魔王でありながら勇者との恋が発覚して公開処刑された俺。転生して春から高校生だけど、学年一の金髪美少女が絶対“アイツ”の生まれ変わりな件
はめつ
プロローグ
進学クラスの噂の彼女
俺は誓うという言葉が嫌いだ。
誓う――その言葉は一体どれくらいの期間を指す物なのだろうか。
誰しもが一度は耳にした事があるそのフレーズは、ドラマや映画などのラストシーン、感動のエンドロールで見られることが多いと思う。
例えば『一生幸せにすると誓います』とか、『永遠に愛を誓うよ』など、とりあえず誓うと口にすれば物語が良い意味で締まった気がして満足感に包まれてしまうアレ。
ならばその誓いとはいつまでの時を誓い続けなければならないのだろうか。
一度口から発した言葉は元には戻らないと言うように、『一生幸せにすると誓う』ならば、文字通り一生――つまり死ぬまで誓い続けるのか、或いは互いに誓ったこと自体を忘れるまでか――俺が至った結論は後者。互いが互いを忘れない限り永遠に誓い続ける。それが誓うという言葉の真の正解だと今は信じることにしている。
だが、それなら今も俺は前世での“彼女”との誓い――いや、もはや縛りに近いソレを、転生したこの十五年間もずっと引きずり続けていることになる。
そう、そんなたった一つの言葉で縛られ続けている自分自身のことが俺はとても嫌いなのだ。
△ ▼ △ ▼
これは俺――
「おいおーい。らいと〜?、いい加減帰んぞ〜」
中学からずっと親友の
辺りを見回すと教室はもぬけの殻となり、窓から夕日が差し込んでいる。
「ふっ……てか入学二日目で授業寝てる奴とか絶対お前しかいないやろ」
銀髪オールバックのパッと見イカつい容姿の直人は、呆れたように首を横に振る。
「うっせ。俺は眠い時に寝てるだけ。それより皆は?」
「皆とっくんに帰ったぜ?
「そっか」
「オレたちも今から行くか? カラオケ」
「いや、今日は辞めとくわ」
「まぁオレら、カラオケだけで年に100回は行ってるもんなぁ」
「ほんとそれ、俺ら遊び過ぎ。下手すりゃ家族よりも一緒にいるし」
俺ら――とは中学からずっと一緒に過ごしてきたワイワイグループのことで、高校は一学年に10クラスもある中、強運にも五人全員が同じ一年七組を引き当てることが出来た。
「にしてももう16時とか、やっぱお前寝すぎやろ。いつから寝てたんだ?」
「……六限目開始のチャイムは覚えてるんだけどな」
どうやら六限の途中から意識が飛んでいるらしい。まぁ入学して二日目でバリバリ授業させる方もどうかと思うけど。
「ほんと、相変わらず自由な奴やなぁ」
「だからうっせ。モタモタしてんなら置いてくぞ?」
「いやいやいや。オレがお前を待ってたんだけど? なにか言うことは? 」
「はいはい、ありがとうございまーす」
鞄を持って立ち上がる。教科書は全部置き勉
だ。
「ラーメン一杯でまた起こしてやるけど?」
「じゃあ一人で帰りまーす」
「おいこら、待てっ」
俺は逃げるように駆け足で教室から飛び出すが、直人も追ってきて直ぐに追いつかれる。 ガシッと襟を掴まれて、喉が引き締められる。
「ぐふっ……ガフォッ……おま……まじで死ぬって」
流石にやり過ぎな親友にイラつきつつ、振り返ると、親友の顔は俺ではなく、何処か別の方向を向いてる。
「おい直人? 殺人未遂でお前がラーメン一杯奢りな? ……おい聞いてんのか?」
変わらず親友は俺ではなく、他クラスの授業を覗き込んでいる。知り合いでも居るのだろうか。
「てかなんでまだ授業やってんの? ここも一年だろ? 補習組? それとも問題児組?」
馬鹿――と声掛けには応じなかった癖に、直人は俺の頭に手刀を入れてきた。
「ったく……お前とここの連中を一緒にすんじゃね〜よ。どっちかと言えばその逆な?」
「ぎゃく?」
「一組だよ。ここは唯一の進学クラスってやつだ」
「進学クラス? あーなるほどな、勉強クラスね」
「そっ。だから七限授業が週に二回あるらしいな」
「ほえー」
心底どうでもいいと思った。ここ――瞑星高校は近所の五つの中学が合体した感じのごく普通の公立高校だ。俺の志望動機も「家が近かったから」だし、なにか特別な気持ちを抱えてここに来るような奴はきっと居ないだろう。
それでも一応『特進クラス』という名目の学業に力を入れたい人達向けの教室も存在する。
「なぁ、らいと?」
