第7話 孤児院の子供たち
ズラリと並ぶ、色とりどりの子供たち。赤に青に緑に……と、日本ではまず見られないであろう髪と瞳。それの視線が俺に注がれる。日本では見慣れないカラフルな子供たちと、真っ白な壁で目がチカチカした。人数は十人を少し越えた程度であるが、緊張はする。
獣耳と尻尾が生えてる子、ツノが生えてて耳が尖ってる子、そしてこれと言った突起物の無い『普通』の子。昨日の段階ではまだどこか夢見心地で、異世界では無いのではないかなんて考えたりもしたのだが、俺の知識では獣耳っ子もツノっ子も実在しない。やはりここは異世界だった。
現在、未明は教会にて暮らしている孤児たちの前に立っていた。日が昇って数時間経っても目覚めることがなく、陽が部屋に突撃し「何時まで寝てんだ!!」と昭和の母ちゃんが如く布団を引き剥がされたのである。絹を裂いたような悲鳴が未明の喉から出たが、さらに陽にド突かれるだけだった。
風呂に叩き込まれたかと思えば、着ていた服は汚いと没収された。代わりに着替えとして渡された神父服に袖を通す。今代がシスターだけというだけで、先代は神父も居たらしい。真新しさのない服ではあったが、確かに自身が先程まで着ていた服よりはマシだった。こちらもシスターの修道服と同じく白と青を基調としたデザインだ。
そうして、朝食と子供たちが並ぶ食堂に通される。
子供たちのどこかキラキラとした視線を感じながら、陽の隣で大人しく待機。まるでペアルックのような装いであるが、渡してきた当の本人は何も感じていないらしい。
「えーそれでは、今日から新しく入る記憶喪失のバカだ。皆いじめんなよ」
「記憶喪失ではあるけどバカじゃないよ? そこは名前言お? ミメイってちゃんと呼んで?」
大人しく待機している場合じゃなくなった。
バカではない。バカではないぞ。健全な男子大学生(見た目高校生)なだけでバカじゃないぞ! 俺は自分の尊厳を守るために否定するからな!
「よぅ! よろしくなバカ!」
「仲良くしようねバカ!」
「バカ呼びやめて?」
しかし純粋無垢な子供(仮)は素直に『バカ』呼びをしてきた。うーん初っ端から交通事故か? 頼むから名前で呼んで?
「安心しな、新しく来た兄ちゃん!」
「! ちびっ子……!」
「おう! バカには優しいぜ、おれは!」
「バカじゃねーから!! 俺キミらより歳上よ!!?」
わちゃわちゃと未明に群がるは10歳前後の子供たち。
救いの手と見せかけてバカ呼びの片道切符だった少年を中心に「頼むからバカ呼びはやめて」と未明は頼み込むこととなった。一部の子供が本当に『バカ』が名前だと思っていたことが判明したり、陽とある意味お揃いな神父服をずるいと言われたり、てんやわんやしながらもどうにか朝食になった。
……ちなみに、元凶である陽はニヤニヤと笑っていた。妙なところでボケるシスターである。
右には犬耳犬しっぽの少年、左にはツノの生えた少女という布陣の中、俺はパンを口にした。うん、美味い。ちびっ子達の好奇心キラキラお目目が気になるが、無視だ。腹が減ってるんだすまんな。あー美味いパンだ。フワフワしている。
でもなんで陽とこんなに席離れてるんだろうな。ボロ出さないように近くで見張るとかしないの? あ、しないんですか、そうですか。
「さっきはごめんなミメイ。おれは『コラル』って言うんだ! よろしくな」
「おっおう、よろしく」
未明に真っ先に声を掛けてきたのは犬耳犬尻尾の少年だった。ショートヘアでいかにも元気ハツラツな少年漫画の主人公といった雰囲気。でも、髪も目も桜色だ。どぎつい色ではないが、同系色だから昨日のピンクグマを思い出してしまう。服はVネックの白シャツにオフショルの黒セーター、首輪のようなチョーカー。闇系男子っぽい見た目なのに光属性を感じる……。
コラルの勢いに少し動揺しつつも、疑問に思っていたことを口にした。
「そういや君って犬の耳生えてるよな、獣人?」
「あたりだけど、その呼び方やめたほういいぞー? 差別用語だせそれ」
「!? ごっごめん!」
まさかの初手地雷。何気なしに聞きなれた『獣人』という言葉を口にしたのだが、差別用語扱いとは思わなかった。さすが異世界、予測不可能だ。
「謝ってくれたからいいぜ! マジで何もわかんねーんだな。おれみたいなのは『獣族』ってんだ。おれは人族とのダブルだから人族要素多いんだけどさ」
「魔人とか獣人とか、亜人種みたいな呼び方は良くないって言われてるからねー。人族が基準で他が下みたいに感じるとかなんとかで」
