覚醒 & ママ

「お姉ちゃんと違って、使えない姉さん。

なんで1人で家に帰ってきてるの?馬鹿なの?」

「……」


栞華に置いてかれた私の気持ちもわからないで好き勝手言ってる畔華、でも言い返す元気も無い。

私じゃなくてあの保険医を選んだって事はさ、栞華すれば私は必要ないって事なんだよね。だって必要だったら家族より変な保険医について行くなんてあり得ないもんね?

ああ、もう生きる気力もないよ。


私が死んだら栞華は悲しんでくれるのかな?


いっぱいいっぱい私の為に涙を流して、待って?いっそのこと目の前で死ねば永遠に私が刻まれるんじゃないかな?」


「はぁ?キモ。」

「え?キモイかなぁ?どんな形で好きな人に覚えていて欲しいのは当たり前じゃないかな?」

「これ以上辛い思いをさせないって話なのに、なんで悲しませようとしてるのか意味がわからない。」


あっ……


「まぁ姉さんが死んだら私が綺麗に処分してあげる。お姉ちゃんには、駆け落ちしたとでも言っておくね!」

「……」


もうわかんない……


「はぁ、死なないならそこでボーッとしてて私はお姉ちゃんが帰って来た時のために準備することがあるから。」

「ねぇ……」


他人を優しい瞳で見守る栞華とは対照的に他人に興味のカケラもないかのような視線でしか見ない畔華。


「なによ。」


栞華が似ていない訳ではないけど、姉妹の中では私と畔華はとても似ている。

今の私は心が壊れてしまいそうで、栞華が離れたことが信じられなくて、どうしたら良いのか全くわからない、なのに畔華は動けているのが不思議なんだ。


「なんで、動けるの?捨てられたんだよ?私たちは栞華に選ばれなかったんだよ?

栞華にとって、私たちは、ヒツヨウナインダヨ……」

「そうだね、シッテルヨ?

ダカラ?」


だからって……


「だってさ、私たちにとってお姉ちゃんはヒツヨウナンダヨ?

お姉ちゃんが居なかったら生きてる意味が無い、お姉ちゃんが居なかったら私の価値は無い、お姉ちゃんを苦しめるなら存在する意味が無い。

私の全てはお姉ちゃんに与えられた物、友達も、頭脳も、生活も、オシャレのセンスも、全部全部全部全部与えられて、次は返さないといけないの。」


確かに私に栞華は必要だけど、栞華は私達を必要じゃ……


「お姉ちゃんに私が必要だと思ってもらえればいいの。

私の作った物以外が食べられなくなったら?私が居ないと歩けなかったら?私が居ないと寝られなかったら?

だからね、私はお姉ちゃんに全てをあげるの。」

「……!」


栞華が入院してた頃に壊れてしまったと思っていた私の常識の部分が警告してくる。

目の前の少女はもう壊れてる、栞華の全てを管理して自分が居なければ何も出来なくしようとしている、そんな事は絶対に辞めさせないと!と。


でも、ごめん、その忠告は聞けないんだ。


だって、だってね、


「私もやる。」


そんな素晴らしい方法、私もやりたい。


「……姉さんもやっと気づいてくれた。」

「うん、ごめんね。ありがとう眼を覚ましてくれて。」


自分の中でも決定的なナニカが壊れる音が聞こえた気がした。




──???side──


「久しぶりの日本ね。」


空港で1人呟く、周囲の視線を独り占めしている私。

所々から、高校生?1人か?なんて声が聞こえる、年齢の割に若くみられるのは嬉しいけど流石にそろそろコワイの域に突入しつつあるわ。


コツ コツ


私の周囲だけ無音、歩くだけで周囲の人達が動けなくなる、なんて罪なのかしら。

空港から出てタクシー乗り場へ移動。


「ヘイ、タクシーさん。」

「どこまで行きましょう?」

「んーとね、この駅まで行ける?」

「……お客さん、ここまで行くとなるとかなりお金掛かっちゃうけどちゃんと払える?」

「だいじょーぶ!」

「一応何回か確認するからね。」


子供もいる母親で立派な大人なのに身長と童顔のせいで信用がないの……

私の最愛の夫の実家に結婚報告に行った時も、お義父さんは『お嬢ちゃん怖かったね』とか言って夫をぶん殴ってた。


「娘達はこんなことないのにな……」


身長も娘達が中学生の時点でちょっと怪しい感じだったのは何故なのでしょうか?

今では私よりも高いんだろうなって……


「ちょっ!お嬢ちゃん大丈夫かい?!」

「ばぃぃ、だいじょぅぶ……」


涙が出てきて、運転手さんが焦りはじめた。ごめんよ。


「これ通報されないよなぁ……?

ちょっと怖いんだが。」


通報なんてしないよぉ〜、ごめんよぉ……


──落ち着きつつ、目的地へ──


「到着したよ?

料金、お願いね。」

「はい!さんきゅー」

「……はい、ちょうど貰うね。」


到&着!

娘たちの居る我が家から2駅離れた電車の駅!


「変わり過ぎててわからんね……」


なんで中途半端なところに降りたかって?娘の1人である栞華が入院してる病院がこの辺りだったはずだから、久しぶりすぎてわからんけど……


「文明の利器!スマホ!」


本当なら私も夫も直ぐに帰りたかった、でもクソ野郎が仕事を押し付けてきたせいでこんな遅くなっちゃった。

っと、そんなどうでもいい考えは置いておいて病院の検索を。


「……反対側じゃん。」


悲報、病院があるのは駅の反対側だった件


???→お母さん



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「娘が入院してると思うのですが、」

「既に退院しております」

「え?」



(背中が暖かいなぁ……)


次回 『どう〜して〜〜♪』





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