第56話 ライディオス兄様
「ほら、フィア、口開けて。ん、良い子だ。果物ばかりじゃ無くて、パンも野菜も食べないとダメだろう?」
「次は、豆のペーストを塗ったやつにするか?チーズも一緒に。シフォンケーキは後でな」
メルガルドが持って来てくれた、公爵家のシフォンケーキがススッと遠ざかる。
先程からずっとこの調子で、私は世話を焼かれている。いい加減、ラインハルトの過剰摂取で糖尿になりそうなので控えたいのですが。
背後にもラインハルト、右隣りにもラインハルトーーーー長兄で時空神のライディオス兄様だ。
目前のロウに視線を向けて、訴えるが、済まなそうに眉を下げるだけで、この状態を何とかしようとはしないみたいだ。
大まかな説明は聞いたけど、本当に神様って何でもアリにしてしまうよね。
私を膝抱っこしているラインハルトはーーー一時空神の兄様でライディオス。
右隣りのラインハルトはカスタリア帝国の前身だった、カスタリア王国の時代の王子の身分を持つ、人間だった。
私はロウの説明を思い出す。
『貴女の側近を人間から選ぶと創世神様が仰ったので、ライディオス様が宿る人の子の器として、カスタリア王国の産まれて間もない王子を見付けたのですよ。命の灯火が消えゆく、ラインハルト王子を』
そして灯火が消え、離魂する寸前に時を止めた。
その時、王と王妃と、どの様な話をしたのか、詳しくは語られていないけど。
ーーー魔女が暴れる寸前の時。予測出来る災厄に対応する為にも、人として神の力を与えられた立場が必要でもあったのだと。
因みにロウは歴としたジンライ帝国の皇子で、時空神が加護を与えた初めての人間だったんだって。
一体どんな出会いをしたのかが、気になる所ですな。
赤子のラインハルト王子の魂は時空神の加護を与えて、王妃に戻したらしい。次に授かる時にはその魂が宿る様にと。
以後、その血筋が続く限り加護は受け継がれている。
ラインハルト王子の器にライディオス兄様の力を注いで、肉体は息を吹き返したけど、神が宿った我が子の肉体をどう扱ったら良いのかわからないその時の王が、大神殿に預けたんだって。
王位の継承権は放棄、王族籍だけは残した状態で、神殿にいる方が兄様としても都合が良かったみたいだ。
このライディオスとラインハルトの関係は天界サイドを除けばカスタリアの皇帝しか知らないらしい。
それはそうだよね。こんな話、トップシークレットどころじゃないし。
魔女が暴れる時代でもあったから出来た力技らしいけど、実際に東西で人として活躍してるんだし、二人が居なかったら世界はどうなっていたかわからないよね。
そして、その功績を持って側近へと取立てられたっていう建前も出来た。
複合的な理由があったにせよ、ヘビィな時代だったんだね。
「ライディオス兄上が変な女に惚れられたのが原因だもんなー。一番の理由がフィアちゃんの側近になる事であっても、あの時は、神が人の世に干渉して助けられる最善の方法でもあった訳だしな!」
魔女と戦うは人。その人間に力を与えただけ。
「屁理屈を捏ねただけ、とも言うけどね、やがて地上に降りたりするフィーの側に居たかった、が、九割じゃない?あのままだと無理だったし」
カーク兄様もフロースもある意味、容赦が無いよ!?オブラートはどこにあるの?パイ生地でも可!