ヌルリと会話に入ってきたのは左に座っていた少女である。
糸目で瞳の色はわからないが、濃い青紫の髪が印象的だ。左目が見えないメカクシスタイルのミディアムヘアー。頭の左側から拳ほどの角が生えている。服は黒のキャミソールに、髪と同じ色のマフラー。キャミソールだけで寒いのなら素直に上着を着ればいいと思ってしまうが、ファッションなのだろうか。ショートパンツにソックスだし……。
ティスタはスープを口にし、きちんと飲み込んでから話を続けた。
「あ、わたしは『ティスタ』。『魔族』だよー。耳が尖ってて、ツノがあるでしょ? これが魔族の特徴ね。昔は魔物なんて呼ばれた事もあったらしいけど、『魔物』も差別用語だから気を付けてね」
「他には『妖族』のやつなんかもいるぜ。こう、耳が長くて魔力がいっぱいある。んで病弱なのも特徴だな」
獣族、魔族、妖族。
聞きなれない言葉が二言混じるが、知るものに変換すれば分かりやすい。獣族は獣人で、妖族は特徴からしてエルフのようなものだろう。『エルフ』はわからないが『獣人』が差別用語なのは確定なので、あくまで覚え切るまでの脳内変換だ。それは許して欲しい。
「妖族はなー、種族柄すぐ体調崩れるんだよ」
「あぁ、それで見当たらないのか? 別室で食べてるとか」
獣耳の子やツノの生えている子は疎らに見えるが、妖族と思わしき長い耳を持つ子供は見当たらない。
「いや、ウチにいる妖族のヤツ──『ディアマンテ』はギルドの依頼で出張中だ。アイツはココだと年長で、唯一ギルド登録と単独外出が許可されてるんだ。ま、出稼ぎみたいなもんだよ」
「へぇ、そういうのもあるのか。」
外見は詳しくわからないが、病弱なエルフというと回復役のサポーターとかだろうか? 家のために働く儚い系金髪巨乳美少女が浮かぶ。凄く性癖です。
「『久しぶりの火山地帯よ! 血と汗滴る闘いが出来るわ!!』って喜んでたなぁ。愛用の大太刀せっせと研いてさぁ」
「病弱とは???」
脳内にいた儚い系エルフが粉々に砕け散った。
回復役じゃないの? 護身用とかじゃなくて前線で大太刀ぶん回すの?? 闘いに『生』を感じちゃうバーサーカーなの??? せめて弓矢にして? エルフのイメージ守って???
「病弱だよ、無茶すると血を吐くぜアイツ。それでまた『魔力が出たから動きやすくなったわ!』って喜ぶ」
「あっわかったその子男の子だな?」
「ディアマンテは女だよ、今年で14歳」
ほんのちょっぴりの希望すら打ち砕かないでくれ。
「性格は周りが過保護だった反動らしいよ」
「それが嫌で家飛び出したんだってさ。んでぶっ倒れてカミナに拾われたんだ」
「パワフルゥ」
家庭事情はまぁー置いといて、そんな感じになったのはどこぞのシスターさんのせいじゃなかろうか。あのオラオラ系シスターと思春期の子供会わせたらそんな感じになるだろ。多分「力無しで喚いても変わりゃしねぇ。とりあえず強くなれ、強くなりゃ周りは『耳を傾けざるを得ない』状態になる。生きる場所くらいは提供してやらぁ、来い」とか言ったんではなかろうか。
…………言いそう。神を信じないタイプのあのシスターなら言いそう。
食事をしながらも、子供たちと未明は和気あいあいと話をした。
価値観や道徳性などの違いを擦り合わせたりだとか、あくまでも世間話レベルのものである。しかし、この世界の知識面では産まれたばかりの赤ん坊と言っても過言ではない未明からすれば、これらは値千金のものとなる。
「カミナってばこないだ村に来た山賊を返り討ちにして舎弟にしたんだよ」
「ソッカァ」
「その前はワイバーンを屈伏させてたよね」
「シスタースゴイナァ」
所々おかしい情報が闊歩したが、気にしていたら何かが終わりそうで彼はツッコミを放棄した。
その点は同意する。子供たちから入手できる約一名の情報がぶっ飛んでいる。もしかして君前作ヒーローだったりする? え、違う? これが第一部の第一章? 前作なんてない? うーん存在がバグか?
陽に対する純粋な疑問を抱えつつ、未明は大人しく食器を片付けた。
純粋ったら純粋である。だって同じ転生者なのにレベルが違いすぎない? 色々と。
何はともあれ、昼からは陽によるありがたーい座学が開かれる。午前中は掃除やらなんやらに使われるが、世話になる身なんだからそれくらいはしよう。ヒモにはなりたくない。
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