のんびり日記

@Basilmint

第1話

噴水のそばで、魔法使いみたいな恰好をした爺さんがパンくずをまいている。


そのせいで見たこともない鳥が群がっている。


ハトみたいな・・・でも、翼の白と青のラインがやたらキレイだ。


――と、俺の視界にすっと細い腕がさしだされ、木切れのような小さな盆が目の前に置かれた。


盆の上には、薄紫色の透明な宝石みたいなものが置かれている。


思わず顔を上げて、店員さんと目が合った。


彼女はにっこり微笑んでから、


「プリムルの雫です。よろしければ」


「あ、ありがとうございます」


しどろもどろに俺は答えた。


彼女が立ち去ってから、なんだか恥ずかしくなった。


今月に入ってもう三回も来ているから、「よく来る客だわ」と思われているに違いない。


彼女はほかの客にも同じプリなんとかをすすめている。


どうやら食べるものらしい。


見た感じ、寒天でかためた砂糖菓子みたいなものかしらん。


でも・・・つまんでみると、めちゃくちゃ硬いぞこれ。


おそるおそる口に入れてみると、


「あ・・・」


ふわり・・・と、綿みたいに口のなかにひろがって、すうっと溶けて消えた。


ほどよい甘味と不思議な余韻。


それからハーブティーを口に含むと、


「なんだこれ?」


めちゃくちゃうまいぞ!?


もっと少しずつ食せばよかった。


後悔しながらハーブティーの残りをすすっていると、離れた席から他の客の笑い声が聞こえてきた。


たがいに顔見知りらしく、さっきの店員さんと楽しそうに話している。


・・・エルフがどうとか言っている。


親戚にエルフがいるとかなんとか。それで店員さんの耳がちょっととんがってるのはそのせいだとかなんとか・・・。


そんな話が聞こえてきた。




店を出てから、大通りを市庁舎の前まで歩いた。


とくにあてもなく午前中は街中をうろうろして、数日分の食料を買い込んでから昼過ぎには宿に帰った。





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