「でもーーーどうして黙ってたの?」
そう、これが一番の謎なのだ。
「どうせくっだらない理由じゃないの?仮面を付けた状態でも、分かるって、実感したかったんじゃないの?」
フロース、さっきから厳しいですね。
「ーーーそう言えば。ラインハルトと共に、側近としてフィア様へ、初の御目通りした時を思い出しましたよ。あの時はまだ、時空神としては仮面を付けていましたからね。強すぎる力を抑える為に。対になるフィア様がまだ幼く、全てを与えられた神の力を、鞘として抑える事が出来ませんでしたから」
「ああ、そう言えば!あったな、そんな事。側近のラインハルトとして頭下げる兄上に、『にいさま、なにしてるのー?』だもんな!素顔をまだ見た事無いくせにさ、わかっちゃったんだよなー、フィアちゃんってば。俺だって兄上の素顔なんて、ラインハルトの顔を見るまで忘れてたくらいだ。それにしても全く同じに成長したもんだ。元は人の子のだったんだろう?」
「俺の力が宿った時点で、俺になる」
よくわからないけど、そうなんですね。
「じゃぁ、二人が同時に別の動きしてるのってどういう事?」
これはどうやってるの?分身の術?
これって実はメルガルドも良くやっている。今本人は、天界で残りの用事を片付けて来ると言っていないけど。
「メルガルドの術とは違う。ラインハルトに俺の核を入れて、双方で繋げている。だから両方とも俺だし、別の行動も出来る」
よくわからないけど、同時進行?なんて、そんな事できるんだね。
「フィーは、あんまり驚いて無いね」
驚いておりますともー!コンビニの扉が自動ドアだと思ってたのに、手動ドアだった時の衝撃くらいに!
だって、神話からみても、父様、母様達は兄妹だし、アレコレ摩訶不思議も不思議だらけで、聞けば私とライディオス兄様はちょっと特殊な産まれかたをしたみたいだし。人間の常識なんてそこには無いんだもの。驚きの連続、神様不思議あるあるだよね。
「驚いてるよ?今は、まぁ良いかな、で落ち着いちゃったけど」
言ってる事が理解出来ない訳じゃないからね?!
気にしたら負けると思うんだ!
まあ、私的には、ライディオス兄様とラインハルトで、これをお得と考えるか、過剰と捉えるかの方が問題ですね。
心臓も複製出来ないかしら。壊れる確率が急上昇してるし。
うんーーー美し過ぎるって罪だよね。
「それで、フィリアナの中に魔女はいたのですか?刺激してしまうかも知れないリスクを負ってまで確認したかったのでしょう?時空神として」
ロウの問い掛けに答えたライディオス兄様の言葉に、せっかく持って来てくれたシフォンケーキがフォークからポトリと落ちた。
その後、ライディオス兄様は時間切れだと言って帰ったけど、フッと空気が軽くなった様な?
そう言うと、フロースがコクリと頷く。
「当たり前だろう?ライディオスがいたんだから。さっきは仮面外していたし。力の強さが半端じゃないの。
だからラインハルトの存在を必要としたんだから」
「大神殿の神域結界は、この地上の何処の神殿よりも強固ですが、流石に長時間は厳しいのですよ」
じゃぁ、私はどうなんだろう?ライディオス兄様と同じ、全ての力を与えられた女神。ライディオス兄様の対としてある存在。
「今のフィーはへっぽこだし、そうじゃ無くても、創世神様がこの地上をフィーに、って言うくらいだからね。フィーの力はこの地上にとっても特別で、受けが良いんだよね」
だから、へっぽこ言うなし!これでも傷付いているのですよ。
へっぽこじゃなかったら、ディオンストムが言っていたカラクリを証明する事だって出来たかも知れないって考えると、あ、凹む。
「今は出来る事を頑張るしか無いんだよね、もどかしいけど」
「だから、僕達もいるんでしょ?フィア。あのフィリアナって子はさ、かなり癖がありそうだけど、皆んなも付いてるんだし、上手く行く事を思い描いてやっていこう?」
「しかしなぁ。兄上が言うに、魔女の自我はもう無くて、魂の欠片もあのフィリアナって子に、ほぼ同化してしまったんだろう?なら、あの娘が魔女になってしまう可能性もあるんじゃ無いか?ーーーロウ?」
カーク兄様に問われたロウは、苦いものを無理に飲み込んだ表情で頷いた。
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