Werwolf Jake
ハヤシダノリカズ
スタンプ
「あぁ。あぁ。わーかってるって。うるせえな、クソババア。あぁ、うん、うん……、ゴメンって。引っ越しの手続きとか、荷物まとめてくれたりとか助かったよ。うん、うん……、ゴメンって。正月には帰るから!謝ってんじゃん。ゴメンって。だから、雑煮食べさせてくださいー。スミマセンでしたー。クソババアなんて言っちゃって。……うん、……うん。頑張るよ。うん。ありがとう。じゃあ、また電話するきに」
そう言って、その男は受話器を置く。『チン』と、その黒電話が立てた音が何もない部屋に響く。そして、「ふー」と大袈裟なため息が二つ。一つは電話をしていた金髪の大男、もう一つは開け放たれた窓に腰を掛けているサングラスをかけた黒髪の男の口からそれぞれ出たものだ。
「オマエな、半端に悪ぶってんじゃねーよ。いいお母さんじゃねーか。この引っ越しにも随分手を尽くしてくれたんだろ?そんな人にクソババアなんて言っちゃいけねーよ」
サングラスの男が金髪の男を見上げて言う。
「ハイ……、スミマセン。すぐ近くに坂崎さんがいると思ったら、なんか、緊張しちゃって……」
バツが悪そうに金髪の男は言う。
「それで、一応聞いておくが、ジェイク、オマエスマホは持ってんだよな? 連絡手段がその黒電話のみって事はないよな?」
坂崎と呼ばれた男はサングラスのつるを持って少しずり下げ、ジェイクという金髪の男の目を見つめて言った。
「あ、ハイ。一応用意してきました」
「用意してきた、って事は実家のある……四国の方で? こっちに来る直前に?」
「あ、ハイ。高知ッス。一昨日高知で用意してきました」
「タヌキに化かされて葉っぱをスマホと思い込んでるとか、ねえよな?」
「まさかー。いくらオレが田舎者でも流石にそれは」と、言いながらジェイクがズボンの尻のポケットから出したのは葉っぱだった。
「うぼぉ、ふぇ」
意味を成さない音がジェイクの口から吹き出る。
「ちょっとそれ、貸しな」
坂崎はジェイクの手からその葉っぱを取り上げた。そして、その葉っぱの表面に目を走らせると、「なあ、ジェイク。幼なじみにタヌキのキンバリーってのがいるのか?」と聞いた。
「あ、ハイ。仲間内ではキムって呼んでました」
「そのキムからの手紙だ。『スマホはジーパンのお尻のポケットなんかに入れちゃダメよ。ジェイクはきっとすぐにスマホをそんな所に入れて壊しちゃうんだから! 本物のスマホはスカジャンの内ポケットよ!』だそうだ」
坂崎はニヤニヤとジェイクの顔を見ながらそう言った。ジェイクは顔を真っ赤にしながら、スカジャンの内ポケットからスマホを取り出す。
「んじゃ、番号を教えてくれ」と言う坂崎だったが、頭をかきながらスマホとにらめっこをし始めたジェイクを見ると「いや、いい」と言って、自分のスマホを操作する。
すると、ジェイクの手の中のスマホが賑やかな音楽を奏で始め、ビクッと震えたジェイクはスマホを落としそうになる。ジェイクがたった一つのスマホでジャグリングをしているその横で「その番号がオレの番号だ。登録しておけ」と坂崎は涼しげに言う。
「なんでオレの番号知ってんスか?」
ジェイクが空中のスマホを捕まえて坂崎に訪ねると、坂崎は「そいつの裏側を見てみろ」と、笑いながら言った。
ジェイクがスマホの背面を見るとそこには、大きく書かれた11桁の数字とその横に動物の足形が虹色でスタンプされている。
「キム……」
スマホの背面を眺めながらそう言うジェイクの目にはうっすらと涙が浮かんでる。
「イイ友達だな。だが、ホームシックには早すぎる。さあ、行くぞ。住み処の次は働き口だ」
坂崎は立ち上がるとジェイクの肩をポンと叩く。そして、呆れたように「しかし、ジーパンにスカジャンっていつの時代のファッションだよ。ま、それでも、腹のたつことに、整った顔立ちとスタイルのいい体格してりゃ、それなりに映えるもんだな」と言った。
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