おっぱい女
四十歳ニート無職の業太郎が、自室でネットをやっていると、{おっぱい女が出没中。街中がパニックに}という記事を見つけた。
「おっぱい女って何だ。意味がわからんぞ。動画でないかな」
動画サイトで、その記事に関連した映像がないか探そうとした時だった。
「おんどりゃあ、ごりゃあ、ふざけてんじゃねえぞ、皮かぶり野郎め、こんちくしょうめ」
突然、ドアを蹴破って若い女が入ってきた。そして業太郎に向かって罵詈雑言を浴びせかけた。
「うわあ、なんだなんだ、おまえは誰だ、つか、どうやって家の中に入ってきた、おっわ、デッカイ」
女のバストが凄いことになっていた。
「きょっ、巨乳すぎるだろう。おっかしいだろう、そのデカ乳」
女は豊満に過ぎた。体にぴったりフィットするタートルネックの白いセーターを着ていて、デカメロンな胸をイヤというほど主張していた。
「あたしのどこが巨乳だーっ、ナメてんじゃねえーぞ、こんっの包茎野郎がーっ」
白セーターの女は激高しながら自分の頭髪を掻きむしり、容赦なく罵倒した。さらに「これでも巨乳かーっ」と叫びながら胸元に手を入れて、スイカを取り出した。
「ああーっ、ニセ乳じゃんか。てか、スイカ取ったら、がばい貧乳」
女の胸にはメロンではなくスイカが隠されていた。
「っるせー、この野郎、これでも喰らえ」
「ぐえっ」
いきなりスイカが投げつけられて、業太郎の額に見事命中した。まん丸なそれが砕け散って、机の周辺が赤い破片だらけとなる。
「さらにもういっちょう、いくぞゴラア」
おっぱいは二つあるのでスイカも二つとなり、残りが投げられた。
「ぎゃびょっ」
顔中のスイカ汁を拭っていたら、二発目が顔面に命中した。スイカは四散せずに、真ん中からパックリと割れてしまう。鼻血を噴き出した業太郎が、たまらんとばかりに逃げ出した。
「逃がすか、このトウヘンボク。ここで遭ったら百年目の浮気、ゆるさねえーぞ」
「だ、だれか助けてくれー」
久しぶりの外界を、ニートのオッサンが全力疾走する。気づけば、周囲にも血相を変えて走っている男たちが大勢いた。彼らは例外なしに頭や顔がびしょびしょであり、仄かに甘い匂いを放っていた。
「あんた、スイカでやられたのか」五十くらいの背広姿の男が、走りながら業太郎に話しかけた。
「そ、そうです」
「私はメロンだよ。まだ熟していないマスクメロンでね、当たるとすごい衝撃なんだ」
背広男の薄くなった頭髪には、メロンの種と汁がべっちょりと付着していた。
「俺はトマトだよ」
さらに別の男が並んだ。頭と顔と上半身が真っ赤になって、びしょ濡れである。
「トマトは柔らかいから楽だろう」
「そんなことはねえよ。とにかくたくさん投げつけてきやがるんだ」
「僕はキュウイです。トマトさんと同じで、連続して投げてくるので痛いんですよ」
「俺はレモン。これはガチで痛い」
逃げ続ける男たちの数が増えてゆく。それぞれに甘い匂いや柑橘系に香っていた。すべての女の胸にあるのは果物や野菜である。
「これはどういうことなんでしょう。そこらじゅう、おっぱい女だらけだ」業太郎が訊くと、トマトとメロンの男が答える。
「おそらく、貧乳女の逆襲だろうな。男っていうのは、ついつい胸の大きな女を贔屓してしまうからな。頭にきたというか堪忍袋の緒が切れたというか」
「ルッキズムに対する反抗なのだよ。人は見かけで区別してはいけないんだ。とくに女性には平等に接しなければいけない。だからゲームチェンジャーとして、おっぱい女が増殖したのだろう」
男たちの逃走に、さらに一団の男たちが加わった。彼らからは甘い匂いでなく、血なまぐさい臭気が出ていた。じっさい、頭部から出血している者が多数いる。
「それは、どうしたんですか」
驚いた業太郎が訊くと、右側頭部が陥没している中年男が答える。
「極おっぱい女だ。あいつらは容赦しないぞ」
え、っと思って後ろを見た。胸の大きな、いや胸元に何かを入れて巨乳に見せかけた女たちが迫っている。彼女らが胸に手をつっ込むと、巨乳に見せかけていた物を取り出して投げつけてきた。
「うわっ」
ドン、と足元に落ちたそれは硬い地面を凹ませた。
「ボ、ボーリングのたまだーっ」
「うおー、走れー」
男たちの遁走は続く。
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