第54話 後日談 夢幻の杜
異能大隊東方基地 その一室 夢幻の杜の会議室
そこに夢幻の杜のメンバーの烈火と秀、紡志と巧、そして雷華が集まっていた。
ヒカリは三水との戦いによる負傷でまだ目覚めておらずここにいない
皆一様に顔が暗い
イデアの隣人と
勝てはした
だが、その被害は決して無視できる物ではなかった
「秀、被害はどれくらいだ?」
「異能大隊に所属していた超能力者と政治家の九割が死亡。特に政治家はあの時、新宿中央都市役所にいなかった人も何人か殺されている。都市の中枢が徹底的なまでに被害を受けている」
「………そうか」
「それと…巧とヒカリが敵の酸による怪我で…命に別状はないそうだが……傷跡は残るそうだ」
「……………そうか」
烈火は力無く返事をする。
それは先の襲撃の被害の大きさに起因する物ではない。
自身に対する無力感が原因である。
今回の襲撃、自分は何も成していない
ヒカリと巧に怪我を負わせる結果になってしまった
自分がしたことと言えばヘイルムと戦って負けただけだ
相性が悪かったなんてのは言い訳に過ぎない
何もできなかった
烈火にとってこのことが頭の片隅から離れることはなかった。
「烈火。ヒカリや巧の怪我のこと自分のせいだと思ってないか?」
雷華は烈火がどう思っているのかを理解していた。
烈火とは長い付き合いであったことから彼がこういう時何でもかんでも抱え込もうとするのは知っていたのだ。
「んなわけねぇだろ。二人の怪我は俺の責任だ。お前が気負う必要なんてない」
「……だが、あの時橘さんだけ置いていく判断をしたのは俺だ」
「あそこに残ったのは俺の意思だ。変に一人で責任を負おうとするな」
「烈火さん。俺のことはどうだっていい。この怪我は俺の未熟の証明だ。でも、ヒカリの怪我は俺のせいだ。俺が弱かったから」
「そんなことはない。僕が不甲斐なかったからヒカリに怪我をさせた」
烈火と雷華の話から自分たちのことに対して烈火が責任を感じていると知り、自分が弱かったせいだと主張する巧と紡志。
重たい空気になり、誰も喋ることなく時間が過ぎていったとき、ふいに会議室の扉が開く
「辛気くせぇ顔してんなお前ら!」
扉を豪快に開きながら会議室に入ってきたのは烏の饗祭のリーダー剣崎浩志である。
「浩志。お前どうやってここに来た?」
「あぁ?普通に来たぞ」
「おい浩志。そんなずかずかと行くな。あ、雷華に烈火。それで君が秀君か。怪我人たちのことは安心しな。
そして、浩志の後を追いかけるように招き猫のリーダー猫屋奏恵と堀塚純が部屋に入ってくる。
雷華は奏恵と純が入ってくるのを見るとおもむろに椅子から立ち上がり彼女たちの方へと歩いていった。
「七菜香と風間が死んだのは俺の慢心のせいだ。すまん」
そして、二人に向かって頭を下げた。
雷華の行動に二人の動きは止まる。
二人だけではない雷華と付き合いの長いものほど彼女の行動は予想外だっただろう。
「二人の死に関しては雷華のせいじゃない。私が許そうが雷華の心の中の二人が許さない限りあなたは自分を許さないつもりでしょうけど、元々あの子達は自分の死を雷華のせいにする子じゃない。だから、そんなに思い詰めなくもいい」
「……私も奏恵と同意見。謝るなんて雷華らしくない」
そう言いながら二人は雷華の肩に手を置き、彼女の体を起こす。
「そうか、ありがとう」
雷華は二人の言葉に少し安堵するように笑った。
「そういえば、入口で二人ここに用がありそうだからここに連れてきたわよ」
少ししんみりした空気入れ替えるようにそう言いながら体をずらして後ろの人たちが部屋に入れるようにした奏恵
「凛!無事だったか」
「……ん」
先に入ってきたのは烈火たちも知っている狐月凛
彼女は烈火の言葉に反応しながら会議室にある空いている椅子の一つに座る
そしてもう一人は
「失礼します」
「君は」
「どうも、西園寺瑠璃です。新宿内界の上層部の使いとして参りました」
ヘイルムとの戦いで烈火と一緒に戦った西園寺瑠璃が軽く頭を下げながらそう言った。
「なんでここに?」
ここにいる人たちの中で一番彼女と面識のある烈火が代表して対応する。
「内界ではいま、私の父含め生き残った政治家の人たちが集まって今後についての話し合いが行われています。そこで出たとある提案をしにここに参りました」
「提案?」
「はい。上層部がほとんど亡くなり、異能大隊や超能力者は以前の寓話獣の襲撃と今回の襲撃で役に立たないことが証明されてしまい、市民からの求心力が落ちた今、力が必要です。それに伴い以前からあなたが言っていた
