第42話 式織紡志と高倉巧の心の内
僕には自由意思がなかった。
ただただお母さんの言う通りに行動するだけ。
自己顕示欲の塊であったお母さんにとって僕は自分の地位を高めるための道具でしかなかった。
意見しようものなら、お母さんは烈火の如く怒り出し僕を殴った。
言う通りにできなくても殴られた。
でも、意見をするよりもまだマシである。
いい成績だったら周りに言いふらして自慢する。
他人を貶してでも自分の地位の保身していた。
そのせいで周りの人たちが離れていっているのを僕は理解できていた。
お母さんも分かっていたのだろう、その苛つきを僕にぶつけてくる事も多々あった。
でも、昔は耐えられないほどじゃなかった。
お父さんがいたからだ。
お父さんは作物の室内栽培を行う会社を起業し、その社長として忙しくしていたため滅多に帰ってくる事はなかった。
お父さんはとても優しかった。
それにお父さんが家にいる時だけはお母さんも優しかった。
お父さんが有名な家の三男であり、食糧を室内栽培する会社を経営しており食糧の確保が困難である内界では貴重な人材であったため、内界で暮らすことができていたのだ。
それにその家の身内、そして社長の妻であるというステータスを手放したくなかったのだろう。
だが、そのお父さんも僕が去年亡くなった。
そこからは歯車が狂ったかのように日々が崩壊していく。
お父さんの会社は部下が引き継ぐこととなり、お父さんの実家も何も支援してくれなかった。
さらにお母さんは働くことなく、見栄を張るためにお父さんが残した遺産を食い潰し、僕たちは一気に困窮した。
ようやくそれを自覚したお母さんは、支援金目当てに僕に超能力者になるように強要した。
「いい紡志。あなたは超能力者になるのよ。いいわね。私を幸せにしてちょうだい」
「…いや……でも」
「なに!?私に意見しようって言うの!?私の言う通りにしなさい!」
お父さんがいなくなって、歯止めが効かなくなったお母さんとの日々は半年間続いた。
お金が尽きかけていたため満足にご飯も食べれていない日々が続いたある日、気がつけば僕は布の形成できるようになっていた。
それを知った瞬間お母さんは急いで政府に申請した。
布を創り出した僕を見て一切褒めてくれず、欲望に満ちた目をしながら即座に政府に連絡したお母さんあの顔を忘れる事はないだろう。
前例のない僕のその力を見て、政府は対応に困ったようだが、お母さんが猛抗議をした事でなんとか第一異能学園へと入学が決まった。
だが、前例のない僕のその能力と塞ぎがちな性格のおかげで見事にクラスでは浮いた存在となり、ハズレとまではいかないがそれに近しい扱いを受け始めていた。
内でも外でも僕の居場所はないのだと悟り始めた時、烈火さんに出会った。
「君が式織紡志君かい?」
「…あなたは?」
「あっと失礼。俺の名は北条烈火という。単刀直入に言うと君をスカウトしに来た」
この人は僕をスカウトしに来たらしい。
何かの間違いかと思ったが、どうやら僕の布を創造する力に惹かれたようだ。
でも僕はどうしたらいいのか分からなかった。
自分で判断して行動したことなんてなかったからだ。
「あ、あの。お母さんに聞いてみないと」
「それじゃあお母さんの所に行ってみようか」
そのまま僕は烈火さんを連れて家に帰ることになった。
その後、烈火さんはお母さんに説明を行なった。
自分の部隊へとスカウトしたいこと、学園を辞めることになること、支援金はそのまま支払われること、待遇、給与など。
初めは不機嫌な顔をしていたお母さんも話を聞くごとにだんだんその顔に笑みを浮かべていった。
「そのために紡志君には基地にある住居スペースに暮らしてもらうことになります。お母さんの離れてしまうことになるのですけどよろしいですか?」
「はい!お願いします!よかったわね紡志!一年生でスカウトされるなんて!それもこんな高待遇で!これからはあなたが私を養っていってね?」
そのあと、できるだけはなく基地に移住してもらいたいと言うことで、荷物の少なかった僕はそのまま移住することになった。
「あ、あの!お母さんに話した内容が、僕が聞いた話と少し違ったのですが」
まるですでにある部隊であるかのような説明や自分が聞いた二倍の給料を提示していたことなど、僕が聞いた内容と一部異なっていたことに疑問を感じていた。
「ああ、あれは嘘だ」
「え!?」
「政府は超能力者確保のために生産能力のない親にはある程度の補助金が支給されるんだ。何もしなくても暮らせるくらいにはね」
「…あああの!それだとお母さんが…」
「心配しなくていいよ。それに、君の家庭環境は知っている。その上で紡志君、君も一人の人間なんだ。もっと自分を曝け出していいんだよ。すぐにそうしろとは言わない。でも一歩ずつそうして行ってほしい」
そんなことをしたらまた怒られてしまうことを危惧していた僕に、烈火さんはそう言った。
その後出会った初めて仲間と呼べる人たちとの生活は充実したものだった。
「お父さん。なんで今の会社をつくったの?」
ある日、何気なくお父さんに聞いたことだ。
「お父さんはね、家では出来損ない扱いされていたんだよ。自分の意思も弱かった。紡志にはこの性格を受け継いで貰いたくなかったな」
その時のお父さんの顔は申し訳なさそうだった。
「でもね。会社の起業だけは家族の反対を押し切って起こしたんだ」
「え、そうなの!?」
「お父さんは植物を育てることが好きだったんだ。それで都内でもできる室内栽培をする会社を起業したんだ。細々とやるつもりが空想侵略のおかげでここまで大きくなってね」
「紡志。たった一つ、一度だけでいい。やると決めた事は何があっても自分の意思を貫き通す覚悟をもちなさい」
これが僕が一番記憶に残っているお父さんとの会話
ヒカリが言っていた
「今は無理でも成し遂げたい物がある」と
僕にも成し遂げたいものはある
ずっと縛られてきた、お母さんの人形になっていた。
お母さんから離れてもこの呪縛は薄まっても消えることはなかった。
自分で判断して動くことができなかった。
でも、僕は我が儘になりたい
誰にも指図されない自分が欲しい
仲間を守れる力が欲しい
ただ何もできず守られているだけは嫌だ
守ってくれた仲間をただ見ているだけしかできないのは嫌だ
でも、人を傷つけたくはない
だから、お父さんが言っていたように、たった一度の覚悟を
独りよがりなこの想いを叶える幻を
我が儘なこの弱い僕が弱いままみんなを助ける力を!
