第2話
元気いっぱいの新人冒険者の少年たちを送り出すと、また暇になってしまった。
おっさんの朝は長い。
さっきの人間観察の続きに
確か隣の受け付けは、この間入ったばかりの新人嬢だったな。何か問題でも起きているのだろうか?
少しの間見てみるが、新人で不馴れなことを差し引けばこれといって問題が起きているように見えない。
ん?もしかしてあれか?文字を読むのが苦手なのか?
これは、今までもよくあった。
そもそも平民の識字率自体が高くない。
冒険者なんかは読めない奴の方が多いくらいだ。
だから、このギルドでは独自に絵や記号を使って分かりやすいように分類している。
依頼書の枠内は、冒険者用に絵で、枠外には職員用に色んな記号が振ってあるんだ。
この方法が採用された時、俺は記号自体を覚えるのに苦労したんだ。
だから、自分専用に覚える方法と記号一覧を作って対処したんだ。
実は今でも時々確認するために引き出しに入れてある。まぁ普通に文字を読めばいいのだが。
引き出しから、俺の作った確認表を取り出し、隣の受け付けにそっと置く。
新人嬢と目が合ったので促しておく。
余計なお世話かもしれないけれど、少しでも役に立てばいいのだが。
また、人間観察に戻っていく。
そんなことをしていると、今度は買い取りカウンターの方がなんだか騒がしい。
少し距離が遠いので詳しくはわからないが、何やら揉めているようだ。
受け付けの為に並んでいる冒険者たちも、そちらを見ていて買い取りカウンターに多くの視線が集まっている。
並んでいる冒険者たちが伝言ゲームのように囁いているのが聞こえ、起きている問題の内容がわかった。
どうやら見たことのない薬草が持ち込まれたようだ。
冒険者たちの伝言ゲームによると、その薬草自体この辺では珍しいものなんだが、色が違うらしい。
あ~、その話どこかで聞いたことがあるぞ。
え~、何だったかな?ん~、そうそうだいぶ前にも採ってきたパーティーがいたな。
その時の資料は、どこだったか?
思い出せないのが、どうも気持ち悪い。
古い資料は保管庫にまとめて保存してあるはずだ。
ちょっと探しに行ってみるか。
定位置の隅の受け付けから立ち上がり、裏の保管庫に向かう。もちろん俺がいなくても誰も気にしない。
保管庫の鍵を開け沢山並んだ棚を見ていく。
前にあのパーティーが持ち込んだのは、確か豊作の年だったな。
豊作だったのは、8年程前のことだったはず。8年前辺りの資料の位置は、ここか。
半袖を着ていた記憶があるから夏頃の資料だな。
よし、あった。これだ、これだ。懐かしいなぁ。
おぉ、かなりいい買い取り価格がついてるぞ。これは、あの冒険者たちにも教えてあげないとな。
保管庫の鍵を閉め、表に出るとまだ先ほどと変わらない様子のままだ。
資料を持って買い取りカウンターへ向かい、担当者に資料を渡す。
担当者が資料を読む間、持ち込まれた採取物を見せてもらう。やはり、8年前のものと同じようだ。
冒険者たちに「良かったな」と声をかけ、思い出せてスッキリしたのでまた隅の定位置に戻っていく。
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