突然の提案に烈火は言葉が出なくなってしまう。
瑠璃は視線を浩志と奏恵の方へと向け、話を続ける。
「それと、これはまだ確定ではないのですが外界でも有力なあなたた二人にも政治家になってもらいたいと言う声もあります」
これには浩志や奏恵だけでなくこの場にいる全員が驚いた。
以前まで外界のことを嫌っていた政治家の人たちが突然彼らを自分たちと同じ立場へと誘っているのだ驚かないわけがないだろう。
なぜ外界出身の彼らへこんな打診が来たのか。
それは今回の襲撃で生き残った政治家たちは以前から内界と外界の格差を問題視していたり、烈火の提案を飲むべきだと主張していた結果、爪弾きにされていた人たちであったからだ。
「返事は今すぐ出なくていいです。もしその気があるのなら第一異能機関まで来てください。それとこれは個人的なことなのですが……黒鉄刻。彼は今どこにいますか?」
黒鉄刻の名前を出した時彼女の瞳は揺れていたが幸いそれに気づいた人はいなかった。
「刻はまだここに戻ってきていない」
「…刻は戻ってこない」
少しくらい表情をしながらそう言った烈火の言葉に凛が言葉を被せる。
「刻がここにいない理由を知ってるのか」
烈火は夢幻の杜のメンバーの中で唯一ここにいない彼のことを知っているように言っている凛に尋ねた。
「……言えない。でも刻は帰ってこない。これは確か」
何も言いたくないと言いたげな凛の様子にこれ以上追求するべきではないと烈火が話を切ろうとした時
「それは、あなたと同じだからじゃないのですか?」
扉の方からまたもや来訪者が現れる。
そんな時、凛はバンッと勢いよく立ち上がる。
その衝撃で椅子が床に倒れるが彼女は気にしていなかった。
そのまま何も言わず
「……まだ、許してはくれませんか」
「許す?ふざけるな。お前たちが私にしてきたことを忘れたとは言わせんぞ。
すれ違う最中に
彼は何も言わず罪悪感と諦めが混ざったような表情でそれを受け止めた。
「おいお前、私たちが悪だと?いいかげんに………」
「ミランダ。いいんだ」
「………はい」
自分のリーダーへと態度に腹を立て凛に文句を言おうとしたミランダであったが
「それで君たちはなんのようなんだ?見たところ浩志は知っているみたいだが」
「自己紹介は後ほど。まずは、木崎錦という男を
奏恵が敵意のこもった目で
この気迫にミランダが思わず
だが、それを直に向けられている
「ねぇ。木崎って純を殺そうとした奴よね?私の仲間が殺されかけたのに敵対しないでほしい?聞くわけないでしょ」
「確かに彼に殺されかけたあなたとその上司の言いたいことはわかります。ですが、私から言えることはひとつ。あなたたちが弱いのが悪い。互いの想いをぶつけ合った結果なのでしたら受け入れなさい」
その言葉に奏恵は敵意から殺意に変わろうとした時、純がそれを止める
「奏恵。あいつの言う通り。私が弱いのが悪い」
奏恵としてはあまり納得していなかったが純がそう言うのならと敵意を抑える。
「ねぇ。前に言ってた私たちを鍛えるって話。あれ、まだ有効?」
「えぇ。そうですね」
「なら私を鍛えて」
純の言葉に奏恵だけでなく周りの人たちも驚く。
「なら俺も教えてくれ」
「じゃあ俺も」
続くように浩志と雷華も
そして、それを見ていた烈火は決意のこもった表情をしたあと瑠璃に声をかけた。
「よし、瑠璃さん。さっきの返事だが。断らせてくれ。代わりと言ってはなんだが俺の代わりに秀を入れてくれ」
烈火は秀の肩を叩きながらそう言う。
「え〝?」
唐突にそう言われた秀は口からすごい声が出る。
「分かりました。そう伝えておきます」
「と言うことでよろしく」
「ちょっ、おい!」
烈火は秀の言葉を無視し、
「なあ、それ俺も参加していいか?」
「ええ。いいですよ」
その言葉に
「あなたたちに教えるのなら名前を隠す意味ももうないですね」
そう言いながら彼は佇まいを整えて軽く一礼をする。
「改めまして、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
作者より
これで第一章『怪物たちの静かな胎動』終わりです。
どうでしたか?
今までの物語が前座というか世界観の説明兼新たな時代の始まりみたいなことを書いてきましたが、まさかここまでで50話を超えるとは思っても見ませんでした。
と言うことで18時に投稿される登場人物紹介でカクヨムの方は一旦ここで区切ります!
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