第83話 ついに奈落から帰還! でも、まだまだやることはいっぱい!

 さて。なにやら大聖女の新事実が判明したりもしたが、四十層ボスも討伐したことで今回の探索も一段落。


 フィオナはすっかりやり遂げた顔で、脱出ゲートに向かって歩いていく。


「あれ? フィオナさん、なにをしてるんです?」

「なにをって……目標としていた四十層ボスを倒したのだ。あとは帰るだけではないのか?」

「まだ帰りませんよ! だって至高しこう聖杯せいはいは、まだ一個しか手に入れてないんですよ!?」


 至高の聖杯は才能レベルを100から120へ上限を解放できる特殊アイテムだ。


 しかも四十層ボスはこれが確定枠に設定されている。だったらキサナとフィオナの分、そして私の忍者で最低三つは確保しなければもったいない。


 また四十層に潜るだけでも、結構な時間がかかるからね。


「え……まさか、魔王とも連戦するのか……?」

「むしろ、しないつもりだったんですか? あんなに弱かったのに?」

「よ、弱くはなかったと思うが……」

「死にそうだと思わない限りは楽勝の範疇はんちゅうですよ。とりあえず今日は休んで、明日の午前中に三連戦しちゃいましょう!」

「あ、ああ……」


 フィオナはなぜかゲッソリとした顔でうなずいた。


 その後の夕飯では、めずらしくキサナとフィオナが長い時間に話しかけていた。


 どこか疲れた顔のフィオナを励ますように、そしてキサナのすすめたワインも少しだけ飲んでいた。きっと大人にはお酒を呑まなければ、やってられないことがあるのだろう。私にはまだよくわからないけれど。


 そして明けた翌日。私たちは脱出ゲートを破壊し、魔王アヴォロスとの連戦を開始した。


 戦闘方法は特に変わらず。というか、変えないことがなによりの安定だ。


 だから当然、鉤爪装備で前衛に立とうとするスピカは全力で止めた。


 さすがに不慣れな戦闘スタイルで突っ込んでいい相手じゃない。スピカには今度、近接戦を教えるという約束をして今日は抑えてもらった。


 連戦については大きく変わり映えしないので、詳細は割愛。


 無事に三度の討伐を成功させ、至高の聖杯を計四つ獲得。せっかくなのでその場で聖杯をすべて使用し、私たちは才能レベル上限を120まで解放した。


 また私は盗賊レベル100から溢れさせていた経験値があったので、使用と同時にレベル104まで上昇した。


「りおりー、意外と早くからレベル100になってたんですね?」

「うん。だから一気に104まで上がっちゃった!」

「……104とは高い数値なのか? リオの活躍を見ていれば、もっと上がると思っていたのだが」


 クラジャンの育成システムを知っているキサナは、もうレベル104だと驚くがフィオナは意外そうだ。


 そうか。レベル100越え未経験の人からしたら、そう思うのも仕方ないよね。


「レベル100からは一気に経験値テーブルが跳ねあがるんですよ。仮にレベル1から100までの経験値を稼ぎ直しても、110くらいまでしか上がらないんです」

「そんな少しの成長しかできないのか!?」

「はい。だからレベル100まで上げた後は、他の才能を100にしてスキルポイント獲得に回した方が効率いいんですよ」


 育成のキモである『主人公転生』は、三才能をレベル100に上げたことで解禁する。


 レベル100以上の育成は修羅の道なので、早めにリセットをかけて周回ボーナスに回したほうが効率が良い。


 すべてのステータスは初期化されてしまうが、周回特典で転生回数×300のスキルポイントを持って再スタートできる。


 それにスキル振りをタダでやり直させてもらえるのは、逆にメリットでもある。


 なぜならスキル振りに完璧などない、ああしておけば良かったと思う点は必ず出てくる。その反省を突き詰めて磨き上げていくことで、よりキャラクターの完成度は高まっていく。


