第10話 超能力の根幹の力


「全員の自己紹介も終わった事だし、まずは俺たちの部隊『夢幻の杜』の初期の活動内容について教えようか」


 烈火の自己紹介が終わった後、秀がそう言った。


「と言っても初めの数ヶ月は活動らしい活動はしないんだけどね。みんなにはその間訓練をしてもらう」


「「……え」」


「ちょっと待ってください!」


 そう言って勢いよく立ち上がったのは森宮ヒカリだ。


「私が聞いていた事と違うのですが」


 そう言っているヒカリの目は怒りに満ちている。


「新宿の外での調査のことだろう?それは最終的な活動だ。今の君たちがやってもすぐに死んでしまう」


 そう口にしたのは烈火だ、烈火はヒカリを諭すような口調でそう答えた。


「そんな事ありません!私だって寓話獣の一匹や二匹……」


「ヒカリ。寓話獣フィクートを舐めないほうがいい。クロですら舐めてかかると痛い目に遭う」


 ヒカリの言葉を遮る様にして烈火が言った。


 その口調は先ほどと違い少し怒っているような口調である。


「…それは、私が弱いからですか」


 その言葉を聞きヒカリはギリッと歯を食いしばりながら、悲しみを堪えるように震えていた。


「あぁ弱いよ」


 烈火はそんなヒカリに対して躊躇う事なくそう言い放つ。


 その言葉を聞き、目を潤ませていたヒカリであったが次の一言でおさまった。


「内界の超能力は全員弱い」


「……え」


「もう一度言おうか?たかが超能力の力を得たからって満足している奴らなんて俺としては一般人とそう変わらん」


「…それって、…どういう」


 さしものヒカリもさっきの言葉に怒りなんて霧散していた。


 今あるのはただただ困惑だけだ。


 ヒカリだけではない、巧と紡志、刻も困惑していた。


 いや、他の三人と比べたら刻はまだ混乱が浅いだろう。


 何故なら初めて聞いたことではないからだ。


 『そんなのお前たちが勝手に決めつけて視野を狭めているだけだ。本来はもっと自由なんだよ。超能力なんてその一部にすぎねぇ』


 以前、寓話獣〈インヴィジブル〉と戦った時に頭の中から聞こえた声が言っていたことだ。


(おそらくこの声の主は烈火さんと同じく何か知っている可能性が高い)


 刻が声の正体を知りたいもう一つの理由となった。


 そして、そんな刻を見ていたものが二人。


 まず烈火


(あれが薫さんの息子か。秀から事前に話を聞いていたが、反応が薄いな。元々知っているのか?それとも秀の言っていたようにもう一つの人格に教えてもらったか?)


 烈火が秀から刻が記憶喪失であること、刻のなかにもう一つの人格がいるかもしれない事を事前に教えられている。


 そしてもう一人


(彼、たしか黒鉄刻といってた。他の人と違って反応が薄い。と言う事は彼も私と同じなのかな)


 最後に彼女、狐月凛はそんなことを考えていた。



「超能力なんて本来の力の一部分でしかないって事だ」


 烈火の話はまだ続く


「なんでこの…、次元門クラックゲートができてから現れた不思議な力が『超能力』って呼ばれているか分かるか?」


「……い、いえ。分かりません」


 ヒカリは少し考えたが分からなかったため素直にそう言った。


「超能力っぽい力だったからだ」


「…えーっと」


「今しょーもない理由だと思っただろ?その通り。ただ『超能力』っぽいからって理由でその名で呼ばれるようになった。でも今はな、そのしょーもない理由でつけられた『超能力』っていう名の固定観念に縛られてるんだ。お前たちは実感しているはずだ。超能力という枠組みによって能力の良し悪しが決まることを。お前たちは同じ超能力なのに他とは違う。それが他より優れているのならまだいい?でもお前らの超能力は他よりも劣っていた」


