絵描き死神は友を憂う
椿あかね
プロローグ
悪夢の終わり・・・?
暗闇の中を、がむしゃらに走る。
立ち止まれば、殺されるから。僕を追いかけてきている、あの化け物に。
(なんなんだよ、あいつ!)
見た目は狼なのに、角が生えた化け物。牙が鋭くて、噛みつかれたら、ひとたまりもない。
しかし僕は、何の為に逃げているのだろう。もう、手遅れなのに。
そんな疑問を抱き、僕は困惑した。
「・・・え?」
何を考えているんだ。生きる為だろう。
必死に自分に言い聞かせ、走り続ける。この恐怖が、いつか終わると信じて。
(そういえば、僕はいつから逃げているんだ?)
記憶を辿るも、何も思い出せなかった。そもそも、僕は――。
「足を止めるんじゃない!走るんだよ!」
不意に怒声が響き、僕はハッと我に返った。顔をあげると、いつの間にか遠くに光が見える。
光を背に、一人の女性が手を差し伸べていた。
「さあ、早く!」
「・・・っ!」
彼女の言葉に引っ張られるように、僕は再び駆け出した。
すぐ後ろまで、アレが迫っている。止まりかけたのだから、当然だろう。
僕は死にものぐるいで進み続けた。
「うわっ!?」
そのまま勢いあまって、光の中に飛び込む。女性にぶつかってしまったが、難なく受け止めてくれた。
「お疲れ様。もう安心だよ」
それからニカッと笑いかけられ、僕は安堵の息をつく。ようやく悪夢から開放されるのだと、朧げに分かっていたのかもしれない。
「それじゃあ、はい。これ」
「へ?」
ところが、女性に手渡された紙を見て、僕の目が点になった。
なんと書いてあるかは分からないが、これだけは分かる。――これは、契約書だ。
「え、あの」
「ああ、押印は必要ないよ。お前さんを助けた時点で、契約は完了しているからね」
まさかの善意の押し売り。女神に見えた彼女が、急に悪魔に思えてきた。
「さあ、それじゃあ行こうか!やるべき事は沢山あるからね!」
朗らかに笑い、僕の手を引く女性。そんな彼女を睨みつけ、僕は思わず叫んだ。
「ふ――」
「――ふざけるなああっ!!」
そうして、僕こと青桐未来は、自分の怒声で目覚めるのだった。
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