 周回ゲーは時間がかかるけど、試行錯誤しながらプレイヤースキルを高めていけるのもクラジャンの醍醐味だ。


「さて。予定してた作業は全部終わったことだし……そろそろ帰りましょうか!」


 こうして私たちは長いようで短かった、三週間の合宿作業を終えたのだった。



***



 四十層の脱出ゲートで奈落を出た後、私たちは炎竜ハウスへ舞い戻った。


 疲れのたまっていたフィオナと、メイドさんと遊びたいスピカは屋敷に残し、私はキサナと一緒に冒険者ギルドへ。やらなければいけないことはまだ残ってるからね。


 まずは冒険者ギルドへ。


 そこで奈落の探索記録更新と、四十層ボスの討伐報告をしに行った。


「……さすがだね。まさか一気に二十層から四十層まで更新するなんて」

「ありがとうございます! いずれは時間がある時に、最奥の踏破報告もするつもりですよ!」

「リオさんが言うと、まるで冗談には聞こえないね」


 ガーネットの先輩だった、細目の受付嬢――ダフネが困ったような笑みを浮かべる。


「じゃあこれが三十層と四十層ボスの初討伐特典。攻略備忘録の提出もよろしく頼むね?」

「わかりました! でも提出は遅くなっちゃいそうなんですけど……大丈夫です?」

「構わないよ。そもそも三十層に挑戦しようとする冒険者なんて、ほとんどいないから」

「でも十層までの攻略者は増えたって聞きましたけど」

「そうだね。ここ最近、冒険者連中の成長が目覚ましいからね。Aランクの冒険者はここ数ヶ月で倍くらいにはなったよ」


 どうやら才能継承の一般化と、あたたか牧場の殺虫レベリングで冒険者全体の質が上がっているらしい。


 飛竜特需で魔物肉の採集クエストも急増している。とりあえず冒険者ライセンスだけでもとっておく、という人も増えてギルドの仕事量も倍増しているようだ。


「……いやあ、なんか申し訳ないです。こんな時期にガーネットさんを引き抜いたりしてしまって」

「気にしなくていいよ、そんなこと。そもそも受付嬢なんか長く続ける人は少ないからね、冒険者と結婚して辞めていくコも多いくらいだし」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ。だからまた一人持ってかれちまった~くらいにしか思ってないよ」


 ダフネは手をひらひら振りながら、なんでもないことのように言う。だがその後、私に顔をぐっと近づけ――


「でもガーネットは私のかわいい後輩だ。連れて行ったからには、ちゃーんと幸せにしてもらわないと困るよ?」

「……はい、必ず!」

「それなら、よしっ!」


 ダフネさんとはそこで別れ、ギルマス部屋のグレイグにもお礼を言いに行った。


 だがグレイグには「そんなことで礼なんて言いに来なくていい。聖火炎竜団を連れ戻した借りを返しただけだ」と言われてしまった。


 そして冒険者ギルドを出た後、同行していたキサナがこんなことを口にする。


「……この町は、いい人ばかりだね」

「うん! ニコルの近くで転生できたのは、本当にラッキーだったよ」


 生まれ育った村はお世辞にもいい場所とは言えないが、近くにニコルがあったという一点にだけは感謝してもいい。


「じゃあリブレイズの領地も、この近くに作る予定だったりする?」

「ハッキリとは決めてないけど、そうできたらいいなって。……もしかしてキサナちゃんは別の場所が良かったり?」

「ボクはどこでもいいよ。それにリブレイズのリーダーはりおりーでしょ? 現実リアルでもゲームでも、ボクはリーダーのやりたいことに付き合うつもりだよ」

「ふふっ、ありがと!」


 私たちはおしゃべりをしながら、次の目的地を目指す。向かっているのは私にアサシンダガーを打ってくれた、モルガンの鍜治場だ。


 訪れる理由はもちろん、終末剣・ラグナレクを完成させるため。


 残った一週間でどこまで強い装備を集められるか。――それが合宿四週目の課題だった。




―――――



 ☆達成☆


 奈落三十層ボス討伐報酬:700万クリル

 奈落四十層ボス討伐報酬:1000万クリル


 7734万クリル→9434万クリル

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