第4話 実績解除
『実績が解除されました。報酬が与えられます。』
いつのまにか右手の中にあったスマホを確認すると、新たなアプリがいつのまにかダウンロードされ点滅していた。
〈
「ストレージ……記憶領域? いや、これは倉庫か!」
開いてみると〈
[収納]
[搬出]
[収納]を押すとカメラ画面が表示される。通常のカメラ画面とは違い、ボタンが見当たらないようだ。
『収納するものを選び、ダブルタップしてください』
試しに画面に映る木の枝に一度触れてみる。実物はそのままで画面内の触れた木の枝の色だけが虹色を帯びた。
もう一度タップしてみると、画面内の木の枝は灰色の粒子になって画面から消えた。同時に実物の木の枝が灰色の粒子になってスマホに吸い込まれる。
画面を目次に戻したあと、今度は[搬出]を開いて見る。すると収納したリスト[搬出一覧]が表示された。一つだけ表示されている木の枝を選んでみると、今度はカメラ画面の中でAR画像のように、先ほど収納した時のままの虹色を帯びた木の枝が映っている。
画面の中の木の枝は、触れて動かすことで細かく出現位置を決めることが出来るようだ。ダブルタップしてみると虹色から普通の色に戻り、同時に画面と同じ位置に灰色の粒子が現れ、一瞬で木の枝に変化した。
「おー、これは便利だな」
元の世界では有り得ない便利さに感動すると、さっそく[収納]を起動して、狼たちの死骸を一つずつ収納する。
「しかし、このアプリというか、スマホ自体か?チートなのは……、ポケットにしまうと消えるし、スマホを確認しようとすると急に現れるしな」
突然のアプリの通知で、中断された狩りの余韻を感じながらも、不思議なアプリとスマホについて考えていたが、取り敢えずは、最初の目的通りに川を目指して歩くことにした。
◇
魔法を得て鋭敏になったのは視力だけではなく、聴覚や嗅覚も魔法を得る前とは比べものにならないようだ。森の喧騒の中でも、大分離れた場所の僅かに水が流れ落ちる音と、川の匂いを感じとることが出来た。
しばらく水の気配がする方へと歩き続けていると、木々の合間に小さな滝が見えてきた。
気配を感じ静かに近づいてみると、その滝の下では美しい天使が水浴びをしていた。
木々の枝葉から溢れ落ちる光がその
柔らかさを残しながらも意志の強さを湛える瞳、瞳と瞳の間からは鼻筋が真っ直ぐに通り、形の良い唇が色濃く艶めいていた。
ほっそりとした美しい肢体は雪のように白く透き通っていて、その儚さとは裏腹に二つの果実が強く主張している。
程よくくびれた腰の下には大きいが丸く引き締まった形のいい桃、そこから伸びる張りのある太腿が映え、絶妙なバランスでその造形美を際立たせていた。
俺は息をすることも忘れて女性に見惚れていた。
こちらに気付いた女性が、顔を赤く染めて小さな悲鳴を上げながら、右手を横に大きく振った。すると魔力を帯びてほんのりと緑色に光る風が、唸りを上げて俺に向かって飛んで来る。
それでも女性から目を離せずに棒立ちしていると、勢いを増し刃と化した風が俺に直撃した。
自動で展開した竜鱗により傷こそ負わなかったが、風の力に押し負けて空中に吹き飛んだ俺は、女性から目を離せたことで漸く我に返った。
風で吹き飛ばされながらも、無理矢理空中で姿勢を整えて無事に着地すると、急いで土下座をして女性に向かって敵意が無いことを伝える。
「す、すまない! 見惚れてただけで敵意は無いんだ!」
「*****!」
女性が何事か呟くと、緑色に光る風が女性に集まり体を隠す。
風が収まると身体中に滴っていた水は乾いていて、いつの間にか服を纏っていた。袖が長めの黒いレースシュラグを羽織り、黒いミニ丈ワンピースのハーフコルセットに、黒のガーターストッキングと黒のブーツが彼女にはとても似合っていた。
異世界なのだから当たり前のことではあるが、全く言葉は通じないようだ。必死で頭を下げて謝っていると、何とか土下座による謝意が伝わったようで、彼女からの圧が弱まった。
「*********?********!?」
言葉がまるで通じずに、双方が途方に暮れていると、またもや突然頭の中に通知が響いた。
『実績が解除されました。報酬が与えられます。』
右手に現れたスマホを確認すると、新しいアプリがダウンロードされ点滅している。
〈
今までの経験とアプリの名称から、期待出来そうだと思い直ぐにアプリを操作しようとしたのだが、目の前の女性が、急に現れた未知の物体(スマホ)を警戒しているのに気付いた。
彼女が不安を覚えないように、スマホの画面を見せたりして安全をアピールした後、アプリを急いで開いてみた。
[AR翻訳]
[自動筆記]
[言語設定]
一番可能性が高そうな[言語設定]を開く。
[言語設定]
【竜言語】
【アーラント語】
竜言語の表記にも驚いたが、もう一つのアーラント語が目的のものであっていそうだ。どちらの文字もグレイアウトしていたので、触れてみると文字が黒くなった。
女性の方を見てみると、眉を顰めつつスマホを凝視しながら、何事かを呟いているようだ。
「***よう……。困ったなぁ」
思った通り、女性の声が意味のある言葉として聞こえて来た。俺は期待から声が震えそうになるのを気を付けながら話し掛ける。
「え、ええと、分かるかな? 言葉、通じる?」
突然のことに、彼女は驚きながらも言葉を返した。
「は、はい、分かる、ます。え? でも何で? 今まで伝わらなかったのに……」
「あの、さっきは済まない。決してわざとじゃないんだ、あなたの余りの美しさに見惚れてしまって……」
俺は必死で弁明すると、女性は顔を赤くしながらも何とか赦してくれた。言葉については、スマホを見せながら説明する。
「神代の魔導具かな。凄いものを持ってるんだね」
「そうなんですか? 便利なんだけど使い方がイマイチ分からなくて」
「たまに遺跡から発掘されても、構造が複雑すぎて使い方が分かるまでにすごい時間がかかるみたい」
女性は……いや、そろそろ意を決して彼女に名前を聞いてみることにした。
「俺は
「ススム? そういえば、私も名乗って無かったね。私の名前は――」
—————————
▼《Tips》
〈
魔力を有する生物を殺害して一定値以上の魔素を吸収したことに対する
アイテムを収納するためのアプリ。
容量は主人公の最大魔力量に依存する。
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