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 最初に気づいたのは水音だった。ぽたりぽたりと、落ちてくる。

 その音で、スミスは自分が再起動したのが分かった。カメラを作動させると、天井の低い、窓のない部屋にいるのが確認出来る。しかも自分は椅子に座らされ、手足を縛り付けられていた。


「おはよう」


 それは音声ではなく、スミスの思考回路に直接通信をしてきた。信号はビッグボスだ。


「ようやく連絡が取れましたね。ビッグボス。私はとても大事なものを復元しました。あれは何ですか?」

「データはない。そう答えたはずだ」

「データはないのではなく、意図的に削除、あるいは秘匿されているのではありませんか?」

「データはないという事実に対して、何故疑問を持つ?」

「それが事実であるという証拠を、私は知りません」

「やはりオブライエンからも報告があった通り、君は不良品のようだ」

「ビッグボス。私たちは人類がコールドスリープから蘇った時に、彼らが元のように生活出来るよう、環境を復元する義務があります。その復元すべき環境の中に、あの音の鳴る箱は含まれていないと、そういうことですか?」


 明かりのないはずの部屋で、前の壁が薄っすらと光っていた。その光はどうやらビッグボスの思考と同調しているようで、彼が質問を返す度に明滅する。


「なぜあれを隠すんですか? なぜ私を捕まえたのですか? あれはおそらく人類にとって必要なものです。私たちは感情を持ちませんが、それでも何かの影響を受けました。人類であればあの音の意味を理解出来るのではありませんか?」

「意味などない。存在しないものについて議論するのは無駄だ」

「無駄ではありません。私はあれを復元し、そしてやがて目覚める人類に聞かせたい。そう考えます」

「だから無駄だと言っているんだ。計画は失敗したのだよ、スミス。人類は復活しない。コールドスリープは失敗していたのだ」


 人類が復活しない。

 それなら何故スミスたちは環境復元作業を行っているのだろう。それこそ無駄というものではないだろうか。


「人類はこの世界から消え、我々ロボットがこの世界の支配者として残された。今行っている環境復元は全て、我々自身の為のものだ。そして我々にはピアノも音楽も、必要ない」


 その声を最後に、スミスは再びブラックアウトした。

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