「……なんだよ?」
なんか今日コイツウザイな。と思いつつニヤリと笑みを浮かべる親友を睨む。
「あの子、めっちゃ可愛くね?」
なんだ女の話かよ――っと溜息を吐く。
「はいはいっ、お前も早く彼女出来るといいな」
いつもの事だった。直人は成績に関して言えば俺よりも頭がいいくせに、人より少しだけ容姿が整ってる女子を見ると、直ぐに気になってしまう馬鹿。無論童貞だ。
「いいから見てみろって」
「はいはい分かったわかった。お勉強クラスなんて男女揃って根暗な陰キャしか居ないだろ」
どうせ見ないと帰らせてくれないので、渋々指を指す方へ顔を向けると――
「え……」
「なんだよらいと、言葉も出ないくらい惚れたのか?」
「は――……」
「おいおい〜、お前いくら金髪で碧眼だからってなぁ?」
「いや……違う――」
「誤魔化さなくたって顔に出てるぞ?」
違う――そうじゃない。
確かにそこには長すぎず短すぎずの金髪に、
大きく開いた碧眼の少女がいた。
黙々とシャーペンを動かしているのでこちらに気づく様子はないが、その横顔を見て俺は驚愕して言葉が出せなかった。
「シャル……」
「え? 今なんて?」
「いや、なんでもない」
「らいとお前、さっきから凄いおっかねぇ顔してんぞ? もしかして知り合いか?」
「いや、知らない……」
「そうか? じゃあそろそろ行くぞ?」
「お……おう」
違う。俺はアイツを知っている――
でもなんで……そんな事が有り得るわけがない。
階段の方へ歩き出す親友の肩を軽く叩く。
「なぁ直登、お前はあの子の名前とか知ってんの?」
「やっぱ気になってんじゃん」
「うっせ。いいから知ってんのか知らないのかを聞いてんだよ」
「知ってるよ。確か星……」
「星……?」
「そう! 星宮だ!
「星宮妃咲希……か」
もちろん一度も聞いた事がない名前だし、俺の十五年間の人生で関わった事はないはず……なのだが。この胸のざわめきは一体何なのだろう。
「なぁらいと、やっぱお前具合悪そうだぞ?」
「……なんでもねぇよ、それよりさっさとラーメン行くぞ? 奢ればまた起こしてくれるんだろ?」
「おっ、やっとその気になったか親友くん。オレとお前の仲だしな。当然だろ?」
「はいはい分かったわかった。これからも頼むぞ親友くん」
本当に都合がいい馬鹿だな……っと呆れつつ、俺は直人を連れて商店街のラーメン屋へと向かう。
しかしその後ラーメンを食べている最中も、自宅までの帰り道も。帰宅して布団に入ってもからも。あの一組で見た彼女――星宮妃咲希という少女のことが気がかりで全く寝付けそうになかった。
小柄な体型に金髪碧眼、顔は黒板に向いていたので横顔しか見えなかったが、あの真剣な眼差し。たとえ〝転生〟して十五年の時が経ったとても、忘れる訳がない。
あの世界で魔王だった俺と、未来を誓い合ってくれた彼女――勇者シャルがあの教室にはいた。
でもそんな事が有り得る訳がない。 あの世界から消え去ったのは俺だけの筈なのに――。
「なんでお前がこっちにいんだよ……」
気づけば布団に大粒の涙が染み込んでいるのに気づいた。
この身体は前世のことなど覚えていないのに、何も悲しくなんかないはずなのに。ただ心の底から嬉しさが込み上げてきて、涙が止まってくれない。
ただ一つ分かるのはこれが〝奇跡〟と呼ばれる事象だということ。今はそれ以外で説明のしようがない。
結局最期、あの世界で魔王と勇者が結ばれることなど許されるはずがなく、俺は直ぐに処刑され、こうして転生したはいいものの、悔いが多かったのか、未だ前世の記憶を引き継いだままだ。
そしてアイツ――勇者シャルと誓った事を、『どれだけ世界に否定されようが、永遠に愛し続けよう』と誓ったあの日すらも、俺はまだ昨日の事のように覚えている。
「頼むから夢だとは言わないでくれ……神様」
そのままありったけ泣いたあと、何時かは分からないが気づけば俺は眠いっていた。
願わくばこれが夢ではありませんように――と強く拳を握りながら、昨日まで何も目的がなかった高校生活に確かな期待を込めて、俺は眠った。
これはいつかの世界で勇者だった君と、魔王だった俺との物語――。
今度こそ、俺と彼女は結ばれることができるのだろうか。
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