「
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺の父親は犯罪者だった。
父は小さな飲食店を経営しており、親しみやすい人柄もあってか繁盛していた。
しかし、それも数年もすれば潰れてしまった。
父が逮捕されたためだ。
料理の一部に遅効性の毒を混ぜ込んで提供しており、それによって大量の被害者を出した。
父は毒作りに狂気的な興味を抱いており、その実験として料理に混ぜていたのだ。
死者はいなかったものの、その被害は数百と聞いている。
それ以降俺の周りから人は離れていった。
当時小学生だった俺は父親がそんなことをしているのなんて知らなかった。
だが、世間は俺を加害者のような目で見てきた。
一生の親友だと約束した友達も俺から離れていった。
いじめが無かっただけマシだろう。
そこからはまた一から人脈を築いていった。
幸というべきか不幸というべきか、俺もまた父親同様本心を隠すのが異様に上手く、自分のガタイのいい体格に合うような親しみやすい少し熱血キャラを演じるようになった。
初めは苦労したが数年すれば父のことなんて忘れて普通に友好関係を築くことはできるようになった。
だがあの時以降、俺は友達、仲間というものにとてつもないハードルを設けるようになった。
何かあれば人は簡単に離れていく。
その疑心がどれだけ親しくても知り合いという感覚を拭うことができなかった。
だからか、異能学園でハズレだと分かった時に友達がまた離れていっても、だろうなとしか思わなかった。
ハズレだと自覚した段階でどうせまた人が離れていくことは簡単に予想できたため、俺は他の超能力者の弱みを握り、ハズレのコミュニティを形成することで学園生活は乗り切った。
烈火さんに勧誘されて夢幻の杜に入り、同僚と出会った時も彼らに対して仲間という気持ちを抱く事はなかった。
俺の
でも、ヒカリだけは同学年であり、境遇を知っていたことから多少の親近感は抱いていた。
この前の寓話獣との戦闘前にヒカリを励ましたのはそれが原因だろう。
その後、
そんなある日、寝付けなかった俺はなんとなく会議室を覗いてみるとそこには本を読んでいるヒカリがいた。
「巧、どうしたの?」
ヒカリも俺がいることに気づいたのか声をかけてくる。
「いや、寝付けなくてなんとなく会議室覗いてみたらヒカリがいて。…それより、なんの本を読んでいるんだ?」
「ああこれ?指揮官になるための本よ」
「なんで自分の部屋で読まないんだ?」
「自分の部屋だと頭が働かなくてね」
「…そうか」
少しの間静寂な時間が進んだ。
ヒカリは本を読み進めていくのをみて、俺はどうしようか迷っていた。
「巧、あなたが本心を隠しているのは知っているわ」
「っ!……いつからだ?」
何気なく言われたその言葉に、驚くなという方が無理があるだろう。
俺は上手く隠せていると思っていたため、バレるとは思っていなかったのだ。
「初めからよ。ていうか
まさか最初から知られているとは思っておらず、乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
「困ったことがあるなら私に言いなさい。何かあったら助けてあげるわ」
「………なんかあの日と立場が逆転したな」
「ふふ。そうね」
その日から俺はヒカリを他の人たちより少し上に位置付けらようになった。
さっきヒカリは言っていた。
成し遂げたい思いがあると。
俺はヒカリがその想いを成し遂げているのだと思っていた。
でも違った。
彼女は想いを成し遂げたのではない。
その想いのために進み続けることを決意したのだ。
俺はあの日、初めて友達が離れっていた時から自らより近い関係を築こうとはしなかった。
向こうから近づいくるのを待っていた。
自分から近づいてまた離れていかれるのが怖かった。
でも、ダメなんだ。
友になるためには自分の胸襟を広げないといけない。
それで去る人がいてももう気にしない。
偽りの自分を見てくれる100の観客より曝け出した自分を認めてくれる一人の友がいればいい。
そして、ヒカリには初めての友達になって欲しい。
だから、彼女が死なないために
想いを、力を!
「
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