第7話 パトラッシュ教と4大超常現象について。
――今から28年前のこと。
世界中に多くの信者を抱える宗教団体『パトラッシュ教』の本部がアメリカのケンタッキー州にあった。この日、本部の大聖堂に教皇である『アムステルダム』はとある人物を呼びだしていた。
※英語、スペイン語は翻訳されております。
「よくぞ、我がパトラッシュ教へ入信してくれた!
舞台役者のような大仰な素振りだった。
アムステルダムがバッと両手を開いて歓迎の意を示すと――アンドレは片膝をついて
「はっ 勧誘して頂きありがとうございました。あの時、聖下はおっしゃいました。ダンジョンの謎を解け明かすことが世界平和に繋がると……。私が探索者として得た知識が人の役に立つと……。」
「……う、うむ。そうであったな。」
「あのお言葉で、私はやっと気づいたのです。自分の愚かさに、そして聖下の偉大さに。私は今まで自分のことしか考えていなかった。だというのに、聖下は世界全体のことを考えて、こんな愚かな私にも道を示してくれました。力を貸すのは当然でございましょう。」
アムステルダムは満足げに何度も頷きながら、
「そなたの高潔な精神を神は見ておられるであろう。」
と優しげな顔で語りかけた。
「死んだ妹も見ているでしょうか?」
「もちろんだとも! 天国よりきっとそなたを見守っておる。」
アンドレは妹との楽しかった日々を想起して、涙を流して鼻水をすすった。
「一昨年だったな……。世界に二つのゲートが発生して超常現象が多発する様になったのは……。」
アムステルダムは顎を撫でつつ、思い出したかのように語った。
彼の言葉通り、アメリカと日本には異世界へと繋がる黒い渦状のゲートが発生していた。研究者たちの話ではゲートを通して魔素という未知の物質が此方の世界へと流れ込んできているらしい。
「そして、そなたが去年ダンジョンダイヤを発見して以来『4大超常現象』は綺麗に消えてなくなったな。」
4大超常現象とは【紫電の落雷】【鮮血の雨】【赤紫の震動】【黒風の嵐】を指す。アンドレがダンジョンダイヤを発見するまでの一年間、世界中で猛威を振るい多くの人たちを苦しめた災害だ。
「はい、ですが失ったものは戻ってきません。アラバマ州に住む、私の妹は黒風の嵐の被害を受けて……。」
「そうであったか。あの州はハリケーンの通り道であったな。」
「ええ、ですが・・黒風の嵐はハリケーンよりも更に規模が大きく、あらゆるモノを引き込み巻き上げては黒い風にてバラバラに切り裂いたと聞いています。」
「
「………。」
場は沈黙した。
アンドレは何と返していいのかわからなかった。
アムステルダムはごほんっと一つ咳払いして再び優しく語りかけた。
「到着したばかり疲れも溜まっておるだろう。部屋でゆっくり休むといい。」
「はっ 失礼します。」
アンドレは立ち去った。
すると、柱の影よりでっぷりと肥え太った祭服の男が現れた。
男は有名なお店のフライドチキンをむしゃむしゃ食べながら教皇に話しかけた。
「ほっほっほっ 実に愚直で勤勉な若者ですな~。」
「うむ、実に操りやすい奴だ。」
「彼は世界初のダンジョン攻略者! 故に世界一の有名人と言ってもいいでしょうな。雑な扱いはできますまい。」
「ああ、彼には信者を集める為にも広告塔としてしっかり機能してもらわねばならんからな。」
「4大超常現象が続いていれば彼に頼ることもなかったでしょうに。」
「うむ、お主の言う通りだな。アンドレのように家族を失った者たちは信者たちの誘いにも簡単に乗ってきおるから勧誘が楽で良かったわい。」
「本当にバカな者たちでした。どれほど祈ったところで救いなどないというのに。」
「しかしだ、そんなバカな信者たちのおかげ我々の懐にお布施が入ってくるのだから文句は言えぬよな?」
「その点だけは感謝しなければなりませんな。」「全くだ。」
「「はっはっはっはっ」」
教皇アムステルダムと司祭インディアンジョズは大声をあげて笑っていた。
インディアンジョズはチキンの骨を舐めしゃぶった後、ベットリとついた油を祭服で拭って問いかけた。
「それで、あの計画も進めるのですな?」
「ああ、私のスキルを使って計画をより完璧なものにするのだ。」
「楽しみですな。」
「うむ。」
アムステルダムのスキル『ビジョン』。
それは断片的に未来に起きる出来事の映像を見る力だ。
この日『アムステルダムの大予言』は世界中へ向けて発信されたのだった。
「驚いたわね……。邪神の加護を受けた人がいたなんて話は聞いたことないわ。国の記録にも残っていないんじゃないかしら?」
「国の記録ですか?」
「ああ、話してなかったわね。今行われている魔力測定は日本各地で行われているのよ、国の主動でね。そして毎年の記録はキチンと保管されているの。」
「国はなぜ態々、魔力測定を行って記録しているのですか?」
「それは優秀な術士や魔法使いの存在を把握しておきたいからよ。
ダンジョンの魔物と違って、ゲートの向こう(異世界)の魔物たちは
術士や魔法使いの力がなければ、まず対処できないからね。」
「あ、ああ そうなんですね……。」
僕はわかったようなわからないような返事をした。
まだ疑問はあった。でも、これ以上の質問は周りに迷惑がかかると思ってできなかった。
「おい、邪神だってよ!」
「アイツもしかしてやべぇ奴だったのか!?」
「マジかよ。俺、入学式のときに殴っちゃったよ。」
「ちっ 何が邪神の加護だ、てめぇは陰キャだろうが。
モブの分際で調子乗りやがって……。」
鋭い視線を向けている者たちの存在に、この時の明は気づいていなかった。
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