、それなりの速度で俺目掛けて飛んで来た。
俺は竜刻眼を発動して、飛んで来たものを解析する。黒い炎は一種の呪いの塊で、触れた生命体の生命エネルギーを糧に、燃える性質があるのが分かった。しかし、どう計測しても竜鱗を抜けられない程度の呪いのようなので、そのまま手で払いのけることにする。
自動で展開する竜鱗を纏う手で、払うように黒い炎を弾くと、炎を撃ち出した後こちらに走り出そうとしていたゴブリンは、驚いて一瞬だけだが動きを止めた。
その瞬間を狙って竜天靴を使い滑るように近づくと、右脚を斜め上に蹴り上げながら竜爪閃を発動した。
蹴り足に込めた竜爪閃は、ゴブリンを真っ二つに切り裂くとその延長線上を衝撃波が飛び、真っ二つになったゴブリンの後方の木を、纏めて六本ほど伐採した。
衝撃波が収まると、辺り一帯に複数の木が倒れる音と、無数の鳥が飛び立つ音が響き渡った。
竜天靴の爪部分に竜腕の爪撃強化と竜脚の蹴撃強化が重複して、思っていたよりも威力が跳ね上がったようだ。
◇
戦闘を終えると、いつの間にか後方にアルマさんと猫たちが静かに佇んでいた。竜刻眼で解析すると、ミュールの【気配遮断】で気配を消していたようだ。
「大丈夫? どうだった? 人型の魔物は大丈夫そう?」
アルマさんはかなり心配してくれているみたいだが、何となく俺の見た目(一二、三歳に見える)のせいな気がする。
「はい、大丈夫です。何も感じませんでした。むしろ……」
よくよく考えてみると、最初の狼の群れを狩った時も、今のゴブリン達の首を刎ねた時も、高揚こそしたが嫌悪感や躊躇なんて欠片も無かったことに気付いた。
元の世界にいた時は、車に轢かれた動物などを見るたびに、同情心や嫌悪感を感じたのを覚えている。やはり、ドラゴンを取り込んだ影響なのだろう……。
「ドラゴンの
へ
「……分かりました」
少しだけ自分に嫌悪感を感じたが、アルマさんに言われたように努めて気にしないことにした。
「ゴブリンの死骸はどうしますか?」
「ゴブリンは常に討伐依頼が出てるから、左耳を剥ぎ取ってから三日以内に
アルマさんによると、魔物を相手にするギルドは主に三ヶ所あって、商人の護衛、魔物の素材や薬草などの納品、町や村の雑事などを様々な人から依頼される「
国や貴族から魔物の間引きや強力な魔物の討伐を依頼される「
秘境や遺跡の探索、迷宮の踏破などを管理する「
「アルマさん、ゴブリン丸ごとって需要あります?」
「ん? ……いや、無いよ。討伐報酬も二足三文にしかならないし。あ、あの変異種だけはもう少し高値が付くかもね」
アルマさんにそう言われて、最後に倒したゴブリンだけは回収することにした。
ふと思い出したことがあったので、スマホを取り出したついでに〈
[搬出一覧]
•ダイアウルフリーダー
•ダイアウルフ
•ダイアウルフ
•ダイアウルフ
•ダイアウルフ
•ダイアウルフ
•ダイアウルフ
•ダイアウルフ
「ダイアウルフはどうです? 丸ごと持って行っても大丈夫ですか?」
「え? ダイアウルフなら結構すると思うけど。一匹で金貨十二枚ってところかな。……もしかして、持ってるの?」
「あ、はい。スマホの中に八匹ほど。一匹はリーダーみたいです」
すると呆れた感じでアルマさんが答えた。
「何でもありみたいね。その、すまほ?そうね、ダイアウルフリーダーなら金貨十七枚ぐらいはいくかな」
アルマさんに貨幣の価値を聞いてみると、大体銅貨四、五枚ぐらいで一食分の食事が出来て、銀貨三、四枚ぐらいあれば安宿なら一泊出来るそうだ。
銅貨と銀貨と金貨は、日本の円と同じで十進法で扱われているそうなので、金貨一枚で大体八千円ぐらいの価値になるみたいだ。
狼の群れ全部で金貨百枚ぐらいになりそうだから、日本円にして八十万円ぐらいだろうか、取り敢えず生活には困らなそうだった。
ちなみに、金貨の上にはある意味定番の大きな取引用の
代わりという訳では無いが、俺は〈
◇
「流石は
再び、
—————————
▼《Tips》
〈
未知の食材を使って作られた温かい料理を食したことに対する
対流熱伝達式調理アプリ。
カメラ画面で指定した食材を粒子状の魔力で包み、その内部を熱が対流することでムラ無く短時間で調理することが出来る。温度だけでは無く水分量まで調節出来るため、蒸し料理も可能。ローストビーフからノンフライの揚げ物、焼き魚や茶碗蒸しまで作れる優れもの。
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