来世に期待で、また『アイ』ましょう! 〜俺はチートじゃないが、拾ってくれたシスターが最強だった〜

綱辺暁

第一章 ハロー、ニューライフ。

プロローグ

 ────ずっとずっと昔から、同じ夢を見る。それは頻繁に見るものではないが、記憶から消える事がない。忘れかければ再び見ることとなり、それは常に俺の脳内に在住していることとなる。

 いったい、いつから見るようになったのか……なんてことは思い出せない。だが、逆に言えばそれほどに、その夢は俺と共にあるのが当たり前のものだった。俺の記憶の一部といっても、差し支えないほどのものだった。


 夢の中で真っ先に飛び込んで来るのは、鮮烈な赤と黒。ポタリポタリと垂れるそれは、よくよく見れば血だとわかる。真っ黒な印象を受ける誰かから、それは滴っていた。

 夢の中の俺はヤケにボロボロで、身体を動かす事ができない。声を出すこともままならない。辛うじて動く瞳によって、自身が真っ白な服と青い装飾品を身に付けていることがわかる程度。……まぁ、その真っ白な服も血に染まっているのだが。

 いつもその『誰か』は言葉を口にしていた。なんと言っているのかは分からないが、何かをしゃべっていた。


 ゴポ、と俺の口から血が溢れる。



「     」



 滴る血がその『誰か』のものなのか、はたまた返り血なのかはわからない。俺が重傷であることを踏まえると、返り血の可能性が高いとは思う。まぁ、滴り落ちるほどの返り血だとすると、出血多量で俺は死んでしまっているはずだ。『誰か』も少なからず血を流しているだろう。

 どのみち血塗れの人間が吐く言葉なんて恨み言だと相場が決まっているのだが。

 …………けれど、その『誰か』はいつもホロホロと泣いているのだ。顔はハッキリ見えないが、地面を濃く染める水滴が落ちる様はやけにハッキリと認識出来た。

 ポタリ、ポタリ、ポタリ。

 あぁ、また染みが増えていく。


 ただの夢。本来であればそんな一言で片付けられるようなものだった。しかし、夢を見ると俺の中の何かが『忘れるな』と囁くような気がするのだ。あくまでスピリチュアル的な……第六感のような根拠の無いものだ。

 それでも、聞きたくてたまらない。知りたくてたまらない。


 なぁ、アンタは誰なんだ。なんでアンタは血塗れなんだ。なんで俺もアンタもボロボロなんだ。俺に何を伝えたいんだ。アンタと俺に……一体何があったんだ?


 いつも通り声が出ない。この夢を見る度に、言おうとしているその言葉。聞きたいのに、聞けない。夢のクセに俺の思い通りにならない。夢らしいおかしな事があるくせに。夢なのに夢らしくない、謎の夢。

 視界の隅で、『誰か』が持つ真っ青な刀が煌めいていた。



「あぁ──約束してやるよ」



 ──今まで聞こえることの無かった声が、初めて聞こえた。

 初めて聞こえたその声は、やけに掠れていた。絞り出すような小さなもの。苦々しいような、渋々というような……それでもどこか、優しい。そんな声。性別はよくわからない。ただ、知人にこんな声の奴はいない。いったい誰なんだろう。



「腐れ縁だ。約束してやる、約束を守ってやるよ。は、こんな縁はごめんだがな」



 わからない、わからない。お前は誰だ。何を約束したんだ。

 俺とお前に──いったい何があったんだ。これは何の夢なんだ。俺はなんで、ただの夢にこんな執着しているんだ。



「あぁ、ちくしょう。大嫌いだ。お前なんて大嫌いだ。こんな、こんな事に巻き込みやがって」



 俺は、アンタと何を約束して、何に巻き込んだんだ。



「大嫌いだ、大嫌いだ。次に逢えたら、ちゃんと言ってやる。絶対に言ってやるからな、クソ野郎」



 わからない、わからない、わからない。なぁ、頼むよ、教えてくれよ。好きなだけ罵倒していい。好きなだけ斬ったっていい。

 アンタの名前は、何なんだ?



「なぁ……お前の本当の名前、教えろよ」



 あぁ、答えなければ。これにだけは答えなければ。聞きたいことをかなぐり捨ててでも、アンタの名前を聞けなくても、これだけは。

 絶対に。俺は、俺の名前、名前。俺の、『本当の』名前。



「お……れ、は────」



 そうして今日も、俺は夢から覚めるのだ。

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