 その言葉に凛以外がぴくっと反応した。


 ヒカリも紡志も、そして自信満々な表情をしていた巧だって苦悶の顔を浮かべていた。


 刻は同じような境遇の人が纏められたのだろうと思った。


「それがどうしたと言うのですか。私たちのような能無しは普通の部隊に入れたくないからここに押し込まれたって事ですか」


 そう言ったヒカリの目は涙で溢れていた。


 巧もまたヒカリほどでないが烈火に向けて厳しい目を向けている。


 対して紡志はすこしオロオロとしており、刻と凛はあまり反応することはなかった。


 他の人と比べ超能力の才能が劣っている。


 この三人は第一異能機関に通っていた時、他の人たちからその事で揶揄われた経験があった。


 劣っていたため成績も悪く、異能大隊にも入らないかもしれないと思っていた時、夢幻の杜に勧誘された。


 自分には縁のない話だと思っていたためとても嬉しかったが、いざ蓋を開けてみれば劣等生を押し込むための部隊かもしれないと知れば批難の目を向けるのも無理はないだろう。


 しかし、それは時期尚早であった。


「待て待て!早とちりしすぎだ!先に結論から言うと、お前らは他の超能力達より何倍も強くなれる素質を秘めている。だからこそ夢幻の杜に勧誘したんだよ」


「「「「……え?」」」」


 これには三人のみならず刻も驚いた。


 劣等生というレッテルが貼られていた彼らが、超能力の何倍も強くなれる素質を秘めていると言われても、素直に納得することなど到底できなかったのだ。


「他と劣っている。それはお前たちの力が超能力じゃなく、俺と同じ夢創者クレアだからだ。紡志の力を思い出してくれれば分かるが、似ているものをとりあえず同じカテゴリーに入れているだけなんだよ」


「ぼ、僕の場合は他とあまりにも違いすぎて先生たちも匙を投げたたんですけど」


 そう言いながら苦笑する紡志。


「超能力が他の人より劣っているから烈火さんと同じ夢創者クレアなんですか?」


 そう聞いたのは巧だ。


 ヒカリはまだ呆然としたままである。


「うーん。そこら辺はよく分からないんだよな。俺も浩志たちから夢創者と超能力者の違いについて聞いただけだし、あいつも経験則で判断してるって言ってたし」


「あの、浩志って誰ですか?」


 巧以外の人も気になっているのかこちらに耳を傾けている。


「浩志は外界にある烏の饗祭ってグループのリーダーだよ」


「…烏の饗祭って新宿の外界に君臨する三つの大グループのうちの一つじゃなかったですか?」


「おお、よく知ってたな巧。そうだ、そのグループだ」


「…いやいや、何で外界の人と交流があるんですか!?それも結構なビッグネームの人と!」


 巧にとっては結構驚きがあったのか椅子から勢いよく立ち上がりながらそう言った。


 内界では外界の情報はほとんど入ってこないが、それでも外界に君臨している三つの大グループの存在とその長の名前は内界でも結構知られているのだ。


「頑張った」


「頑張ったでできるものでもないでしょう!」


「まぁまぁ巧君落ち着いて。烈火の人脈の広さは今に始まった事じゃないからね。これも烈火の努力の成果だよ」


 そう、いくら烈火の人脈が広いからと言っても、初めからそうではなかった。


 地道に努力して烈火は今の人脈の広さを築いてきたのだ。


「よせやい。照れるじゃねーか」


「照れてるのならそのニヤけ面どうにかしろ」


 秀に褒められた烈火は言葉とは裏腹ににやけていた。

 それはもう盛大に。

 そして秀にバッサリと切られた。


「さてと、ちょっと話が寄り道しちまったから話を戻そう。えーっと、ああ、夢幻ヴィジョンの説明がまだだったな。これも結論から言おう。夢幻ヴィジョンってのは想力オドを消費する事で、己のイメージによってこの世に顕現した現象のこと全般をいう。超能力とかで出る火とか水も夢幻の一部だな」


 烈火は話を戻した後そう告げた。


「それじゃあ超能力も夢創者クレアになるのでは?それに超能力で何か出す時にイメージやその想力オド?が必要なんて聞いたことがありません」


 そう質問したのはヒカリだ。


 その質問が来ると思っていた烈火はすかさず返事をする。


「超能力ってのは少し特殊な立ち位置でな。『大衆観念たいしゅうかんねん』って言う、まぁ多くの人から集められたイメージが集積して生まれたものなんだ。だから何も考えなくても操れる。でもな、その代わりとして出力が常に一定なんだ。…そして、想力オドというものは次元門クラックゲートが開いた事によってこっちに流れ込んできた夢幻ヴィジョンの源だよ」


 次々と出てくる新しい情報にみんな頭がパンクしそうであった。


「…ちょっと聞きたいんですけど」


 軽く手を挙げながらそう言ったのは刻だ。


「何でそんな詳しく知っているんですか?内界でも烈火さんくらいしか知っていないんですよね?」


 そう刻は質問した。


 刻だけではない。


 まるで全てを知っているかのようにすらすらと回答していく烈火にみんな大なり小なり疑問を抱いていた。


「うーん。なんて言えばいいのか。……まぁなんだ、俺も実はあんまり分かったないんだけどな、。ある日突然な」


 刻の質問に対して烈火はそう答えた。


 その答えにみんな頭の中で疑問符を浮かべる。


「うん、大体そんな反応だろうと思ったよ。でもなそうとしか思えないんだ」

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