第8話 チート覚醒

 おー、あれがボスか。

 ただの大木にしか見えない。


 名前は『ユグドラトレント』


『レイド戦が始まります。参加しない方は離れて下さい』


 メッセージが出た。

 いよいよだ。

 空が真っ赤に染まり、ユグドラトレントが目を開けた。

 そして咆哮。


 くっ、スタン効果があるのかよ。

 俺は金縛りにあったかのように動けなくなった。

 どうやら、レベルが高い人は動けているようだ。


 ユグドラトレントが蔦の鞭を振るう。

 麻痺してるプレイヤーが攻撃を食らって光になって死んでいった。

 後に残されているのは装備。

 死ぬとああなるのだな。


「固有武器を回収してやるんだ。消えたら悔やんでも悔やみきれない」


 動けるプレイヤーの一部が、残されたアイテムを拾っている。

 その間もボスの攻撃は止まない。


 とうぜんプレイヤー側も攻撃しているが、ほとんどダメージがない。

 俺はさっきの言葉が引っ掛かった。

 固有武器って死んだら落ちて、放っておいたら消えるんだなと。

 じゃあ俺のPythonパイソンスキルは、死んだら消えてしまうのか。


 スキルが拾えるとは思えない。

 ええー、せっかく最強になれそうなのに。

 こんなところで何も武器がない最弱になるのか。

 嫌だ。

 そんなのは許せない。


 動けよ俺。

 やったスタンが解けた。

 俺は、盾になりそうな障害物を探した。

 石碑がなぜかぽつんと建っている。


 ちょうどいいや、盾に使おう。

 俺なんか戦力にならないから、そこで大人しくしておこう。

 石碑の陰に隠れて、みんなの奮闘ぶりを観察する。


「【散弾突き】」


 戦士が突きの動作を取ると、光のエフェクトが出て、戦士の剣からいくつもの光弾が飛び出す。


「【われは内包する、魔法規則。火炎の竜巻生成の命令をレベル30の火魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にありしもの回転進ませろ。火炎旋風】」


 2メートル半を超える炎の竜巻が、ユグドラトレントに向かって進み激突する。

 おお、派手な攻撃だ。


「あれっ、おかしいぞ。魔力が減っている」


 プレイヤーのひとりがそんなことを言った。


「ステータスオープン」


――――――――――――――――――――――――

名前:バーテックス

レベル:3


体力:13/13

魔力:0/22


攻撃:12

知識:18

守備:12

器用:15

俊敏:12


スキル:

  全属性魔法

  Python

  魔道具化 レベル15

――――――――――――――――――――――――


 えっ、何もしてないのに魔力がない。

 完全に詰んだ。

 俺はもう何も出来ないようだ。

 せっかく作った必殺技も役に立たない。

 MPドレインを仕掛けてくるボスだったようだ。


「【われは内包する、魔法規則。水弾百撃生成の命令をレベル25の水魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にありしもの分裂飛ばせ。百裂水弾】」


 あれは向日葵。

 頑張ってるな。


「きゃあ」


 向日葵が蔦の鞭で叩かれて光になる。

 後に残されたのは見覚えのある杖。

 きっと固有武器だ。

 おい誰か拾ってやれよ。

 だが、気づいてないのか、誰も拾いに行かない。

 向日葵の悲しみに満ちた顔が浮かんだ。

 ここで頑張らないと男じゃない。


 だけど、何か戦うための作戦が要る。

 犬死は嫌だ。

 ふと石碑の文章が目に入った。


 【われは内包する、魔法規則。かの者は自分。魔力吸収の命令をレベル1の吸魔魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にかの者の名前を渡せ。極小吸魔】とある。

 極小吸魔の魔法らしい。

 俺は全属性だから使えるはず。


 そうだ良いこと考えた。


for i in range(0,100,1): # 100回ループ

  print("【われは内包する、魔法規則。かの者は自分。魔力吸収の命令をレベル1の吸魔魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にかの者の名前を渡せ。極小吸魔】")


 実行。

 ステータスを確認すると10しか魔力が増えてない。

 10回で1MPなんだな。

 あれっ、ここをこうしてこうやってと、できた。


while 1 : # 無限ループ

  print("【われは内包する、魔法規則。火球生成の命令をレベル1の火魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にありしものを飛ばせ。火球】")

  for i in range(0,10,1): # 10回ループ

    print("【われは内包する、魔法規則。かの者は自分。魔力吸収の命令をレベル1の吸魔魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にかの者の名前を渡せ。極小吸魔】")



 無限火球だ。


「【Pythonパイソン 無限火球.py】」


 炎のぶっといビームがユグドラトレントに向かって伸びていく。

 俺は全速力でそれを追いかけた。

 そして、向日葵の杖を拾い上げる。


 ユグドラトレントは火球のビームを食らってみるみる体力のバーが減っていく。

 勝ったな。


 ユグドラトレントが光になって消えていった。

 俺はPythonパイソンスキルを強制停止。

 辺りは静まり返る。


「チートよ」

「違法プレイヤーだわ」

「バーテックス、その名前覚えたぞ」

「レイド戦にチートを使うなんて許せない」

「そんなにまでして目立ちたいのかよ」

「後でPKしてやんよ」


 くそっ、なんで。

 俺はそんなつもりじゃなかった。

 ただ向日葵の杖を拾いたかっただけだ。


「ダイブアウト」


 くそっ、なんてついてないんだ。

 俺が悪いのか。

 せっかく最強になれたのに、ここで諦めなきゃならないのか。

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