第134話 破壊
ーーーーゴイン。
と、瘴気が渦巻く中心から盛大な音が鳴った。
ついでにアステールも蹲っている。どうやら、投げた翡翠が後頭部に直撃したらしい。
言い訳をすれば、決して頭を狙ったとかでは無い。断じで!
「おかしい、意気揚々と投げたのに」
「•••••フィー、それ、なんか違う」
「え?じゃぁ粉骨砕身の力で?」
「うん、もういいや、それで」
フロースに深々と溜息を付かれたのは何故かーーーー解せぬ。
だけど、浄化は上手く行っているようで、アステールの足元に転がった翡翠が、グングンと瘴気を吸い込んでは、清浄なる空間を広げていく。
何処かの掃除機、若しくは空気清浄機みたいな文句だけど、吸引力は今の所大丈夫そうだ。
私達が居るだけでも瘴気は浄化されるものだけど、このーーーーまるで、濃縮された感じの瘴気は、それだけじゃ追い付かないと思ったので、広範な対応も出来そうな小細工をしてきて正解だった。
私の血の力は強い。皆して、私が怪我をするのを嫌がる訳だ。
与える影響が半端ない。
「忌み地を見て、もう猶予が無いな、とは感じたけど。ご本人様も、これだけ溜め込んでいたなんてね」
「神が浄化の力に苦しむを、見るとは思いませなんだ」
私の呟きに、こんな時でも装いに隙がないディオンストムが、艶のある声を些か掠れさせて答えた。
アステールは、グオォォォと唸り声を上げて、口からも黒い瘴気を吐き出している。
口汚く罵る言葉も、血走った瞳が憎悪に燃えて私を睨んでも、その願いは叶わない。
「この世界をーーーー器を寄越せぇぇ!!俺のモノだ、俺の俺の俺のーーーー」
欲しいと絶叫する。
それは強烈過ぎる渇望。
「フィア様今の内にーーーー」
そうだった、私には感傷に浸る前に、するべきか事がある。
ロウの冷静な指摘に頷くと、三界の杖を顕現させた。
ライディオス兄様をチラッと見れば深く頷いてくれる。思いっきりやっても良いとのお墨付きを貰った。
「フロース、どんな花が良いとおもう?」
「うーん、アスターがポポで、蒲公英だからなぁ。シロツメクサなんてどうかな?」
「なる程、あれも中々しぶといですし、姫様、フロース様の仰る通りで宜しいのでは?わたくしの方も準備は出来ておりますので!」
うッ、綺羅らかに発光しているわ。
無駄に眩しいメルガルドを直視してしまって、チカチカする目を擦ると、ライディオス兄様に赤くなるからと止められる。
背後のサジルごと瞬時に移動するなんて、相変わらず器用だ。
「して姫様、ポポの様な綿毛の器にするのですか?」
「パヤパヤで、モフモフ可愛いは譲れないのですよ!!」
フム、と思案顔される。
神を原材料にして、新しく妖精を生み出そうと言うのだから、彼の了承もあったほうがいい。
ポポの時は意図した訳では無かったので、メルガルドに認知して貰ったのは契約後、再開して、暫くしてからだ。
それまでは、存在が曖昧だったんだよね。
今では立派な妖精だ。多分。
元が神なので、普通?とちょっと違うけど。
聖霊には個体差はあるが、寿命がある。
ただ、統べる王ーーーーメルガルドには無い。あるのは神と同じ、消滅だ。
限りある命に憧れる事もあったらしいとは、随分前に聞いた事があった。
「ーーーー少しは、考える事も出来ましょう。寿命を持つ者として」
伏せた睫毛の先が震えた所為で、メルガルドの表情が分かりづらい。
遠い昔を思い出しているのだろうか。その声には切なさが滲んでいた。
「じゃぁ、いくよ?」
遠慮無く三界の力を奮う。
破壊の力と恐れられるものだが、アステールの抵抗が凄まじい。
一瞬だけど、空間がグニャリと撓んで、冷や汗が出た。
ーーーーちょっ、アステールの取り戻した力なんて、微々たるものだけど、上手く掴めずに苦労する。
問題無いと、ライディオス兄様は言うけど、これが経験の差ってヤツでしょうかね!?
鰻を捕まるのに手こずるイメージ。
こっちは破壊し尽くしてはいけない微妙なラインを狙ってるのだから、遠慮は要らなくとも、匙加減が難しい。
「せめて、意識が無い状態ならば、やりやすいのだけれども」
そう言った次の瞬間、私は瞠目した。
「•••••え!?」
先ず驚いたのは、技芸の膝蹴りがアステールのほっぺたに吸い込まれた。ここが土の上なら、吹き飛ばされた御仁の周りからズサササーっと土埃が舞ったと思う。
次に、ロウが魔法陣を展開させた。大胆にも新しく考案した魔法陣の実験をするらしい。ここなら多少の失敗も地上への影響が皆無で済むとか何とか。
どんな効力が?とは聞けなかったけど、サジルが遠い目をしてたので、きっとエゲツないモノなんだろう。
フロースは蔦で縛っているし、カリンはそのタイミングを見計らって、連続で殴打している。何処かで見たような形だ。
ねぇ、誰かカリンに格闘ゲームの技でも教えたの?
ーーーーあ、技芸がそっと目を逸した。
ディオンストムは御老体とは思えぬ俊敏さで、レイピアをアステールの影に突き刺す。
そこにメルガルドが聖霊の輪を掛けて、私を促した。
グアアア、とアステールの断末魔が空間に轟く。
そこに転がる身体を、数本の腕が指し示す。
「「「「「「どうぞ!!」」」」」」
ーーーーあれ、真逆トドメ刺して無いよね?
アステールって、武勇に優れた印象があったのだけれど••••もしかして、投げた翡翠の当たりドコロが悪かったとか!?
私はちょっぴり塩っぱい顔をしながら、勢い良くアステールの神核を砕いた。
砕けた欠片が十四個。そにうちの一つに罅が入り、ピシッっと硬質な音を立てる。
心の核では無い事に安堵するも、この時、瘴気とは別の禍の渦が欠片から発生した。
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