ツンツンでいじめっ子の幼馴染に、どうやらデレデレ異世界人が憑依したらしい。

未(ひつじ)ぺあ

幼馴染に異世界人が憑依したようだ

第1話 憑依


「……つかぬ事をお聞きしますが、これは転生ですか? 憑依ですか?」





はぁ??????




―――そんなセリフで人が目を覚ます展開、俺、司馬圭介しばけいすけは十七年間生きてきて、一度もあったことがない。



俺が今突っ立っている、ここは病室。



俺の幼稚園からの幼馴染、梶谷葵かじたにあおいが昨日の夜緊急搬送された、病院の中である。



ベッドの上で、小さく瞼を震わせ、うっすらと瞳を開く姿は、長年の眠りから覚める聖女か妖精、天使に見える。



ここからわかるように、葵は一言で言うと、次元を超えた美少女だ。


幼馴染歴十五年の俺が保証するほどに、美少女だ。



大切なコトなので二回言っておいたが、つまりはとんでもない美少女なわけだ。




ツインテールがよく似合う、腰までの亜麻色の髪。愛らしい童顔は、十人中十人が振り返るほど端麗に整っている。


桃色がかった瞳は、一度目が合うと人々の心を容赦なく掴み、その甘く潤んだ唇は誰でも独り占めしたくなるほどに愛らしい。


そして、つい目を引き付けられてしまう豊満な胸に、なめらかに潤う肌。


これらは、葵と目があった人が簡単に恋に落ちるのに十分すぎるものだった。




……そんなとんでもない美少女と俺が幼馴染、と聞くと、どこか華々しい印象を受けるかもしれない。



しかし。


誠に残念ながら。



俺と葵の関係は、華やかさの欠片もないものだった。




『なんであんたが気安く私に話しかけられると思ってんの? やめて』


『視界に入るだけで気持ち悪い。どっか行ってよ』


『私の友達に話しかけないでよね。なにあんた、私とあんたが同格だと思ってんの?』


『私の髪型を褒めたくらいで見返りが得られると思ったら、大間違いなんだからね! 話しかけてくんな!』


『別に、あんたの事なんか、大っ嫌いなんだからね』




目が合うだけでも、罵倒の言葉が飛んでくる関係。


葵は、いつの日からか、俺のことを嫌い始めた。




ちなみに、中学生のことは、まだよかった。


なんなら中学生ながらにいちゃついたりもして、楽しい幼馴染ライフを過ごしていたと思う。


お互いの家にお泊りに行ったこともあるし、なんならデートまがいのことを楽しんだりもした。


つまるところ、俺たちは付き合っていた。



『ふ、ふん、ケイが言うなら、高校生になっても付き合ってあげてもいいんだけどねっ』



中学の卒業式、頬を赤らめてそっぽを向いてそう言った葵は、今までにないほどかわいくて、口づけなんかも交わしちゃったりして、人生バラ色、確かにその時は思っていた。


……のだが。




正式な告白はなかったが、俺たちは自然に付き合い、そして高校に入り。


―――そして、自然に消滅した。




同じクラスに配属されてから、葵の俺に対しての対応は害虫にでも触れるかのように悪くなったのだ。



話しかけようとすると、露骨に顔を背けられ、拒絶される。


なにか手伝おうとすると、『あんたなんて必要ないし』と吐き捨てられ、終了。


最近では、会話を交わすことはほぼゼロに等しく。



だからこそ昨日の深夜、親に「葵ちゃんが事故にあったらしい」と聞かされるまで、葵との接点はないも同然だった。





泣きはらす母親と病室に駆け付けて数時間、眠り姫のように眠っていた葵が長いまつげを震わせ、ゆっくりと目を開いた時。


『なんであんたがいるわけ? 消えろ!』と、俺は開口一番に貶されることを深く覚悟した。


のに。



「かっこいい人ですね……」


「は??」



はあ…………?????



宇宙人がいきなり日本語で話しかけてきても、俺はここまで驚かなかったと思う。



近年隙を見せることのなかった葵が、今、とろんと瞳をまどろませ、俺を見つめている。



「もしやかっこいい人しかいない世界線? かっこいいハーレム? ……うん、やっぱり異世界転生は間違いないですね」


「あ、葵……?」



え、こいつ今、俺と葵の父親を見て『かっこいいハーレム』っつった?


だとしたら趣味が相当悪い。




―――じゃなくてだな!!



「葵!? どうしたの、あんた……」



いつもの冷たいオーラは何処へ、ただ中学生の頃の無邪気なあどけなさを放つ葵(?)の姿に、周りで見守っていた親もただ唖然とするばかりだ。


特に葵の母親は、涙を目にため、震える手を葵に伸ばそうとする。



しばらく朧げに目を瞬かせていた葵(?)は、数年ぶりに見る無邪気な表情のまま病室を見回したかと思うと、最後に俺に焦点を当てた。



途端、おやつをもらって顔を輝かせた子供のように、葵(?)の顔が格段に変化する。



「はっ、あなたはもしや、お見舞いに来てくれた……彼氏? いえ違いますね……あっ! 仲の良い幼馴染とか!? え、えへへへへ、最高じゃないですか!」



ぱん、と勢いよく両手を合わせ、きらきらと顔を輝かせる葵(?)。




…………記憶喪失?




久しぶりに葵(?)の視線を真っ向から受け、俺は慣れなさに目をとっさに逸らしながらも、戸惑いを隠せない。



こいつ今、俺のことが分からなかったのか?


急にボケた? まだ寝ぼけてる?



「いやいやいやいや」



記憶喪失。


実際、よくある事なのかもしれないし、今回はそういう事だろうか。



事故で頭を強打し、記憶がすっぽり飛んでいってしまうなんてこと、よく聞く話。




その方が、昔のような葵に戻っていいんじゃないか――。


そしたら、また笑って話せるときが戻ってくるのではないか――。



そうだ、そうに違いない。


俺も葵も、悪い夢を見ていたんだ。


今日から俺たちは、中学生の時のように、純粋無垢に関わり合える、万歳!!





―――が。


その考えは、すぐに打ち砕かれることになる。



葵は、記憶喪失なんかじゃなかったんだ。



「私、アメリって言うんですけど! これって……憑依ってやつですか? 本当に? 私、現実で死んじゃったんでしょうか? わかります?」


「俺に聞くなよ!!」



急なフリに、思わず突っ込みを入れてしまう。


俺の脳が追い付く前に、葵(?)は次に、頭に当てられた包帯に触れる。



「んー、やっぱり展開が進み過ぎてます。これは憑依で間違いないでしょうね!」


「あ、葵ちゃん……?」



俺のお母さんが半泣きになって、葵の親と震えている。



俺もだ。


俺も、意味が分からない。



そんな意味が分からないだらけの中、唯一のほほんとした混乱の根源は、




「すみませんが、詳しく説明していただけますか? この体の置かれている状況を詳しくお願いします! できれば、出生時点からっ!」





…………信じないぞ。





目覚めたら異世界人が葵を乗っ取っていた、なんて、俺は信じない!!








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ツンツンでいじめっ子の幼馴染に、どうやらデレデレ異世界人が憑依したらしい。 未(ひつじ)ぺあ @hituji08

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