第5話 茜ちゃんからのプレゼント。
「明君。お誕生日おめでとう!」
僕が顔を洗って食卓についたところで茜ちゃんは、
ピンクの包装紙に包まれた大きな箱を持ってきた。
「ありがとう。覚えててくれたんだ!」
嬉しかった。
幼馴染の二人は毎年こうやって、両親の代わりに、
僕たち兄妹の誕生日を祝ってくれる。
「当たり前じゃん。何年幼馴染やってると思ってるの?」
「13年ぐらい……?」
「もう、何で疑問系なの! ちゃんと覚えててよね!」
「うっ ごめんなさい。ねぇ 空けてもいい?」
「うん。気に入ってくれればいいけど……。」
赤いリボンを解いてプレゼントの中身を確認すると、
黒曜石のような光沢をもった、カッコいい剣が出てきた。
「黒い……。そして綺麗な刀身。
これってまさか黒鉄シリーズなの!?」
「うん。そうだよ。」
「そうだよって......
これ、ダンジョン産の武器じゃん。
こんな高価な物はもらえないよ。」
僕は断った。…後ろ髪を引かれる思いだけど。
ダンジョンから発見された武器。
或いは発見された鉱石を使って作られた武器は、
『ダンジョン産』の武器と呼ばれていた。
この黒鉄シリーズにおいても一つ10万円以上はする高価な物で、
ウチのような貧乏な家庭には縁のない物だ。
「私は伊吹ちゃんのように剣も使えないし、
返されても困るから受け取って! ね!」
「でも……。」
僕は渋った。
この剣をもらっても茜ちゃんの誕生日に、
同等の物を返せるとは思えなかった。
茜ちゃんは、僕の思考を先読みしたかのように言葉を紡いだ。
「明君はステータスを獲得したんでしょ?」
「僕、話してないよね? 何でわかったの。」
「明君は感情が顔に出やすいからね。」
「そういや、伊吹ちゃんにも言われたな……。」
「ともかく、探索者になるのなら装備品は必須だよ!
それにやるからには上を目指さないとね。
明君が有名な探索者になった時に、
ホワイトデーみたく倍返しで返してくれたらいいよ。」
「……わかった、受け取るよ。ありがとう茜ちゃん。」
受け取ると、茜ちゃんは花咲くような笑みを浮かべた。
「お二人さん。仲が良いのは結構だけど、早く食べないと遅刻しちゃうよ?」
「「あっ そうだね。」」
僕たちは、急ぎ朝食をかきこんで支度をしたのち、玄関から飛び出した。…澪は小4のわりにはしっかりしてるよな。
僕は歩き慣れていない通学路を茜ちゃんと並び歩いていた。
「伊吹ちゃんに聞いたよ。
明君の高校でも今日、魔力測定があるんだよね?」
茜ちゃんはそう言って煌く
余程楽しみなのだろう。…まあ、無理もないか。
彼女は幼い頃『魔法少女ドジっ子マミちゃん。』とかいうアニメを観ていた。
アニメの影響を受けたせいか、魔法に対して強い憧れを持っているようだ。
「そうだよ。お互いにいい結果が出るといいね。」
「でも私、不安だな……。適正なかったらどうしよう……。」
「大丈夫だよ、きっと! 茜ちゃんなら、魔法少女になれるよ!」
「ありがとう、明君。」
穏やかな笑みだった。
僕は茜ちゃんを励ますことができただろうか。
魔力とは万人が持ってるものではない。大気中にある魔素という物質を肌から取り込めるか否かで決まるし、取り込める量についても個人差はある。……才能の有無によってすべては決まるのだ。
「それじゃあ、ここでお別れだね。」
「うん。また後でね。」
ボットン川という大きな河川が見えたところで僕たちは別れた。
茜ちゃんは橋を渡ると、反対側の川沿いの道を歩いていく。
僕の通う『はばたけ高校』と茜ちゃんの通う『聖心学園』は橋を挟んで向かい合わせの位置にあるのだ。…はぁ 行きたくないな。
僕は憂鬱だった。
「邪魔だ、どけよ!」
立ち止まっていた僕は後ろから、何者かに突き飛ばされた。
「うっ……。」
受身は取れた、怪我はない。視線を上げると、
スキンヘッドの気合いの入った男がいた。
大柄だ。骨太で筋肉質だし、身長も180を超えていた。
間違っても、僕の勝てる相手ではない。
「ふんっ。」
男は鼻を鳴らして一睨みした。
………。
そして、道端にペッと唾を吐いて去っていった。…良かった、絡まれなくて。
「行くか……。」
『はばたけ高校』は県内でも一、二を争うほどに偏差値が低い。
馬鹿高と呼ばれており喧嘩などは日常茶飯事。
酷いときは殺傷沙汰にも発展するという話だ。
僕の学力自体は悪くなかった。でも、ウチは貧乏だ、金がない。
バスや電車通なんてできやしないし、私立なんて行ける筈もない。
体力のない僕が歩いて行ける範囲にある高校はここしかなかった。
(せめて、自転車を買いかえる金さえあれば……。)
僕は川沿いの道、ギリギリを歩いていた。
一歩間違えれば、土手から転げ落ちる位置だ・・・
でも、絡まれるよりは転げ落ちた方が百倍マシだった。
僕は細心の注意を払って登校した。
川の向こう側では、聖心学園のお嬢様たちが「ごきげんよう」などと優雅に挨拶をかわして歩き、此方側では不良たちが「あんっ 何見てんだよ!」とメンチを切りながら歩いていた。
(川を一本挟んだだけでここまで違うのか……。もう帰りたいよ。)
僕はやはり憂鬱だった。
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