ショルダーおつゆ
自由主義体制、社会主義体制、共産主義体制。
どんな政体をとろうとも、結局は{持つもの}と{持たざる者}に分かれてしまう。人の欲に天井はない。権力者は権力を欲する者に靡き、共に欲まみれとなって強奪に励む。たとえ億、兆の単位を手に入れても欲望は尽きることはなく、死ぬまで追い続ける。
彼らに下々の世界は見えない。見ようともしないし、たとえ知っていても、そこから搾取することしか考えない。強者から奪うのは骨の折れることだが、権力なき個々人からの徴収は容易だ。テキトーな理由をでっち上げてから、子飼いのメディアに煽らせれば、ただ働くだけの無関心な者たちを操れる。
そんな無知で阿呆な者たちの前に、突如として、そいつは現れた。
ガッチリとした肩幅が特徴的な、全裸の筋肉男である。
「ふんぐっ」
両腕で力こぶを作り目一杯力を込めると、肩から汁が滴り落ちてきた。
「あれを飲むと幸せになるよ」
誰かがそう言うと、若い男がさっそく試した。背中に顔をくっ付けて、筋肉男の肩から滴るおつゆをゴクゴクと飲んだ。
「汗臭いけど、意外と甘い」
さらに変化があった。
「うおおおおおー、みなぎって、キター」
肩のおつゆを飲んだ若い男が叫んだ。
「俺は金持ちになったー。財布に三百円もあるー、すんごく幸せだー、人生最高」
「わたしも飲むわ」
今度はアラサー女だ。ボディービルダーのポーズをカッコよくキメる全裸男に抱きついて、肩のおつゆを啜った。
「中間搾取って、なんて素敵なの。四割もマージンを取られて、わたしほど幸せな女はいないわ。働いても働いても、けっして生活が楽にはならない。なんてすばらしいことなの」
彼女は目を輝かせて群衆に訴えた。
俺も私も僕もと、多くの者たちがおつゆを飲んだ。筋肉男は数々のキレているポーズをして、彼らに応えた。
「低賃金、最高。もっと安くしろ」
「税金が足りん。呼吸税を導入してくれ」
「奴隷になりたい、奴隷になりたい」
「○○党さん、こんなにも搾取してくれてありがとう。また投票するから。絶対に投票するから」
皆が歓喜していた。誰も彼もが幸せそうである。
筋肉男の肩からは、おつゆが流れ続けていた。
ただしそれは、けっして尽きることはない。
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