我慢する俺と惚れさせたいお前
碧天
第1話 ゲーム
「やるぞ」
コントローラーをこちら側に突き出して、彼女は不敵に口角を上げる。
「...拒否権は?」
「聞いていてる時点で分かってるんだろ?」
そう言ってコントローラーを投げて寄越す。こちとらアイス食えると思ってダッシュで帰ってきたら姉に食われててメンタルゴリゴリ削られてんねんぞ。少しは休ませろや。
「ハァー...ったく。お前が俺の部屋居るときはロクなことがありゃしない」
そう言いながらもコントローラーをキャッチし、そいつの隣に腰を下ろす。
「そんなこと言って嬉しい癖に」
「どこに嬉しくなる要素があんだ?」
「こんな美少女とゲームできるんだよ?」
「生憎、私めの前には野蛮なアマゾネスしかお見受けできませんな」
軽口を叩きあいながら、テレビの電源を付け慣れた手つきでゲーム機を起動する。
「帰ってきた時姉ちゃんがニヤニヤしてた理由がわかったよ」
「いや~ボクはリビングで待つって言ったんだけどな~。『ヒロちゃん帰ってきたらきっと暑くて汗かいてるからナツちゃんがエアコンつけて涼しくしてあげて?』って言われたから断れなかったんだよね~」
「...あのおせっかい星人が」
それぞれのキャラを選択し、決定ボタンを押すとカウントダウンが始まった。
「まあいいや。その代わりこの鬱憤はお前にぶつけさせてもらうぜ」
「へっ、今回は数時間ネット対戦に潜って修行したんだ!前のボクとは一味違うよ?」
「前と似たようなこと言ってんな」
画面に映る数字がゼロになり、試合が始まる。
カチャカチャ、ガチャ、ガチャガチャ
ガチャチャチャ、ガチャガチャガチャガチャカチャカチャ
「あ、おい!あっ、うっ、くっ!」
「ほらほら、一味違うんじゃないのか?味変すらできてねぇぞ?」
「う、るっさい!」
ガチャチャ、カチャカチャカチャ
ガチャチャチャチャチャ、カチャカチャカチャカチャカチャ
「ふっ、あっ、あん。くっ!あぁっ、くそ、っ!」
「......」
しばらくするとコールが入った。
Game Set!
「あぁ~、また負けた~!」
そう言ってバンザイの体勢で後ろに倒れこむ。
「くそっ、何でこうも毎回勝てないんだ!」
一縷の汗がナツの首を伝う。着ているのが肌着一枚のため、服が張り付いて体のラインを強調している。
「...」
その姿を無言で見つめる俺。するとニヤッと口元を歪め、こちらに視線を向けられる。
「なんだ?ボクの胸を凝視して。意識しちゃったのか?」
「見てねぇししてねぇわ!お前みたいなしおらしさのかけらもない奴、誰が意識するかよ!」
そう言って勢いよく顔を逸らす。
「...してもいいのに」
何か言ったようだがうまく聞き取れない。
「何だって?」
「何でもないよ!」
聞き返しても答えてくれない。まあ教えないってことは大して大事じゃないから大丈夫だろ。
「そういや帰ってきてから着替えてねぇわ。ほれ、さっさと部屋から出た出た」
「...はぁーい」
そう言って不服そうな顔を無視し、部屋の外に押し出す。扉を閉めて歩行音が離れたことを確認してすると――俺は机に頭を打ち付た。
(はぁ~!?何だよあの服装エロすぎんだろ!一般男児だったら襲ってるぞ!俺の理性決壊寸前だっつーの!変な声出すんじゃねーよ!なんかやらしいことしてるみたいじゃねぇか!なんとか平静を保って話せたけどバレてないよな...)
机に頭を押し付けながら脳内で考える。いくら見栄を張っても男の子、意識しちゃうものは意識しちゃうのだ。
(なんとか意識しないようにしねぇと...俺とアイツは幼馴染で友達なんだから...)
■ □ ■ □ ■ □
部屋から閉め出され、トテトテ廊下を歩く。ある程度部屋から離れると唐突にしゃがみ込んだ。
(なぁ~にが『誰が意識するかよ!』だよ!してくれてもいいじゃんか!あんだけ薄着してサービスしてあげてんだよ!?むしろ襲うところでしょ!)
顔を真っ赤にして手をわきわきする。どうやらこちらも限界だったようだ。
「ハァ...いつになったらボクのこと意識してくれるのかな...」
こうして人知れず一組の幼馴染は強大な敵(当社比)と戦っていたのであった...
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こんな幼馴染が欲しい人生だった
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