女盗賊に転生したけど、周回ボーナスがあれば楽勝だよねっ! ~100%盗むと100%逃げるで楽々お金稼ぎ!~
遠藤だいず
第1話 これってもしかして、ゲーム転生?
「リオ。お前は
「私が、盗賊……?」
村の中心にある聖堂。そこで覚醒の儀を終えた神官が、気まずそうな表情でゆっくりと首を縦に振る。
その言葉を聞いた
盗賊。
それは神にさずけられる才能の中でも、最底辺と呼ばれる才能のひとつ。
(ど、どうしよう。このままじゃ私、村から追い出されちゃう……)
私――リオは
十五歳の誕生日を迎えた今日。国のならわしにしたがって『覚醒の儀』を受け、才能をさずかりに来た。
才能は後の人生を左右する大事なもの。なぜならほとんどの人が、得られた才能を生かす仕事につくからだ。
人は誰しも体内に魔力を持っていて、覚醒の儀でさずかった才能にだけ魔力を
才能は大きく二つの種類に分けられており、それぞれ『
生活種は作ることに特化した才能だ。
戦闘種を得た者には、人の
しかし、盗賊だけはどうしようもない。
戦闘種ではあるが身体能力も伸び悩み、得られるスキルも『盗む』と『逃げる』に特化したものばかり。
戦闘種は兵士や冒険者を目指すのが普通だが、盗賊はどちらを目指しても成功には程遠い。
もちろん世の中にはさずかった才能とは、無関係の仕事に就く人もいる。だが盗賊にはそれすらも難しい。
なぜなら仕事場の物がなくなっただけでも、盗みが得意という理由で疑われてしまうからだ。疑いの目は人間関係を悪化させ、ほとんどの人は職を追われてしまう。
どんなに善良な人でも仕事を続けることができず、最後は盗賊団の仲間になるしかない。……そう思われているからこそ、盗賊はますます社会の信用を失っていく。
それが盗賊の行きつく先、誰もがそう信じてしまうほどに。
私、リオは覚醒の儀にすべてを賭けていた。
この国ではめずらしい黒髪を持つことから、私は孤児院でも仲間外れにされていた。だから大人になって一発逆転するつもりで生きてきた。
どんな才能をもらってもいいように、村にある古書館の蔵書三万冊を読んで世の中のことを調べつくした。
薄汚い孤児の私でも、いい才能をもらって立派な大人になれば人生も変わるはず。……そう思って、いたのに。
突然の不幸にショックを受け、パニックになり――――なぜか前世の記憶を思い出した。
(……あれっ? ここってクラジャンの世界じゃない?)
クラジャン。それはクラン・オブ・ジャーニーと呼ばれるゲームの略である。
複数のキャラクターを編成し、ダンジョン攻略をメインとしたMMORPGゲームだ。
前世では家にいたほとんどの時間を、クラジャンのプレーに
総プレー時間はメインアカウントで千時間を遥かに越えている。サブアカウント四つも含めれば何時間か見当もつかない、というか計算したくもない。
(でも、どうして私はクラジャンの世界に?)
前世の記憶の最後では、十一回目の『主人公転生』のボタンを押したところで終わっている。
主人公転生とは、いわゆる強くてニューゲーム的な機能だ。主人公の能力を自ら初期化させる代わりに、様々なメリットを得ることができる。
つまり私はそのタイミングで、ゲーム世界転生でもしたということ?
そ、そんなのって…………最高じゃん!
「やったあぁーーーーーっ!!!」
いきなり大声をあげたせいで、神官が驚いて腰を抜かしてしまった。
「えっ、本当にクラジャンの世界なの? しかも周回を始めた瞬間に転生とか……もしかしちゃったりする?」
ここがゲームの世界なら、自分のステータスくらい覗けるはず!
「……ステータス、オープン」
私は自然とそのような言葉をつぶやいていた。するとゲーム同様のステータスバーが、目の前でホログラム表示される。
ステータスを開いて真っ先に確認するのは、もちろん転生特典に設定されている引継ぎスキルポイント。現在のポイントを確認するとそこには……転生十一回目のポイント上限、3300の数値が刻まれていた。
「うおぉーーーーっ! 本当に私はクラジャンの世界にやって来たんだぁっ!」
歓喜のあまり、その場で大はしゃぎ。
腰を抜かせていた神官を立たせると同時、そのまま両手を繋いで踊り出す。
「しかもよりにもよって盗賊だなんて、神様に感謝ですっ!」
「……は、はぁ。そこまでお喜びいただけて、なによりでございます」
困惑顔の神官とダンスを終えた私は、軽くお礼を言って聖堂を後にした。
「ふふっ、クラジャン世界に転生できたのも最高だけどさ。盗賊っていうのがまた気が利いてるよね!」
盗賊は実のところ、ハズレ才能なんかではない。
もちろん加入初期はステータスも低めで、活躍できるとはお世辞にも言えない。
唯一の利点といえば魔物からアイテムを盗めることだが……軽装しか装備できないため序盤から苦戦しがちだ。
だがプレイヤーのレベルも十分に育ち、主人公転生も繰り返していると唯一無二の働きをするようになる。
つまり莫大なスキルポイントを継承したいまの私は――
「……とりあえず孤児院に戻ろうかな。
私は盗賊になったショックで前世の記憶をよみがえらせたが、この世界を生きてきた
先ほどステータスオープンと口ずさんだのは転生した私ではなく、この世界に生まれた私だった。どうやら記憶が上手く合体した、というコトなんだろう。
つまり、この体には二人分の知識が詰まっている。
孤児のリオは将来の一発逆転を狙い、現実に落としこまれたクラジャン世界を必死に勉強した。そして前世の私はクラジャン廃人だったこともあり、攻略サイトを丸暗記したような記憶を持っている。
そんな二人がコンビを組んだらどうなるかなんて、説明するまでもない。
盗賊の才能に落胆していた孤児は、もうどこにもいなかった。いまの自分には一人で生きていく力がある、孤児院へ向かう足取りもスキップするほどに軽い。
「よし! さっさと孤児院に戻って、
既に先の楽しみしか見えてない私は、楽し気にそんなことを口にするのだった。
―――――
ゆるく、楽しく、をモットーに更新していきたいと思います。
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