第一回桜花スターダム会議

「はい、というわけで第一回桜花スターダム会議を始めます」


 時は四月頭。俺とスタッフ五人衆が一同に顔を合わせての初めての会議。

 この会議のミソは俺からしたら初対面なのに、相手は顔なじみみたいな態度を取ってくるから距離感がよくわからないところだ。向こうから振られる会話で親しさを図っていくしかないのが辛い。

 ちなみに、桜花スターダムというのが事務所の名前だ。


「議題はもちろん、タレントがいない件について。山田君、進行よろしく」


「はいはーい。それでは現状について軽くまとめさせていただきます。

 桜花スターダムでは現在タレントがゼロ、存在しない状態です。設備は3Dフルトラッキング撮影ができる施設が一つ稼働済み、残りの箱は追々社長が設備投資してくれるとのことです」


 なんかそういうことらしいです。


「そんなわけで現在の会社の収入はゼロ! 支出を合わせると赤字垂れ流し!

 つまり、可及的速やかにタレントに所属してもらう、設備の貸し出しで赤字の補填をするを達成しないといけないのです」


 全員が一斉にうんうんと頷く。五人とも危機感は感じているようだ。

 現状を話し終えた山田君から妻橋さんが話を引き継ぎ、今後の話について話し始める。


「つきましては第一回オーディションを執り行います。審査員は社長と私と大塚さん、募集期間は明日より三週間後まで。年齢は問わず、とはいっても上限はなくとも下限はある程度設定します。

 まずは応募者を映像審査、合格者を二次審査で直接オーディションします。桜花スターダムの一期生は女性二名を予定していますが、合格ラインを越えても採用に至らなかった応募者、男性の応募者も二期生としての勧誘も行います。

 また、一期生の二人は合格したのち、直ぐに合計十時間のコンプライアンス研修を受講させ、来月のデビューを目指します。

 ここまでで質問はありますか? なさそうなので、以上で会議を終えたいと思います。

 社長はこの後撮影があるので残ってください」


「え?」


 半分寝ながら聞いてたら居残り宣言された。これって怒られるやつ?

 いや、撮影って言ったな。撮影って何を撮るんだ。







 で、俺はなんで黒のタートルネックにブルージーンズを着させられているのでしょうか。

 


「発表と言ったらジョブ●ですよ」


「山田君、今は二〇三七年なんだけど」


 彼が亡くなったの二〇一一年なんだけど。


「偉大な人物とはいつまでも模倣されるものです」


 答えになってねぇ。


「ぶっちゃけちゃうとある程度ネタに走ったほうが拡散されて宣伝効果が高くなるんですよ。桜花スターダムは無名も無名、誰も知らないんですから社長が泥をかぶってください」


「君が広報だろ? 君がやるべきでは?」


「今後、営業も兼ねて案件先と打ち合わせするときにイメージが悪くなる可能性があるので申し訳ありません」


 くっ、理路整然と反論を潰してきやがる。

 俺がどうにかしてごねてジョブ●スタイルを回避できないかと考えていると、黙って尾根さんと機材の調整をしていた妻橋さんが一言。


「私がやりましょうか?」


「……俺がやります」


 流石に還暦手前の人に恥はかかせられないよ……。




「みなさん、こんばんは。桜花スターダムの鈴鹿静時です。

 この度、桜花スターダムではVtuberタレントを募集します。応募人数は女性二名、3Dの身体と最高の配信環境を約束します。

 今回のオーディションは女性が対象ですが、男性も参加していただいて構いません。既に二期生まで送り出す準備を我々はできています。

 躊躇わずに、お手持ちのスマートフォンに思いをぶつけて我々に見せてください。

 では、最後に一言。

 スティーブ・ジョブ●は素晴らしい言葉を私たちに残してくれました。

 もし今日が人生最後の日だとしたら、今やろうとしていることは本当に自分のやりたいことだろうか?

 キミの、アナタの、やりたいことはなんですか? ご応募お待ちしています。

 Vtuberのスターダムを駆け上がるのはキミだ!」


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